2009年春夏JFW 東京コレクションウィーク考察
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第7回東京発日本ファッションウィーク(以下、JFW)が、東京ミッドタウンを主会場に9月1日から7日にかけて開催された。経済産業省の後援などを受け、官民一体の体制が整備されてから丸3年、日本のファッションビジネスの国際競争力強化を掲げるも、まだまだ改善する余地は山ほどある。しかし一歩ずつ着実に前進しているという印象だ。今回は、JFWのメインイベントである東京コレクション(以下東コレ)にスポットを当て、その現状と課題を考察する。
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まず、誤解を避けるため先に説明すると、JFW発足以前にも東コレは存在していた。その起源は80年代まで遡るのだが、本稿ではスペースの関係上、詳細は割愛する。2000年代に入ると東コレの発信力の低下が目立ち、会期はなんと一ヶ月以上にも及んだ。これは欧米のコレクションなどと比較しても異例中の異例で、海外だけでなく国内の関係者からも 「オーディエンスを無視した状況」と問題視され、“村祭り”“内輪盛り上がり”的な印象は否めなかった。
そんな中、JFW発足により、会期が1週間と区切られたことは評価すべきことと言えよう。東京で活躍するデザイナーブランドが全て集結するわけではないのだが、37ブランドが参加した今シーズンの東コレには一万七千人以上が来場し、そのうち海外バイヤー・ジャーナリストは231名に及んだ。
とはいえ、世界における日本のファッションの存在感を高めるという視点では、まだまだ楽観視できない。世界の4大コレクションと言えば、パリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンだが、東コレがその4都市に並ぶ必須訪問都市として認知されるのは、クリエイションレベルの問題は置くとしても、地理的な条件が非常に悪い。そもそも、その4都市のコレクションでほぼ2ヶ月間のスケジュールが埋まっている現状では、日程的にも入り込む余地がない。著名なバイヤーやジャーナリストがこれ以上オフィスを空けて、年2回はるばる東京へやってくるというのは、どうも現実的には想像しがたいのだ。
そこでJFWとして取るべきポジショニングは、この世界4大コレクションとは別の次元での影響力を持った都市ということになる。すなわち地理条件を逆手に取った意味付けと、対欧米を意識した東京らしいクリエイションの魅力強化だ。前者については、JFWのビジョンに「世界にむけた新人デザイナーの登竜門に」とあるように、アジア圏での東コレの求心力を高めるという施策だ。バイヤー・ジャーナリストにとっては、東京を訪れればアジアのファッションがわかる、という注目スポットとなり、一方のデザイナーにとってはアジアマーケットでの事業の糸口が掴めるという場所になる。
そして後者について、まずはっきりさせておく必要があるのは、東コレのトレンドは、世界のファッショントレンド、―パリなどから発信されてピラミッド型にマスマーケットに落ちるトレンド―、とは、全く別のところで動いているということだ。東コレから世界トレンドを見出だそうという考えはちょっと止めておいた方がよいかもしれない。長年東コレをウォッチしているファッションライター安田晴美氏によれば「日本のデザイナーたちの魅力は、色気よりもかわいさが基本コンセプトであること。アンチセクシーなテイストが根強い」。欧米で求められる成熟した美しさよりは、はかなげで無垢、子供のようなピュアさを志向するデザイナーが多いという。逆に言えば、“女はセクシーであれ”といった既成概念にも、洋服の歴史が長い欧米での、いわゆる服装ルールにもとらわれていないということだ。安田氏の言葉を借りると「B級的な外し」といった、西洋スタンダードのデザイナーからは到底生まれ得ないアイデアが飛び出すこともある。
海外であればトレンド影響力のあるデザイナー、新しい価値観を投げかけていくことのできるデザイナーが評価されるのだが、トレンドという観点を超越した東コレデザイナーはどのように見ればよいのか。「どれだけコアな根っこを持っているか、がデザイナーの神髄を見極める尺度」(安田氏)であり、その“根っこ”が感じられる作品は、世界も無視しがたい強さを秘めているのだと言う。
◆ 注目中堅デザイナー ◆
自らのコアアイデンティティを真摯に突き詰め、作品として力強く表現している、注目の中堅デザイナーを紹介しよう
刺青のようなボディタイツのコレクションを発表して一躍注目を集めたSOMARTAはデビュー4シーズン目。まだ中堅と呼ぶには早いかもしれない。今回のテーマは未来の人間像。骨格のようなパニエで膨らましたスカートは、歩くとゆらゆら揺れ、ユニークなフォルムだけに留まらずエレガントなシルエットとして昇華されている。
