2016.06.8 - All , FASHION ASPECT

小売業界に起きている「 業態リプレイス」の連鎖

マーケティング開発グループ

太田 敏宏

小売業や商業施設に関して、業種や業態という垣根は崩れつつある。例えば、コンビニエンスストアが淹れたてコーヒーをめぐってカフェと競ったり、ドーナツショップなどの市場を脅かしたり、大手小売企業グループがオムニチャネルを旗印にして、百貨店から専門店、GMS、コンビニエンスストアを一つに統合しようとする動きもある。近年、大きなトレンドとしてこうした動きは継続しており、とくに、ここ数年の現象として、業種や業態の垣根を超えるどころか、他の業種や業態が培って来た市場に丸ごと乗り込んでくるような現象にまで発展している。今号ではこうした現象を「業態リプレイス」と名付け、その現状をレポートする。

■業界リプレイスの連鎖図

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■旗艦店+セレクトショップにリプレイスする百貨店

近年、百貨店の新たな役割が問われ続けているが、例えば三越伊勢丹は、旗艦店+セレクトショップへのリプレイスで活性化を図っている。「イセタンハウス」(名古屋)、「イセタンサローネ」(六本木)、「イセタンサローネ メンズ」( 丸の内)など立て続けに小~中型店を出店した。これらの店舗を、“ 伊勢丹新宿本店を凝縮したラグジュアリアスなセレクトストア”と位置づけている。これらの「セレクトストア」と百貨店との大きな違いは、「ターゲットの絞込み」である。百貨店はその立地や大きさ、街における役割上、“ 万人”をターゲットに“総花的品揃え”を行う。それが集客力という大きな強みになると同時に、専門性や切り口の鋭角さが保てないという弱点にもなる。いわゆる両刃の剣的な側面が長年の課題であった。それを“セレクトストア”と堂々と名乗ることで、ターゲットも品揃えも価格帯もテイストも絞り込むことができる。セレクトショップを名乗るなら、上顧客や高感度客に特化しても、他のお客様に迷惑をかけることもない。そのためのリプレイスなのである。

201606_a三越伊勢丹による新業態のセレクトストア「イセタンサローネ」。“商品とアートの融合”がテーマ。

■SPA的色合いを強めるセレクトショップ

とはいえ、百貨店が不調でセレクトショップは好調というような単純図式では語れない。セレクトショップは、バイヤーのこだわりをフィルターとして、国内外から商品を仕入れて売る業態として誕生した。その後、仕入商品だけでは利益率が低いこともあり、こだわりの品揃えを維持しつつ、利益を確保するために、自らマーチャンダイジングを行い、オリジナル商品(PB)を開発するようになった。しかも、多くのセレクトショップが好調を維持している要因として、PBの強化を挙げている。つまり、生産から販売までを一貫して行うSPA的な方法論を付け加えることで成功しているのである。品揃えの独自性や高い粗利率、シーズンや価格の柔軟性の確保という面で、PBは欠かせない存在になっている。例えばユナイテッドアローズのマルチレーベルミックス型SPA業態「グリーンレーベルリラクシング」や、カジュアルウェアを軸としたストアブランド「BEAUTY&YOUTH」などでは、PBの比率は50%を超えている。主力業態の「ユナイテッドアローズ」では、PB比率は40%弱にとどまるものの、全社では半数近くがPBとなる。他の大手セレクトショップでもこの現象は同様とみられる。

■掘り出し物を見つける楽しさからSPAへ

セレクトショップとは価格帯も感度も違うものの、品揃え専門店の「しまむら」や「WEGO」なども年々PB 比率を拡大しつつある。ヤング向けの古着に特徴があった「WEGO」も今やPB比率は9 割。WEGOコーポレートサイトによると、「お客様が求めるタイムリーなモノを考えて追求した結果、これまでのユーズドを中心とした品揃えからオリジナルブランドを主力とした商品構成にシフトしています」という。GMSなどとは一線を画す取引形態で、安い掘り出し物が沢山見つかるという魅力で業績を伸ばしてきた「しまむら」でも、PBが半数を超えている。さらにワンランク上の高品質PB「クロッシー」の強化が、好調を生む原動力になっている。SPAの代表である「ユニクロ」も、かつては品揃え専門店だったことを考えると、これらの業態が完全なSPAにリプレイスする日も遠くないのかもしれない。

