2017.07.5 - All , ビジネス

モビリティと生活者・社会・ビジネスの新しい関係を探る

マーケティング開発グループ

マーケティングクリエイティブディレクター

吉水由美子

シェアリングエコノミーの進展が目覚ましい。例えばファッションでは、「メルカリ」などのフリマアプリや「air Closet (エアークロゼット)」といったファッションレンタルサービスが注目され伸長している。住宅ではシェアハウスや空き部屋シェアサイト「Airbnb(エアビーアンドビー)」が利用者を拡大、車ではカーシェアが普及し、また「Uber(ウーバー)」がライドシェアで世界を席巻している。今回はUberを例にして、モビリティと生活者・社会・ビジネスの新しい関係性を考察したい。

■新しい移動のカタチ
オンデマンドで、安く早く安全に

Uberはスマホにそのアプリをダウンロードし、作成したアカウントにログインして行き先を指定すると、今いる場所の近くにいる車が表示され、配車を依頼できるサービスだ。登録ドライバーはタクシー運転手のようなプロではないが、自家用車を使って指定の場所まで送り届けてくれる。利用者はドライバーに対するユーザー評価や、配車までの待ち時間、目的地までの所要時間、見積もり金額などを確認してから乗車。目的地に着いたら、支払いはアプリに登録されたクレジットカードでの自動決済なので、そのまま降車。またドライバーに点数(5 点満点)をつけることができる。スマホのGPS機能とアプリのマッチング機能により、オンデマンドでいつでもどこでも自分の移動手段を確保できるのだ。

私自身のUber 体験は、NYマンハッタンでの夕食後に対岸のブルックリンのホテルへ戻るに際して、NY在住者が「地下鉄よりも、タクシーよりも、安全で便利」と勧めてくれたことがきっかけだ。「安全」は、車の位置が常にリアルタイムに把握されていることを指す。ホテルはわかりにくい場所にある旨ドライバーに伝えると、番地を検索した上でフロントに電話して確認、正しい場所に連れて帰ってくれた。料金も確かにタクシーより安いし、チップはいくら払えば良いかと考えながら現金のやり取りをしなくてすむのはとてもラクだ。このお手軽感覚は、チップ文化に慣れたニューヨーカーもかなり気に入っているそうだ。また世界のどこでも、Uberのサービスが導入されているところであれば、その同じアプリが自国語のまま利用できると言う。

このようなオンデマンドモビリティという新しいコンセプトを世界76 カ国、450 都市以上で展開しているUberだが、日本では限定的な導入にとどまる。理由は、日本の現行制度では「有償で乗客を運ぶ運転手は第二種運転免許の取得が義務」だからだ。おそらくは、タクシー業界の既得権を守りたい意向もどこかで働いているのだろう。そういった状況の打開策のひとつとして、Uberと提携するハイヤー・タクシー会社のドライバー(つまり二種免許保持者)と会社所有車両をUber アプリで配車するサービスが、「UberBLACK(ウーバーブラック)」という名称のもと、渋谷区・中央区など都内の一部地域で導入されている。いわばUberテクノロジーを既存タクシー業界に提供しているカタチだ。

■社会的課題の解決に貢献
移動弱者へのサポートと、車両の稼働率のアップ

上記の他に、Uber アプリが日本で導入されている地域が2カ所ある。京都府京丹後市と北海道中頓別町だ。前者の例で言うと、京丹後市丹後町はタクシー会社が2008年に撤退した公共交通の空白地。住民は高齢者が多いため、買い物や通院のために日常の足が必要な反面、自身での運転には事故の危険も伴う、いわゆる移動弱者だ。そこで現地のNPO法人が、Uberと提携した「ささえ合い交通(通称)」を2016 年5 月に開始した。乗客はUber でNPO法人に登録した一般の運転手を探し、その自家用車で目的地に運んでもらう。国土交通省が二種免許を持たないドライバーの有償輸送を許可した、例外的な事例である。

