2017.04.3 - All , ビジネス

ベトナム新世代ファッションの今

マーケティング開発グループ

中塚 泰三

ホーチミンやハノイといったベトナムの大都市を訪れた人は、オフィスビルやホテル、分譲マンションなどの建設で、近年急速に変化した景色に圧倒されるだろう。そこで暮らすベトナム人の生活様式も急激に変わっており、なかでも1990年代に生まれた9X(チンイクス)世代の消費に対する嗜好や意識は、その上の世代とは大きく異なる。今号では将来のベトナム消費市場を担う9X世代に注目することで、ベトナムのファッション市場の今後の可能性を探る。

■生まれながらに豊かな9X世代の特徴

ベトナムの消費市場では近年、9X世代(18~27 歳)と呼ばれる若い世代が、上の世代とは異なる特質でその存在感を発揮するようになってきた。1990 年代生まれの彼らは、急速な経済成長のもとで生まれ、豊かさの中で成長してきた。ベトナム戦争による貧困のなかで生まれ育ち、生きることに必死だった7X世代(1970年代生まれ/ 38~47歳)や、経済成長の時代に育ちながらも世間体と家族を大事にする8X世代(1980 年代生まれ/ 28~37歳)とは、その生活意識や消費行動面で大きな違いを見せる。

9X 世代は個人主義の傾向が強く、それまでの常識や伝統にとらわれず、自由な生き方を好むゆえに“新人類”と言われる。インターネットを通じて海外事情にも精通し、SNSを駆使して情報を得たり発信することで「自分らしさ」を求め、周囲の目を引くファッションを好む傾向にある。8X世代には「Mango」や「ZARA」などマス展開するファストファッションが根強い人気だが、おしゃれに敏感な9X世代はデザイナーズブランドやセレクトショップに興味を持ち、自分だけのお気に入りを見つけるのが好きで、ファッションデザイナーなどクリエイティブな職業を目指す若者も増えている。

■ベトナムファッションの成長とともに登場した9X世代

ベトナム人がファッションに目覚めたのは、「Vietnam International Fashion Week」がスタートした2000 年頃と言われている。それ以前の多くのベトナム人は、男性なら地味なワイシャツやTシャツにジーンズ姿、女性はノーメイクにストレートの黒髪にパンツ姿で、オフィスで素足を見せることはほとんどなく、およそ“おしゃれ”とは程遠い服の着方だった。当時、百貨店も国営企業がほとんどで“ 市場がそのまま集まったような”売り場しかなく、中国から輸入された低価格・低品質の商品が並べられていた。

その後、ホーチミン市を中心に外国資本が入った百貨店が次々と建設され、売り場構成も海外の最新ブランドが占めるようになり、2005年頃からは一般市民の間で本格的にファッション熱が高まってきた。さらに、ファッションを独学で学んだローカルのデザイナーたちも活発に活動を始めた。人気歌手などが専属デザイナーを雇い、茶髪に奇抜なファッションでメディアを賑わすようになると、一般の若い女性の間でも徐々にスカートを着用したり、茶髪に薄化粧をするおしゃれが目立つようになった。

そして、ファッションや美容に対する行動や意識変革を後押ししたのが、急速なスマートフォンの普及とSNSの浸透だ。ベトナムの若者の多くは一人で複数のSNSアカウントを持つほどSNS利用率が高く、なかでもFacebookはSNSユーザーの95%以上が利用している。各小売店では自社店舗のホームページは無くてもFacebook ページは持っていて、そこからECサイトへ誘導することで、オンライン販売にも繋げている。SNSが日本以上にファッション情報の収集・伝達から、商品の売買まで活用されているのだ。

9X 世代は、インターネット経由で世界のファッショントレンドをチェックしているが、その一方で「自分だけの」「目立ちたい」嗜好も強い。SNS好きなベトナムの若者は、マイナーでも個性豊かな自国デザイナーのブランドを着こなす“自撮り”写真をFacebookやInstagramなどに投稿して、フォロワーから「いいね!」をもらうことに夢中だ。そんな9X世代と同世代のクリエーターによるファッションブランドは、世界の最新トレンドを取り入れながらも、ベトナム独自のセンスをミックスさせたどこかアジアンテイストが漂うもので、「自分だけのお気に入り」を見つけたいという彼らからの欲求に合致して売り上げを伸ばしている。

