2016.12.8 - All , フォーラム

デジタル×消費を見える化する  ifsナレッジフォーラム第4回(1)

グローバルに加速する「テクノロジー×ファッション」の動き。多種多様なスタートアップサービスが次々と登場しているが、それらが実際の購買行動にどのような影響を与えているのか実態がつかめないという人も多い。
ifsでは、経年の生活者リサーチから、「デジタル×消費」の掴みどころのなさは、「ショッピングのコミュニケーション化」にあると見ている。第4回目のゲストはショップとユーザーのコミュニケーションを介し、実店舗への送客を行うO2Oアプリ、「STYLER(スタイラー)」を運営するスタイラー株式会社代表取締役小関翼さん。日本、そしてグローバルなFashionTech(ファッションテック)市場の最新動向について伺うとともに、ifsの世代知見より、コミュニケーション化が進むファッション消費行動の実態を解説する。

【ゲストプロフィール】

スタイラー株式会社小関様スタイラー株式会社
代表取締役 小関 翼(こせき つばさ)氏
大手EC事業者のAmazonにて事業開発を担当。インターネット上で取引をされるアイテムの種類に偏りがあることをECの現場にて実感する。ネットとリアルをつなげることで、情報の非対称性からEC比率の低いライフスタイル領域で日本発のイノベーションを起こすことを目指す。2015年3月に“つながり”でファッションを楽しくするスタイラー株式会社を設立。日英のメガバンクに勤務経験あり。東京大学大学院修了。

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デジタル×消費を見える化する ifsナレッジフォーラム第4回

■ファッション市場にTech企業の参入相次ぐ

―中村ゆい(以下、中村):
近年、「デジタル×ファッション」というキーワードで、様々なビジネスやサービスが展開されていますが、その最新動向についてスタイラー株式会社の小関さんに伺います。

-小関 翼氏(以下、小関):
まず、自己紹介をさせていただきます。スタイラー株式会社を2015年3月に設立する以前は、金融機関やAmazonで働いていました。Amazon在籍中に、友人の興したFinTech(フィンテック=ITを駆使した金融サービスの創出)の会社にCOOとして参加することで起業を経験し、会社がスタートアップする流れを知りました。当時は、FinTech関連の諸団体や関係省庁等との連携・協業の目的とする一般社団法人FinTech協会の設立も目の当たりにしたので、特定の分野での事業環境を整えながら、市場の活性化をする活動に興味を持っていました。

そして、その後、EC化率の低かったライフスタイル領域での新たなサービスを展開するために、スタイラー株式会社を興しました。なぜ、ファッションをターゲットにしたかというと、私自身がもともとファッション好きだったというのもありますが、何よりもAmazonにいた頃の経験が大きく影響しています。AmazonはECとして他社に比類ないシステムを提供しており、カタログ型ECはAmazonに集約されて事業規模がどんどん大きくなるというのを、内部からリアルに経験しました。

ただし、Amazonにも苦手な分野があって、それがライフスタイル系の分野です。なぜライフスタイル分野が難しいかは後ほど説明しますが、あのAmazonでさえも苦手とする分野だからこそ、ECをやるのであればライフスタイル分野に挑戦すべきと考えたわけです。

私は現在、経済産業省のファッション研究会の委員をはじめ文化服装学院やIFIの講師をさせていただいたり、様々なイベントでファッション業界とテクノロジー業界をつなぐ活動もしています。

ファッション業界の方々にすれば、急にファッション分野にテクノロジー関連企業の新規参入が相次いでいて、戸惑っている方も多いかと思います。各企業が提供するサービスも多種多様で、自社にとってどのサービスを利用したらいいのか判らないと悩まれる方も多いでしょう。だからこそ、ファッション×テクノロジー分野に関心を持つ企業が集まる場を提供し、どのようなサービスがあってどんな人たちが活動しているのか見えるように、アパレルメーカー、商社、金融機関、もちろんメディアの人も含めてつないでいきたいと考えています。活動のひとつとして、「FashionTechMap」(図)という業界見取り図を作成し、公開しています。以前は、FashionTech分野で活動しているプレイヤー企業を一覧できるものが存在せず、この分野を議論する土台が無かった。例えばアパレル企業からも、FashionTech分野で様々なサービスが出て来ているけれど、その全体図がわかるものがなかったので私たちで作成しました。

FashionTechMap図

■ディープ・ラーニング登場で
人工知能は第3次ブームに

―小関:
FashionTechを語る前に、よく質問されるAI(人工知能)について説明します。AIというワードが、メディアを騒がせているので最近の技術かと思いますが、実は結構歴史のある学問です。AIという言葉が誕生したのが、1956年で、コンピューターが生まれたのはその10年前です。さらに1964年には自然言語処理プログラムの「イライザ(ELIZA)」が登場しました。イライザさんに「今日は暑いね」と話しかければ、「そうですね、今日は摂氏○○度ですからね」のように会話ができるようになりました。しかし、そこには知性はなく、すべてあらかじめプログラミングされた言葉を応答しているだけでした。イライザは、ネットスラングで言われる「人工無能」のようなプログラムです。それが、近年、「Deep Learning(ディープ・ラーニング=深層学習)」の登場によって、一気にAIの発達がブレイクスルーを迎えることになり、投資先としても非常に注目を集めるようになったのです

―中村:
確か、現在は第3次人工知能ブームなんですよね?