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ボディコンシャスなシルエットを、黒、ネオンカラー、そしてベージュ〜茶のプリミティブな柄の絶妙な組み合わせでこなす。プリントバターンによって矯正されたモデルのプロポーションはまるでアニメのキャラクターのようにも見える。それをさらっとこなすところに、エッジィな東京ブランド代表格の力量が現れている。
写真:2
「大草原の小さな家」のローラのカントリーなドレスと「ピーターパン」のウエンディが着るネグリジェを足して2で割ったような、ノスタルジックなロングドレスがメインピース。しかし、ただかわいらしいだけに留まらないのが、このデザイナーの持ち味。中川幸夫の花のアート作品のような、血のような深紅の、花びらにも見えるフリルのドレスは、おどろおどろしさをも混在させる。
写真:3
◆ 注目新人デザイナー ◆
JFW世代とも呼べる若手も続々と登場してきている。今回の取材に答えてくれた2人のデザイナーは、どちらもエレガントな女性像を描き出そうとしているが、その表現の仕方が全く違って見える。ここにも若手デザイナーの幅が見えるようで心強い。
| MIKIO SAKABE(坂部三樹郎、シュエ・ジェンファン) |
坂部氏と台湾出身のジェンファン氏はベルギーで出会ったデザイナーズデュオ。坂部氏は2006年、アントワープ王立芸術学院を首席で卒業し、一躍注目を集めた。同学院での洋服作りといえば、単なる技術というよりも、コンセプトをひたすらに追求するアプローチを叩き込まれることで知られている。自分にとってのファッションとは何か、それを通して何を表現したいのか、ともすれば哲学的になる問いを徹底的に考え抜いて消化し、形として表現する。4年間のプログラムの中、年次を増すごとにあまりの厳しさのため生徒がどんどんドロップアウトし、最終学年に残るのは1桁、という環境を乗り越えてきた彼なのだが、印象は至ってソフト。ジェンファン氏とともに、独特な“ゆるーい”雰囲気を持っている。昨年パリコレでのプレゼンテーション形式でのデビューコレクションを経て、JFW参加の今回は2回目の発表だ。
今シーズンは60年代風レトロフューチャーを、日本が誇る合繊素材を用いて現代風に軽く仕上げた。「合繊のスポーティーで無機質なイメージを転換させて、軽いエレガンスを表現したかった」と坂部氏。プラチナブロンドのモデルたちが身につけるのは、アイシーパステルが軽やかな印象のツイードドレスやスーツ。バックスタイルがナイロンに切り替わる、素材のミックス使いにより、ポップでかわいらしいだけに留まらないエレガンスを香らせた。今回はミラノでの発表も控えているというが、この軽い東京流エレガンスが、本場でどのように評価されるのか楽しみだ。
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今回JFWに初めて参加したという中氏は、実は先の坂部氏とアントワープ王立芸術学院での同級生。卒業後、2005年にイエール・モードフェスティバル後にニットデザイナーに師事し、2006年日本へ帰国。昨年から自身のレーベルを立ち上げ活動している。中氏の作品作りにも、元アントワープ生らしいアーティスティックなコンセプト構築の姿勢が貫かれている。今シーズンは1910年代初めのロシアアバンギャルドがインスピレーションソース。社会の中で芸術の存在感が増し、アートが産業を変えてしまうほどの力を持った時代に思いを寄せた。中でもコントラクティビスト(構成主義)の芸術家、バーバラ・ステパーノヴァの作品に非常に影響されたという。彼女に代表されるロシア女性の強さを、ビッグショルダーやジオメトリックなラインに投影している。
「強さといっても直球勝負のストレートな強さではない。何度も同じ灰色を重ねて塗り上げて色を濃くしていくような、そんな柔らかさをはらんだ力強さ」と中氏が語るように、彼の作品に感じられるのは芯の通ったエレガンス。少女志向のかわいらしさが目立つ東コレブランドの中にあっては、自然とその存在感が際立ち、海外ジャーナリストの評価も高かったという。
コレクション作品について説明するストイックな印象も、今回のショー直前に誕生した愛娘そらちゃんの話になると、一転愛嬌のある笑顔を見せた。今後の活躍が大いに期待される。
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Photos: Courtesy of The Japan Fashion Organization |
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