■SPAはライフスタイルブランド化していく

セレクトショップのみならず、「WEGO」や「しまむら」までもがSPA化を目指す今、SPAに死角はないのか?実はSPAも大きな岐路に立たされている。トレンドや売れ筋を追いかけて作る方式のSPAでは、他ブランドとの商品の同質化が大きな問題となっている。同じようなトレンドを見て、売れる価格帯での提供しようとすると、どうしても似たような商品になる。その結果、付加価値が減少していき、低価格化が加速する。いわゆるコモディティ化がおきてしまう。このコモディティ化を避けるために、洋服以外の品揃えを付加することで、ショップの見え方を変えようという試みが盛んになっている。例えば、サーフやアウトドアなどのテーマ性を強める、雑貨を強化してセレクトショップ風に見せるなどである。その代表例ともいえるのが「niko and …」である。旗艦店である「niko and …TOKYO」を中心に、ファニチャーや生活雑貨の強化を図り、「日本発信のグローバルライフスタイルブランド」を目指している。ファッションのSPAから、ライフスタイルブランドへのリプレイスを目指すブランドは今後も増加していくだろう。

201606_bライフスタイル提案型ブランドの「niko and ..(. ニコアンド)」。自分らしさを創造するしあわせを提供

■ファッションだけではないリプレイス

ファッション以外でもリプレイスしている業態は多い。ドラッグストアはその典型といえる。ドラッグストアの売上構成の上位は、いまや薬品でも化粧品でもない。1 位は「食品」であり、2位も「家庭用品・日用消耗品」である。ドラッグストアにとって、多頻度の来店を促すには食品の品揃えと価格訴求は欠かせない。食品の安さをフックに来店を促進し、粗利の高い医薬品の購入につなげる。日常生活品の売り場としての覇権争いをコンビニとスーパーとの間で繰り広げている。
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■フルーツバスケット!

これまでに述べたように、近年の小売業界では、まるで玉突きのようにリプレイスが連鎖しているといえる。

皆さんは、子供の頃やった「フルーツバスケット」という遊びを覚えているだろうか?鬼を1人決めて、他の人は鬼を中心にして円状に座る。鬼以外の参加者には、みかんやりんご、バナナなど、果物の名前がチームのように割り当てられる。鬼が特定の果物の名前を呼ぶと、その果物の名前がついている人は席を交換しなければならない。また、鬼が「フルーツバスケット!」と叫んだら全員が席を交換しなくてはならない。今、小売業界全体で起きていることは、まさしくフルーツバスケットの様である。従来の業態区分の中だけでトップになっても安泰というわけにはいかず、常に他業態も含めた競争にさらされるようになった。りんごはりんご同士、バナナはバナナ同士で覇権を争っても意味がない。

「効率化」「魅力アップ」「差別化」「企業の成長」を考えると、生業の中だけでは限界が生じる。その結果として、本来のビジネスモデルを替えて、成長をさせようとする動きが生じる。立地・店舗規模・顧客・売り方・取扱商品・取引形態…、自社のビジネスモデルを構成する要素のうち、どこに軸足を置くか。その軸足以外は別の方法論への変更も辞さない。こうした動きが業界全体で同時多発的に起きている。まさに今、鬼が「フルーツバスケット!」と叫んだような状態なのである。

■役割を終えようとする業態も

リプレイスの連鎖の中で、役割を終えつつあるといわれるのがGMS業態である。専門店やSPAとの競争に勝てず、ワンストップ性ではECに遅れをとる。旧来型のGMSのままでは生き残りは難しいだろう。食品や家庭用品などは、イオンのように食品・自転車・酒・ペット・ドラッグなど各売場が専門店へリプレイスし、専門性とバイイングパワーで、それぞれの業種を脅かす存在になりつつある。しかし、課題は衣料品である。SPA化するのか、実用衣料に徹するのか、シニア向け専門店になるのか、そのリプレイスの方向性が見いだせていない。GMSは衣料品抜きの専門業態集積になっていくのかもしれない。

「フルーツバスケット」では、席の交換の機会に座れなかった者は新たに鬼となるのがルール。この小売業界全体の「フルーツバスケット」の渦でいかに席を先取し、ゲームに参加し続けるかが、いま問われているのではないだろうか。