2018.03.6 - FASHION ASPECT , All

都心の商業施設に求められる要素とは

マーケティング開発 グループ長

吉岡 裕之

2020年の東京オリンピックが近づく中、都心の大規模施設開発ラッシュが続いている。不動産・建築コストが高騰しつつも、東急不動産、三井不動産、三菱地所、森ビルなど大手各社が中心となり、渋谷、日本橋、丸の内~大手町、虎ノ門などのエリアで再開発が着々と進んでいることは、日々街を歩いていても実感できる。オフィスや住宅も含めて劇的に変貌を遂げようとしている都心だが、あらためて都心の商業施設に求められる役割について考えてみたい。

■2020年までに東京ドーム293個分の開発

『日経アーキテクチュア』(日経BP社)の調べによると、東京23区内に建設される予定の延べ面積1万㎡以上のプロジェクトは300 件を超えており、東京五輪開催年の2020年までに完成するとアナウンスされているプロジェクトは、全体の76%に当たる約1370 万㎡にもなる。※1 イメージがつかめないので、あえて例えると、東京ドーム293個分の面積に相当する。

表1にあるように、大手各社の主な開発だけでも2020 年までにかなりの規模の案件があることがわかる。多くの施設は複合型で、総面積に占める割合としてはオフィスが最も多く、住宅やホテル、物販はその一部になるものの、施設の価値とイメージを形成する役割としては重要な要素になる。

表1: 大手デベロッパーが開発中の主な都心施設

■東京ミッドタウン日比谷に見る最新都心施設の傾向

2018 年3 月に、GINZA SIXに続く都心の大型施設として、東京ミッドタウン日比谷がオープンする。「未来志向の新たな体験や価値の創造」というテーマを掲げ、オフィスと商業が共存する複合施設だ。オフィスフロアの特徴としては、三井不動産の多拠点型シェアオフィス「WORKSTYLING」の開設が特筆される。世界各地でコラボレーションオフィスを展開する米国のWeWork(ウィーワーク)※2 も2018 年2 月のアークヒルズ(赤坂・六本木)に続いてGINZA SIX、新橋での展開を計画するなど、世界規模でオフィス市場の新たな波がある中、三井不動産の同サービスは既に18 拠点(2018 年1月30日時点)に広がっており、今後の動向が注目される。

商業ゾーンはテナント数60のうち6割近くがレストラン&食物販と、食関連が充実しており、京都・南禅寺にある創業400年の老舗料亭「飄亭(ひょうてい)」や日本初出店となるNY発の人気レストラン「Buvette(ブヴェット)」など話題店を導入。残りの約4 割は物販で、ファッション系(12 店舗)が半数以上だが、ライフスタイル系(10店舗)の中では、数々の高感度セレクトショップを手掛けたクリエイティブディレクター南貴之氏を起用して有隣堂が展開する、“小さな街”のようなアーケード型複合ショップ「HIBIYA CENTRAL MARKET(ヒビヤ セントラル マーケット)」が特筆される。アパレル、雑貨、飲食、理容、眼鏡、書籍、ギャラリーなどがそろい、南氏が世界中で見た「市場」や「街角」「路地」の記憶が約780㎡の中で表現されるという。サービス系は4 テナントと数としては少ないが、エンターテインメントの街の象徴として都内最大級を誇るシネマコンプレックス(=複合映画館、全13 スクリーン、3000 席)が目玉となっている。

最近の都心施設の特徴として、新たな機能と価値を盛り込んだオフィスの充実、商業では食関連の強化、物販は店舗数を絞りつつ新たなライフスタイル系テナントの導入(半面、ファッション等の物販を縮小)、アートやエンターテインメントなどの非物販機能の強化などを複合的に構成させる傾向が強く、前述の東京ミッドタウン日比谷やGINZA SIXも例外ではない。

今は都心の好立地であっても、単純なオフィス賃貸や物販テナントの構成だけでは、魅力的で価値のある施設とすることは難しく、人気テナントも集められない。しかも、施設の魅力≒街の魅力として評価される現在、街づくりの観点からの長期的な視野が求められている。

■文化と交流をどう具現化するかが鍵になる

一般財団法人森記念財団・都市戦略研究所は、世界的な都市間競争の中で、より魅力的でクリエイティブな人々や企業を世界中から惹きつける、いわば都市の“磁力”こそ都市の総合力であるという観点に立ち、10 年にわたり世界44都市の総合力※3 を順位づけしている。2017年のランキングでは、東京はロンドン、ニューヨークに次いで3 位であった(図1)。6 つある評価項目の中で東京が最も弱いのは文化・交流だ(図2)。文化・交流には「発信力、文化資源、集客施設、受入環境、外国人受入実績」という5つの指標グループがあり、さらに細分化された評価項目がある。細かい解説は省略するが、文化・歴史との接触機会や、文化資源、受入環境、ハイクラスホテル客室数などで大きく引き離されているとのこと。都心の商業施設においても「単なる物販だけでは厳しい」という背景から、「コト消費」対応の重要性が挙げられるが、まさに文化と交流(=体験やコミュニティ)がその切り口となるケースが多い。
世界44都市の総合力

■創造力を駆使して面白さと採算性の両立を!

都心の商業施設は、限られたスペースの中で面白さ(コンテンツ価値)と採算性を両立させなければならない。単なる美術館とミュージアムショップを展開するだけでは、新しさも無ければ、採算性も取りにくい。建築コストの高騰で、どの施設も損益分岐点が上がっているという背景もある。施設の価値と採算性を高めるには、コンテンツとニーズ・ウォンツを限られたスペースの中で重ね合わせることが必要で、送り手側は食、アート、旅行、趣味などの文化的な要素にモノやサービスを提供する一方、受け手側は遊ぶ、体験する、学ぶ、出会う、買うといった多様なコンテンツを享受し、さらに逆の流れも創出するなど、送り手と受け手が多方向に交流することで、新たな価値創出を実現させることが鍵となる。

しかし、施設がこうしたサービスを開発・提供するにあたっては、あらかじめ完成されたコンテンツパッケージが存在するわけではなく、商圏や顧客の特性を考慮して独自に創造しなければならない。そのため、従来の施設・売り場づくりの概念を超越することが求められる。分野は異なるが、前述のWeWorkは単なるシェアオフィスではなく、利用者のコミュニテイから新たな事業を創出するさまざまな支援サービスも提供することで、価値を増幅させている。

商業施設においても、海外の新たな試みや異業種のノウハウ、スタートアップ企業の新しいサービスなどを活用することも有効な手段となり得る。創造力を駆使して面白さと採算性を両立させた斬新な商業施設・売り場が開発されることを期待したい。

※1.複数棟ある場合は全体の竣工をもって完成とする 
※2.ニューヨーク発コワーキングスペース。2010年に創業(第1号はSOHO)。2017年、世界中のメンバー数は10万人を突破。全米23都市、世界15カ国44都市に全140カ所オープンしており、米国のスタートアップの中で最も価値ある企業の一社と言われる(時価総額:200億ドル(約2兆2600億円))。企業理念は「ToCreate a world where people work to make a life, notjust a living」( ただの生活のためではなく、人生を紡ぐために働く世界の創造)。 
※3. 評価は経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの6項目において指数評価する。