2018.05.1 - FASHION ASPECT , All

“ブランディング”が地域ビジネスの未来を切り拓く

ブランディング第1グループ 

河合秀彰

日本各地の地域資源を活用して観光地としての魅力を高め、経済活性化に結び付ける動きが加速している。伊藤忠ファッションシステム株式会社(ifs)も、平成29年度に四国経済産業局からの委託事業として、四国地域の『一次産業を核としたブランドづくり・地域商社ネットワーク構築等支援事業』を約一年間にわたり推進した。今号では、同事業で発掘した四国の食材を発信する「四国のこく。」プロジェクトの取り組みを通じて、地域の魅力を創出するブランドビジネスの可能性を探る。

■地域ブランド創出に向け行政支援が本格化

日本政府観光局によると、2017年の年間訪日外国人数は前年比19.3%増の2,689 万人と過去最高を記録した。日本を訪れる外国人は増加し続けており2008年当時の835万人から10 年間で約3.2 倍となった。そうした中、近年、外国人観光客の国内での動向に変化が起きている。以前は、「初めての団体旅行」の訪問先として東京や大阪、京都などの主要都市にインバウンドが集中していたが、昨今は日本ファンともいえるリピート客が増加し、いわゆる「FIT(ForeignIndependent Tour=個人手配の旅行)」型旅行へと変化しつつある。2010 年代前半からインバウンドの誘致に取り組んできた各地域も、今後の消費獲得のための活動を本格化させている。

観光産業以外でも地域の「魅力化」、「経済活性化」に向けた様々なプロジェクトが進行している。経済産業省は、平成27 年度から各市町村の地域資源を活用して地域独自のブランド創出を目指す「ふるさと名物応援宣言」を開始。地域経済への影響力が大きく、地域における経済活動の重要な担い手となる候補企業を、「地域未来牽引企業」と位置付けて2017 年度は2,148 社を選出、四国地域からも徳島県30 社、香川県45社、愛媛県31社、高知県39社と数多く選ばれた。

■そこにしかないモノ・コトを強みに

「四国のこく。」の「こく」とは、「地域」と「食材が持つ深い味わい」という二つの意味を表わしている。同プロジェクトは、四国経済産業局が事業主体となり、日本のトップシェフの団体である「J-chef’s(ジェイシェフズ)」と、愛媛を拠点に様々な活動を展開する株式会社リバースプロジェクトトレーディングがタッグを組み、四国地域の一次産品の魅力の発信のために、食材発掘から、メニューの開発、首都圏でのPRなどを実施している。J-chef’s からは、「エスプーマ料理」※を日本に広めたことで知られる東京・南麻布の創作料理店「山田チカラ」のオーナーシェフ山田チカラ氏と、関西地区で創作中華料理店「Chi-Fu(シーフ)」などを展開するオーナーシェフ東浩司氏が参加し、高知県土佐清水市のソウダガツオによるコクがあり香りのよい「宗田節(そうだぶし)」を中心に四国の食材を活用した新メニューを開発した。このメニューは、「シャングリ・ラ ホテル東京」をはじめ、東京都内にある著名レストランで提供され、多くの人に四国の味覚を発信した。

山田シェフは、「各地域にはそこでしか味わえないものがある。旬の時期や鮮度などに大きく左右されるものは、ぜひ生産地に赴いて本物を味わってほしい」と語り、さらに「そうした特産品や食文化の存在は、その地域に人々が訪れるための呼び水になる」と、食材の活用の重要性を強調した。

また、「宗田節」を使ったレストランビジネスなどを展開する組織「土佐清水沸騰社中」の竹田真代表は今回の取り組みについて、「土佐清水市は、幕末期の偉人であるジョン万次郎の出生地。ジョン万次郎のアメリカ渡航の旅路を辿るべく宗田節をはじめとする土佐清水の食材と食文化でハワイ、そしてサンフランシスコに海外進出することを目指している」と話す。「四国のこく。」プロジェクトを通じて、日本のトップシェフによる付加価値の高い新メニューが開発されたことをきっかけに宗田節の海外展開にもはずみをつける考えだ。同氏が運営に関わる飲食チェーン「土佐清水ワールド」は、2015 年6 月の1 号店オープン以来、約2 年間で系列店を含めると高知・神戸・東京の計8 店舗に拡大、延べ36 万人以上が来店するほどの急成長を見せたが、その背景には「土佐清水」にフォーカスした世界観と、宗田節などの地域産品を生かしたメニューがあるという。同チェーンの知名度が高まるにつれ、土佐清水移住を目指すIターン希望者から店に相談が寄せられるなど、食が地域の認知度向上に大きく貢献している。近年は土佐清水市と連携して同店の顧客を対象に「土佐清水ツアー」を実施。土佐清水市は四国最南端に位置するため、空路利用でも東京から片道5時間以上もかかる「東京から一番遠い都市」ともいわれる。自治体と企業が連携して地域の魅力を打ち出すことで、遠路はるばる訪れるだけの付加価値を創出しようと試みている。同ツアーは2018年も実施予定だ。

