2017.10.2 - All , ビジネス

新時代を象徴するスタイルとなった“アスレジャー”

マーケティング開発グループ

リーテイルマーケティングビジネスユニット

山下徹也

北米市場ではすっかり浸透した感のあるアスレジャー・ファッション。2016年の米国アスレジャー市場規模は、前年比16%増の4.9兆円の巨大市場となった。市場関係者の予測では、2020年までにさらに30%増の成長を見込んでおり、未だ拡大基調にあるという。本号では米国における普及の背景やユーザーの価値観に着目しながら、今後のアスレジャー市場について考察したい。

■今の時代を象徴するアスレジャー

アスレジャーとはアスレチックとレジャーを組み合わせた造語で、ジムやヨガスタジオで着用しているウェアを、日常に着こなすファッションスタイルのことだ。ニューヨークなどの都市生活者を発信源に、すでに米国全土でスタンダードな日常スタイルといえるまでに普及している。代表的なアイテムはレギンスやタンクトップ、ジョガーパンツ、パーカーなどで、カラーリングはモノトーンやシックな中間色が多く、デザイン面でも普段着とコーディネイトしやすくバランスがいい。素材は、ストレッチ性や軽量性などを重視した快適で着心地の良いものが多く採用されている。最近のニューヨークでは、エグゼクティブ層までもがアスレジャースタイルで会議にのぞむこともあるというほど、ライフスタイルの中に浸透している。背景として、消費者の価値観が物質的な豊かさや外見的な美しさよりも、内面がより健康であることに、急速にシフトしていることも大きい。政治的にも経済的にも先行きの不透明感が強まり、予測不能な自然災害や人災・テロも多発する中、心身ともに健康な状態を維持することは消費者にとって重大な関心事だ。アスレジャーは、そんな今の時代の気分を象徴するスタイルとして受け止められているようだ。

■ヨガ人口の増大がアスレジャーを日常着に

ここ数年、米国都市生活者の間では、自分自身の内面と向き合う“内面回帰”の潮流があり、Well-being(=ウェルビーイング、身体的、精神的、社会的に良好な状態)やMindfulness(=マインドフルネス、瞑想などでストレスを軽減する心理学的治療)といったキーワードがトレンドとなっている。

アスレジャースタイルの基本アイテムにはヨガウェアが多く含まれるが、米国では90 年代のマドンナをはじめとして、これまで数多くのセレブたちがヨガを実践し、健康的で質の高い生活を消費者に提案、ヨガブームをリードしてきた。いまやヨガに親しむことは、現代の都市生活者の定番のアクティビティになっている。その結果、米国の2016 年のヨガ人口はこの10年間で2.2倍に成長し、2017年現在3,670万人に達している。実に、生産人口(15歳~ 64歳)の6人に1人がヨガに取り組んでいることになる。

さらに米国では、人間が本来持つ自然治癒力を利用して疾病を予防したり改善させる「補完代替医療(CAM)」に大きな注目が集まっている。ヨガは漢方薬などと同様にCAMに分類されており、ヨガの複式呼吸や瞑想が心身に与える影響についての科学的・医学的な検証も盛んに行われている。いざ病気になれば莫大な医療費支出を余儀なくされる米国市民にとっては、自分自身で病気を予防し、健康を守ることは、不安定な社会の中でのひとつの生活防衛手段でもある。
ヨガ人口の増大がアスレジャーを日常着に
1.東京ミッドタウンの敷地内で行われる「ミッドパークヨガ」は、今年で9年目を迎えた 
2.ウェルビーングを嗜好する女性たちに向けた雑誌『HUMING BIRDS』(発行元:メディアボーイ)は、スポーツライフを楽しみたい女性のためのファッション&ライフスタイル誌

■ユーザーとの結びつきを強めるソーシャルな価値感とコミュニティの形成

ヨガブームを背景に巨大化したアスレジャー市場であるが、北米におけるアスレジャー市場の先駆者はカナダ発ヨガウェアブランド「ルルレモン・アスレティカ(以下、ルルレモン)」だ。1998 年創業のルルレモンが登場する以前のヨガウェアといえば、Tシャツにバギーパンツといったファッション的にも機能的にも魅力の薄いアイテムばかりだった。そこにルルレモンが、身体のラインを美しく見せるデザイン性と、独自開発の高機能素材を使用したヨガウェアを発表したことで爆発的な人気を獲得した。価格はヨガパンツなら1 本10,000円以上と決して安くはない。しかし、彼らが提供するのはアパレル製品としての商品価値だけではなく、カーボンフットプリント活動(CO2削減活動)への積極的な取組みによる環境負荷への配慮、人種・性差を超えたダイバーシティな思想などソーシャルな価値も含まれており、これらが賛同を得ているものと思われる。