■わずかな資金で起業する9X世代ブランド

それでは、9X世代が立ち上げたブランドやショップには、どのようなものがあるのだろうか。

1991年生まれのラム・ウイ・ガンさんは、大学卒業後、外資系広告会社に勤務していたが、ある日、友人がタイ旅行に行った際におみやげとして貰ったキャンバスバックに興味を抱き、2014 年3 月にキャンバスバッグのブランド・ショップ「JAMLOS(ジャムロス)」をわずか100 万ドン(約5000円)の資金で立ち上げた。当初、運営資金もビジネス経験もない中で、キャンバスについて徹底的に勉強して、デザインから製造・販売まですべて自分で手掛けているという。そのユニークなデザインが若者から支持されSNSを通じて話題となったことでスペインの小売店との契約に結びつき、売上高も3000 万ドンにまで伸張した。2015 年10 月には、ホーチミン、ダナン、ハノイに店舗を出店するなど販路も順調に拡大している。

ベトナム新世代ファッションの今
1.わずか5000円で起業したキャンバスバッグの専門店「JAMLOS」はベトナム国内で順調に店舗数を拡大している
2.デザイナーのウイ・ガンさんは、キャンバスバッグ製作を独学で学びオリジナルブランドを立ち上げた

■カフェ併設の隠れ家のようなセレクトショップ

ベトナムにはフランス統治下時代の影響を残したカフェが数多くあり、市民の憩いの場として生活に溶け込んでいる。中でも、9X世代の創るカフェやブティックは、西洋とアジアのカフェ文化がミックスされたベトナムならではの個性的でおしゃれな雰囲気がある。あえて、古いアパートの奥に隠れ家のようにして創られているカフェは、近年の建設ラッシュで古い建物が次々と壊されていることへのアンチテーゼのようでもある。

ホーチミン市最大の観光市場ベンタン市場に程近い場所にある「LE SAIGONAIS(レ・サイゴンエズ)」は、女性オーナーのダオ・ルェ・ジュ・イエンさんが運営する話題のショップだ。古びたアパートの薄暗い階段を上って2階に上がると、いきなり大きな鳥かごのディスプレィが登場して驚かさせるが、中に入ればそこは落ち着いた雰囲気の居心地がよい空間が広がる。デザイナーである妹のジュ・アンさんがデザインする服と、オーナー自らセレクトしたアクセサリーや雑貨が並ぶ高感度なショップにカフェが併設されていて、買い物ついでにちょっと一息つくには格好の場所となっている。

ベトナム新世代ファッションの今
3.ジュ・アンさんはベトナムのファッションコレクションにも参加。“鳥かご”がブランドのキーアイテム
4.古いアパートの一角にあるセレクトショップ「LE SAIGONAIS」では、カフェメニューでもこだわりスイーツが楽しめる

■日越ファッションビジネスの拡大のために

では、ベトナム人が思う日本のファッションとはどういうものだろうか。日本のイメージといえば、ベトナム人の日常に欠かせないホンダやヤマハなどバイクを製造する工業立国であり、子どもたちにとっては大好きな「ドラえもん」や「ポケモン」が生まれた国だ。ところが、“ファッション”となるとユニクロなど一部のブランドを除けば、日本のファッションブランドなどそもそも知らないという若者が圧倒的なのだ。現在、在ベトナムの日系アパレル企業はわずか35社ほど。一方で、韓国アパレル企業は500社以上と大きく水をあけられている。韓国は国策として、韓流ドラマやK-POPを積極的に輸出することで、韓国ファッションやライフスタイルへの憧れを浸透させ、アパレル輸出を順調に拡大してきた。日本のファッションブランド側も、現状ではベトナム市場にあまり魅力を感じておらず、進出にさほど積極的でないことも、韓国企業との差を生んでいる背景にあるのだろう。

確かに、ベトナムのファッション市場はまだ発展途上段階であるが、将来的には大きな成長市場となる可能性を秘めている。ベトナムは平均年齢が30.1 歳(2017 年CIA the World Factbook調べ)と若く、経済成長に伴う収入増で小売市場が年々拡大している活力ある国だ。2029 年には、人口一億人を越えることが予想(国連人口基金調べ)されている。その中で将来の消費の担い手となる9X世代が台頭し、自らクリエイティビティの発信者になる若者も現れてきた。日本のファッションブランドも、ベトナム9X世代の消費嗜好やファッション意識の変化をキャッチしつつ新たな成長市場として捉えたり、彼らが発信するクリエーションを発掘し、その成長をサポートすることで、未来のファッション市場をともに切り拓けるのではないだろうか。ベトナム9X世代の創造する新たなファッション市場に、今後も注目したい。