―小関:
そうです。第1次ブーム、第2次ブームは、それぞれ60年代と80年代に起こりました。AIは「人間と同じような知性が生まれたらいいな」という期待と同時に、それによって人間がこれまで担っていた役割を奪われる、という恐怖でBuzzワードになりがちですが、今回のディープ・ラーニングで第3回目のブームが起きたという流れです。

―中村:
ヒューマンインターフェイスに関わっている方のお話しによると、確かに技術が発達したことで市場でもすごく話題になっているけれど、「それを使って実際に何をしたらいいのか」という根本的な問題には、研究者の間でも方向性が曖昧というということをおっしゃっていました。

■ファッションの予測は人工知能でも難しい

―小関:
テクノロジーのファッションへの応用という点では、実は難しい側面が多々あります。というのも、例えばAIは静的なデータで、クローズドな空間での処理は得意としていますが、動的なデータで、オープンな空間での処理は不得意です。

難しい点の1つ目は、ファッションは社会コードと結び付いているということ。例えば、今、私はTシャツを着ていますが、銀行員時代はスーツを着ていました。それは単に身体を保護や暖を取るという機能性以外に、社会的属性や「社会的にどう見られたいか」という、服の画像表現以上の動的な意味をまとっています。WEB上の静的データにあらわれる閲覧履歴からだけでは、外部データによって影響を大きく受けているので、この人が次に何を着たいかを予測するのは難しい。

もう1つの重要な点は、人間の脳というのは、必ずしも知性で動いていないということです。例えば、私が、目の前の水を取ろうします。これは、脳で”水を取る”という意識が発生した後、腕を動かして実際に水を取るのではなく、実は身体が先に動いて、後から脳の中に“水を取る“という意識が発生している。そのほうが“生存”にとっては有利だからです。知性ではなく生命が先に来る。生命というのは、身体の中に並列に欲求が走っていて、結果、「どういう意識にした方がその人が内部で分裂しない」と制御しているところが脳なのです。

ファッションを選ぶときも“水を取る”と同様のメカニズムがあって、「ネイビーが好き」という理由が、たまたま道行く人のネイビーの服がカッコ良かったり、もしくは所属する小集団でネイビーが流行っていたりとか…、その人が「なぜその服を着たいか」ということに、絶対的で合理的な理由や正解は無いんです。そのため、AIに静的でクローズドな空間でデータをインプットできたとしても、そもそも理由自体が間違っていたり、どのようにインプットしていいのかユーザーが分からなかったりします。

―中村:
販促データに基づいたレコメンデーション機能もある程度データで出せる場合もあるけれど、やはり何が欲しいかとか、何を着たいかというのはとても感覚的なものなので、そうしたレコメンドは受け入れ難いことがあります。データ化できないものがファッションにはあるんでしょうか。

―小関:
そうですね。そこは、ある意味で「生命」のところに属する部分も大きいので、処理が難しいのだとは思います。ただし、コミュニケーションはともかく生産や物流の効率化、販売支援の形でのAIの利用は進むのではないでしょうか。

その他の、注目のコマースとしては、Subscription(サブスクリプション=製品やサービスの一定期間の利用に対価を払うこと)があります。米国市場では「Rent the Runway」が急速に成長しています。現在の年商は約100億円と言われています。「Rent the Runway」成功の背景には、米国のパーティ文化があります。パーティドレスは高価だし、いつも同じというわけにもいかず、生活者にとって「所有」はあまり得策ではない。さらに、米国は広いので都市をまたいでパーティに参加することも往々にしてあります。その時に、わざわざドレスを持って旅先に行くのは非合理的なので、レンタルを活用しようというわけです。

―中村:
いつでもどこでも、好きな時に、好きなところに持ってきてもらえるということですね?

―小関:
そうです。「Rent the Runway」は、背景にある米国のパーティ文化とマッチしたことで、大ヒットしました。米国のように移動距離が長く、パーティが盛んでハレ着を定期的に着る機会があると、ものすごく便利なサービスです。

一方、パーティ文化がない日本市場でサブスクリプション・サービスの提供に挑戦している企業は、基本的に日常着を借りるということを定着させようとがんばっています。チャレンジの際の壁は、やはり、日常着なのでフルフィルメントのコストが発生し、在庫管理やクリーニング、物流、カスタマーサポートなどをトータルで提供しなきゃいけません。日常着をレンタルすることに一定の金額を支払うユーザーを開拓するには、カルチャーを変えるくらいの挑戦となるかもしれません。

また、人気ブランドによるサブスクリプションも注目されています。最近はストライプインターナショナルが「メチャカリ」というサブスクリプション・サービスを展開していますが、こういったサービスは新規のお客様向けの施策というより既存顧客向けに有効なのではと思っています。例えば原価率を計算しても、定期的に3点、4点と借りてもらった方が利益がでると思います。さらに、これまでの洋服販売は基本的には売り切りモデルで、売った後にレビューや満足度を取るなどはなかなか難しかった。ところが、サブスクリプションだと、返却時にユーザーからのフィードバックを得るチャンスが生まれます。

※(2)に続く