また、黎明期から地域密着型のコミュニティ形成によるヨガの普及にも取り組んできたことも大きな特徴だ。プロのアスリートを含めた約1500人にも及ぶアンバサダーを中心に、自社店舗や近隣施設で定期的にヨガのワークアウトイベントを開催して、“ ヨガ体験” を長年にわたり提供し続け、ユーザーとの関係を構築した。その結果、ヨガそのものやそのファッションスタイルも含めてユーザーの日常の暮らしの中に、ポジションを築くことができたのだ。ルルレモンは2008 年に日本市場からいったん撤退したものの、2017年春にあらためて本来の強みであるコミュニティづくりを重視した形で再上陸している。彼らの日本での今後の動向にも注目したい。

以上のように、ルルレモンが先駆者として開拓してきた米国アスレジャー市場であるが、今ではアディダス、アンダーアーマーなど大手スポーツブランドをはじめ、小売店までもがPB展開を開始するなど競争は激化している。しかし北米では、将来にわたる長期トレンドとしてさらなる市場拡大が期待されている。

■日本での市場拡大は業界を越えた連携がカギ

一方、日本におけるアスレジャー市場は、まだまだ軌道に乗り切れていない感がある。『ヨガジャーナル日本版』による「日本のヨガマーケット調査2017」によると、2017年3月現在の日本のヨガ人口は590万人。過去10 年間で急激に市場が拡大している。日本でもウェルビーング、マインドフルネスといった内面回帰の潮流は同様であり、このままのペースでヨガ人口が拡大すれば、それにともないアスレジャー市場も拡大する可能性は高いと思われる。

そのためには、以下の3 点がポイントになると考えられる。

1つ目は、内面回帰とはいうものの、それをオシャレでスマートな活動のひとつとしてライフスタイルに根付かせることができるか、である。特に若い女性はレギンススタイルへの抵抗感は他世代と比較して低く、新しい形での体験型スポーツイベントにも積極的に参加する傾向が見られる。最初は表面的に飛びついたとしても、体験することでその魅力を実感し、継続していく可能性も高い。ファッションと体験の両面からヨガスタイルの魅力を体感した彼女達が、今後の市場を大きくすることが期待されている。

2 つ目は「男性ヨガ人口の拡大」だ。日本ではランニングと併用し体幹を鍛えるために男性の参人が増えてきている。天候に左右されるランニングよりも、いつでも参加可能なヨガへのシフトが一層進む可能性もある。NIKEとUNDECOVERのランニングウェア「GYAKUSOU」の発起人でアンバサダーでもある安宗裕記氏は、男性のヨガ人口の拡大について、「今後は、音楽や食とのセッションイベントなどを通じて意識改革が進み、ヨガが男性に広がる可能性が高まる」と予測する。ニューヨークでも、ヨガスタジオの男性比率が50%まで高まっていて、大人の新たなコミュニティが形成されているそうだ。

3 つ目はユーザーとの接点づくりだ。アスレジャーを普及させるためにはヨガウェア、ワークアウトウェアというアパレル商品の展開する際に、ウェルビーイングを感じる飲食やアスレジャー体験を提供するスタジオを併設などアスレジャーのフィロソフィーを体験できるような場の提案が必要だろう。

 

以上のことから、日本での現在の環境下でアスレジャー市場が拡大するには、アパレルやスポーツ企業だけでなく、業界・業態を超えた企業間の協業もポイントではないか。例えば、不動産などの既存資産を有効活用し、新たな客の流れを形成したい地域活性策や、無農薬野菜のプラットフォームを有する企業など、異業種連携でそれぞれの得意分野で想いを共有し、生活者のこれからのライフスタイルに合った価値を作り上げるプロジェクトだ。そうした、業界の枠を超えて新たな価値を形成していくモデルが引き金となることで、日本版アスレジャーがますますその進化を遂げるのではないだろうか。
アスレジャースタイルに求める期待価値