導入から1 年経って、過疎に悩む住民からは好評だったとのこと。「家族に送り迎えを頼むのは心苦しい」「一人で出かけられて嬉しい」「免許返納のキッカケになった」といった声が寄せられたそうだ。またドライバーに対する評価も、「とても親切にしてもらった」「車内で楽しくお話できてよかった」など好意的だという。反面、高齢者ユーザーゆえのバリアもあり、「スマホを持っていない」「スマホの操作がわからない」ということで、代理でスマホアプリの操作とカード決済を行なう「代理サポーター制度」をつくったり、「クレジットカードを持っていない」「クレジットカードを使う習慣がない」という声に対して現金決済を導入したり、想定外の工夫も必要だったという。

スマホのアプリを数回タップするだけで自動車が迎えに来て目的地まで送り届けてくれて、支払いはアプリ上で完結、というUber の特徴である手軽さ・便利さから離れてはいるものの、オンデマンド輸送と自家用車稼働という本質的な価値は、むしろ踏襲できているように思う。自家用車は殆どの場合、走っているよりもガレージに停まっている時間のほうが長く、所有から使用へという価値観の流れはあるもののさほど使用されていないのが現状だ。ドライバーが既に所有している車の稼働率を上げること、そして自分の所有物と空き時間で困っている人の役に立てること、移動弱者を少しでもサポートできることは、大きな意味でのシェアリングエコノミーのコンセプトに適っているように思う。

■ライドシェアリングが生む新しいビジネス
運びたい人と運ばれたい人をマッチング、さらに物流へ

今まで述べたように、Uberは自家用車と時間があり人を輸送する意思と能力がある人と、今この場から目指すところへ移動したいニーズを持つ人をマッチングするテクノロジーだ。ドライバーにとっては車と時間が有効活用できるだけでなく、ユーザーとの会話やインタラクションを楽しむこともできるだろう。実際、上海のUberドライバーには、実は富裕層だが手に入れた高級車と時間を持て余した結果、ドライバーになっておしゃべりを楽しむ人もいると聞く。ユーザーがドライバーに払う料金からの仲介料がUberの収益源と想定されるが、輸送・運送業界にとってコストの大部分を占める人件費や車両購入・メンテナンス費は負担していない。それゆえ利用料金が安いのもうなずける。またドライバーに空き時間に働くというワークシェアリングを促している点も着目される。

さらに新しいビジネスとして注目したいのは、「UberEATS(ウーバーイーツ)」だ。こちらは、Uberプラットフォームの活用により、近くのレストランから食べたい料理がオンデマンドで届けられるサービスである。ユーザーは配車の場合と同様に、配達先を入力しレストラン・料理を検索してオーダーすると、配達パートナーが自分のスクーターや自転車(シェアサイクルの利用も可能)で届ける。ユーザーにとっては新しいレストランや料理を手軽に試せること、レストランにとっては新規顧客へのアプローチと売上げアップが期待できること、配達パートナーにとっては空き時間に収入を得られることが各々のメリットだ。

注文から配達までの時間は世界平均で34 分、保温・保冷バッグによりおおかた温かい・冷たい状態で届くそうだ。現在、利用可能エリアは都内9区の一部地域に広がっており、2016年9月に150店舗だったレストランパートナーが今年4 月には500 店舗を超えた状況から考えると、今後エリアも店舗数も拡大していくだろう。500店舗の中には有名店や人手確保の難しさから一度は出前をやめた老舗も含まれ、それが人気につながっているという。

これらが示唆するところは、Uberに代表されるライドシェアリングが人だけでなくものも運ぶことで、新たなビジネスを生む可能性があるということだ。ネット通販などの増大により、宅配や必要な場所への配達が当たり前のデリバリーエコノミーも進展中だ。反面、ドライバーの人手不足や長時間労働、その状況を改善するための配送の有料化や価格アップなどが議論されている。デリバリーエコノミーの問題がシェアリングエコノミーによって解決される可能性もありそうだ。

Uberのアプリ画面1.2.3 Uberのアプリ画面。目的地までの見積もり金額、乗車場所が確認でき、迎えに来てくれる車の状況がリアルタイムにわかる

Uberサービスプラットフォーム4. 登録したドライバーとユーザーをマッチングするサービスプラットフォーム。決済代行とカスタマーサポートも行っている

UberEATS
UberEATS
UberEATS
5.6.7. UberEATSで食べたい料理を注文すると、配達パートナーが指定場所まで届けてくれる