1.「土佐清水ワールド上野店」では、土佐清水の旬の食材を使用し、郷土の味を提供している 2. わらの炎で一気に焼き上げる「かつおのわら焼き塩たたき」は、わら独特の香りを楽しむ土佐清水伝統の味 3. 山田チカラシェフ考案「さくさく宗田節らー油」 4. 東浩二シェフ考案「豚の角煮宗田節 琥珀チップスのせ」

■地域商社が地域の魅力を日本や世界に届ける

「四国のこく。」プロジェクトには、地域産品を首都圏や海外に届ける地域商社と、各地域の一次産業を担う中核企業とのネットワーク構築を支援するというミッションもある。地域商社とは、各地域の魅力的な産物やサービスを発掘し、マーケティングから販路開拓、物流などの多様な機能で、地域に特化したビジネスを展開する企業のことで、地域創生が注目される中でその存在感を高めている。
本プロジェクトでは、リバースプロジェクトトレーディングが地域商社として参画し、四国各県の生産者とのコミュニケーションや東京でのPR企画運営に貢献している。同社は、2016年4月に俳優・伊勢谷友介氏が共同代表を務める株式会社リバースプロジェクトの商社機能を担う会社として設立され、四国を中心に地域に眠る資源の掘り起こし、製品開発、ブランディング、国内外での出口戦略を立案している。同社代表取締役社長の河合崇氏は、「四国にはたくさんの特徴的な地域資源がある。国内外にその魅力を発信するため、各地を訪問し食材を探し歩く中で、それぞれの産地とのつながりが構築できた」と話し、四国の地域商社として地場の一次産業を盛り上げながら、海外進出の支援及びインバウンドの誘致を進めている。2018 年は四国への来訪者数を増やすために、ビジネスと観光の両面において魅力あるコンテンツを地域とともに創造し発信する活動を強化する考えだ。

「四国のこく。」のロゴ

■地域資源をブランディングしビジネスをまわす

近年、日本各地で地域創生を目指した地域産品のブランド開発が盛んに行われている。ifs でもこの間、複数の地域創生案件を手掛けてきているが、各地域と連携した事業運営の中には常に新たな出会いへの驚きと感動がある。“その地域らしさ”や“そこにしかないもの”は、あらゆる情報が瞬時に行き交う現代においても現地に足を運ばないと発掘が難しく、その作業は常に新鮮で興味が尽きないものだ。体験消費の重要性が高まる中、地域ビジネスに注目が集まるもう一つの理由がここにある。

インターネットやSNSを通じて、都市にいながらにして地方の情報を簡単に入手できる時代において、FIT型の旅を楽しむインバウンドの間で大都市以外の日本を「もっと知りたい」「実際に体験したい」という欲求が高まりつつあることも、そうした時代の流れを反映している。国内だけでなく海外でも同様に「体験」への欲求が高まっていることを感じる。

今後は地域ビジネスを安定化させ、長期的に持続させるためのプラットフォーム構築が必要になる。国も地域商社及び地域未来牽引企業などを支援することで、地域ビジネスの基盤構築を推進しており、プラットフォームとしての「各地域の魅力、本質的価値を内包したブランド」の開発を推進している。各地域はそれぞれビジネスの可能性を秘めた独自の魅力を持っているが、その一方で、日本人は発信を不得手とすることが多く、せっかくの価値や魅力を十分に伝えきれていないというジレンマがある。

しかし、今回の「四国のこく。」プロジェクトでは「ブランディング」という考え方と手法が、企業だけでなく自治体レベルにまで浸透しつつある。地域の人たちが、自ら地域のブランド化に取り組むことが、ビジネスとしての成果に結びつきはじめている。次なるステップとして、グローバルな市場を視野に入れたブランディングで、日本の魅力的な各地域が世界に向けて羽ばたくことを期待したい。

※エスプーマ料理=亜酸化窒素を使い、あらゆる食材をムースのような泡状にする料理のこと。