回遊の意味の変化 -スマホ時代の商業施設-

これまでは、回遊型の購買行動が注目されていた。欲しいものは特にないが、なんとなく駅ビルや商業施設に行き、回遊している間に欲しいものと出会い、それが消費になっていくというものだ。この場合の来店動機は、買い物ではなく、気分転換やストレス解消だったりする。例えば、都心で働く女性。仕事のストレスや疲れをもったまま家に帰りたくないので、それをリセットできる場所として重宝していたのが駅ビルである。好きなファッションや雑貨が多くあり、カフェもあるので、仕事の嫌な気分を忘れるにはうってつけの場所だった。駅ビル側も、この行動を理解し、百貨店のようにフロアやゾーンをカテゴライズせず、回遊を促すような作りにすることで、滞留時間を延ばすことが成功の秘訣とされてきた。

ところがスマホやSNSの登場により、これらの行動にも変化が生じている。仕事からプライベートへの切り替えはスマホやSNSが受け持ってくれる。わざわざ商業施設に寄らなくても、自分の好きなものは手のひらの中で済んでしまう。また、スマホを見ながら歩くのは危険なので、商業施設内をぶらぶら歩かせるということも難しくなってきつつある。
商業施設全体ではなく、特定の人気のショップにだけ人が集まる現象が多くなってきた。今なら「Gong cha」などのタピオカミルクティーの店などがそうである。インスタ映えや、SNSでの人気などスマホで話題のものをリアルで消費しに行く行動である。これらの店の行列に30分から1時間並ぶとなると、商業施設を回遊する時間は無くなるし、タピオカミルクティーをもったまま館内を回遊するのも難しいし、せっかくのタピオカミルクティーをSNSにアップしたいため、そのまま商業施設を出ることになる。人気のショップを入れても、シャワー効果は期待できない。せいぜいできるのは、商業施設の入り口に人気ショップを配置し、行列をみせることで、施設が流行っていること見せて、館内へと誘引する効果くらいだろう。これからの商業施設は、消費者が、再び目的型の消費行動になり、直行・直帰することを意識して作る必要がある。

著者情報

第1ディビジョン マーケティング開発第1グループ 小売業やメーカー向け戦略策定、商業デベロッパー向けの戦略・コンセプト策定・ディレクションなどが主な業務。時代を独自に読み解く視点で執筆・講演も行なう。同社ホームページにて「太田の目」を連載中。オリジナル調査「Key Consumer Indicators by ifs」のディレクターも務める。1963 年生まれの「ハナコ世代」。あいみょんの大ファン。

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