2017.05.10 - All , ビジネス

「オタク」「ソーシャル」「トレース」「ノマド」、4つの消費モードがカギになる

ナレッジ室 室長

小原 直花

伊藤忠ファッションシステム・ナレッジ室では、ターゲット・アスペクトと題し、世代はもちろん生活価値観など生活者のさまざまな側面を分析している。ターゲットというと年齢など属性や趣味嗜好などからプロファイリングするのが通常の手法だが、今の生活者の、特に消費シーンはますます複雑になっており、固定的な人物像では捉えきれなくなっている。ネットとリアルがシンクロする時代だからこそのターゲットの捉え方が急務となっている。

■消費の基本姿勢の転換期

これまで弊社が発行してきた消費分析レポート『濃やか(こまやか)消費』(2014年)、『感導欲(かんどうよく)』(2015 年)でもお伝えしてきたように、2010年代に入り、インターネット、特にスマホの普及による情報量の加速度的な増大と、ライフスタイルにおける日常志向の高まりが相まって、生活者自身の日常シーンの捉え方は非常に緻密になっており、そこに求めるモノ・コトも自ずと微細になっている。

スマホによる情報の複層化は、マスメディアから一方的に発信されていた情報とはその量も質も比べものにならないほど多様化・細分化して、生活者を消費に向かわせる基本姿勢を一変させている。そのなかで最適化欲求の増幅、所有欲の減少、シェア許容の拡大、モノ・コトのプロセス共有欲求の高まりを代表的な「21 世紀型消費」と捉え、その背景を図1にまとめた。

21世紀型消費は、生活者の意識を可変・多変かつ多様・多層的なものとして捉えた上で、その意識の「一時的な形態=モード」にフォーカスする視点を前提としている。このように捉える理由は、生活環境の変化とともに情報受容やコミュニケーションのあり方において「個人の中の多様化」が進行したことで、従来のように、生活者のプロフィールや価値観を1 対1に対応させた特定のタイプとして、固定的に捉えることが難しくなっていると考えられるからである。

また、Facebook、Twitter、Instagram、LINEなどのSNSの浸透によって、従来の帰属集団だけではなく、共通する価値観や趣味・嗜好、その時の話題などによってコミュニティも固定されることはない。つまり、昨今の消費の動機が生まれるきっかけのひとつでもある人間関係や、そこで交わされるコミュニケーションも複層化が進行している。個人の中の多様な価値観がインターネットを通して他者と結びつきながら、さらに多彩に変貌を遂げていくことになる。「こうあるべき」「こうありたい」といったロールモデルも、ある特定の人物をそのまま捉えるのではなく、シーンやパーツによって対象は異なるため、それらを個々に編集しているというのが実情だ。その結果、例えば「38歳主婦、子ども2人」など、年齢などの属性が同じであったとしても、その属性から形成される共通の志向性と、各人の多様な価値観の変質によって形成される嗜好性にますます乖離が生まれている。特に消費においては、その異なる嗜好的領域からの接触が確実に増えていると言えよう。

21世紀型消費が形成された背景

■4つの消費モード、「オタク」「ソーシャル」「トレース」「ノマド」とは?

流動化・複雑化する生活者の消費意識をより的確に捉えるための枠組みとして、1人の生活者が個々の暮らしのシーンにおいてモノに向き合う際にその都度発動する「モード」に注目。その背景にあるモノに対する愛着度、モノを介した他者との関わり方、暮らしの効率化・合理化意識、モノの所有や活用スタイルの違いなどによって、「オタク」「ソーシャル」「トレース」「ノマド」の4つの消費モードに分類(図2)した。

「オタク」とは、モノが本来持つ魅力を尊重し、所有することを前提に愛着を持って使い続けていくモード。好きな世界観を築き上げるパーツが対象だ。

「ソーシャル」は、モノづくりの考え方に対し共感できるモノが意識の対象。最終目的は所有することではないが、ワークショップで手づくりするなどモノを介して人や社会との関係を開拓するモード。「トレース」は、他人の消費やライフスタイルをマニュアルとして忠実に実践する、自己承認欲求と強く結び付いたモード。

トレース結果に対し、自分が帰属するコミュニティから確実に承認が得られる=人からいいね!などと共感・評価されることが大きな動機であり、モノ自体への思い入れは希薄で目移りしがち。

「ノマド」はモノの所有にはこだわらず、むしろ所有により手間や無駄が生まれると考え、所有量を最低限に抑えることを意識するモード。シェアやレンタル、外部サービスを駆使するなど、時代や嗜好の変化に対応しやすい身軽さを保有する。

4 つのモードの中でも、SNSを介して自己承認欲求を手軽に満たすことができる「トレース」や、モノの所有に伴う労力や管理の手間などを非効率と捉える「ノマド」は、より21 世紀的モードと言えそうだ。世代傾向と対応させると、ライフスタイルを状況に応じて最適化させる志向が強いポストバブル世代(1971年以降生まれ)が「トレース」「ノマド」モードをより発動しやすい傾向がある。

消費シーンでは、上記4 つのモードがモノに向き合う意識として働いており、1 人の生活者の中で、対象ジャンルや関わるコミュニティ、シーン、タイミングによってその比重を変えながら複合的に発動するものと考えている。

21世紀型消費を形成する4つの消費モード

■4つの「モード」へのアプローチポイント

最後に、これら4 つの消費モードに効果的にアプローチする方法について考えてみたい。

「オタク」モードは、好きな「世界観」にフィットしたものを選択するため、モノだけでなく、それを維持するための専門性の高いケアなどのサービス提供も有効となるだろう。また、「ソーシャル」は、プロセスに関わる人と共有している「考え方・センス」にフィットするものを選択するため、作り手やオーナーの考え、モノにまつわるあらゆる側面のストーリーを発信することが大切だ。「トレース」は、置かれている「状況」にフィットするものを選択するため、「1歳児の素敵なママ」「好かれるビジネスマン」など、生活者がもつ「状況」とリンクしやすく、分かりやすいキーワード発信が必要になる。「ノマド」は「時間・空間の効率化」へのフィット感を求めるため、日常生活のルーティンを効率化するサービスなどが対象になる。

21 世紀型消費が浸透する中、「個人の中の多様化」が進行する時代に対応し、特定のタイプの人物像ではなく、一人ひとりが保有するモードの違いに着目し、そのモードに対するフィット感を高めることが、今後の消費活動を捉える切り口になるのではないだろうか。