2017.03.9 - All , フォーラム

2017ifs新春フォーラム第1部
フューチャーアスペクト/2021年へ向けた生活者の気分

次代の方向性を予感させる出来事が続いた2016年を経て、東京オリンピックに向けまた一年歩みを進める2017年。開催後の先行きも徐々に現実味を持って意識される中、生活者は「祭りの後」の社会・経済・暮らしを不安と期待入り交ざる気持ちで見据え、まずは確固とした自分軸を手に入れたいという思いを強めています。具体的にはどのような自分軸を想定しているのか。「生活者の気分」リサーチの結果から、世代による違いが顕著に現れている点を明らかにしながら、これからの暮らしの方向性を解説します。

■中長期的な気分は「日常3.0」化

2021年に向けた時代の方向性
◇小原直花:

伊藤忠ファッションシステム株式会社では2016年9月にウェブ調査を実施し、弊社の世代区分におけるLINE世代(20-24歳)から団塊世代(65-70歳)までの9世代について、首都圏在住の男女100サンプルずつリサーチしました。(合計1,800サンプル)

今回も、プレバブル世代とポストバブル世代では、気分も含めて生活に向けての志向性にかなり違いが見られます。ポストバブル世代(45歳以下/バブル崩壊後、社会人になっている人たち)が、ますます社会の中心層となり、そのことが志向性や価値観にも大きな影響を与えていて、家族、友人・知人、自分の身の回りや身近な事に対しての関心事が非常に高くなっています。プレバブル世代では、世間体や社会に目を向けていたがために最大化・全体化志向が強かったのですが、ポストバブル世代は自分の身近な環境の中でモノコトをより最適化・個別化する志向が強まっています。

2021年に向けた時代の方向性について、中長期的に見ると「日常3.0」化、短期的には「時分(じぶん)自間力(じかんりょく)」をキーワードとしてあげたいと思います。

ここ10年ぐらいの自然・経済・デジタル環境が変化するなかで、とりわけデジタル環境の激変により、生活者の日常への考え方がどんどんバージョンアップしています。そのことを時系列で追っていくと、今後は「日常3.0」の時代に向かうと考えられます。

2000年代後半は「日常1.0」で、ロハスブームに代表されるように“日常への回帰”が起きていました。オゾン層破壊による自然災害的なことがメディアを通じて多く取りざたされながら、経済的には2008年のリーマン・ショックが起き、一方でiPhoneの発売により情報環境が手元にやってきました。この頃の日常への回帰とは、「健康」や「食」を強く意識してヨガやランニングがブームになるなど、自分自身の生命や身体に対しての意識が向いていた時代でした。

2010年代前半は「日常2.0」で、“日常の再定義”が行われていました。2011年3月の東日本大震災の発生により、ごく当たり前の生活がどれほどの価値を持っていたのかということに生活者が気づいたのです。本当に大切なものは何なのか、モノや空間の持ち方とそのサイズ感をあらためて捉え直していくことが必要になりました。ファッションでいえば、2014年にNY発のトレンドとして「ノームコア」が登場、ベーシックで質が良いけど、リーズナブルなファッショが広がり、デジタル環境もLINEやInstagramが登場したことで、常時接続のコミュニケーションが進み人の暮らしの質の捉え方や時間感覚に影響を及ぼしました。

そして、2010年代後半を「日常3.0」としたのは、2016年末の米国大統領選挙で事前予想に反してドナルド・トランプ大統領が勝利したことによるトランプ・ショックがあります。その良し悪しは別として、トランプ大統領の誕生は、これまでの価値観ではモノは捉えられないところに生活者の意識が向き、変革を求めた結果と考えられます。同時に、世界的な「Pokemon GO」ブームがおきて、バーチャル(仮想)とリアル(現実)が掛け合わされた世界がすでに日常となりつつあることを示しました。

「日常2.0」の頃は、ファッション市場では「ノームコア」の拡がりと同時にライフスタイルショップが台頭する中で、メーカーやショップなどの「こんな暮らしがいいんだよね」のような発信に影響を受けていましたが、「日常3.0」の時代では周囲にとらわれない自分感覚や自分自身のこだわりを実践し、それを深めていくステージに入っていくと予想します。

■時間を分けて、距離感を測る=「時分自間」

2021年に向けた時代の方向性
また、短期的な方向性としては「時分自間」化がキーワードです。「時分自間」とは、時間を分けて自分と他者との空間での距離感を測ることです。
日常を深めていく一つのステップとしてモノや空間の使い方・持ち方だけではなくて、人とのつながり方や距離のとり方に対して意識が向いている、つまり、時間の過ごし方の見直しが始まっています。

弊社で「どのような時間を充実させたいか」をテーマに、「家族」「一人」「友人・知人」の3択(複数回答)で尋ねたところ、「家族」が63.7%、「一人」が58.2%、「友人・知人」が41.4%となりました。「一人」と「家族」は5ポイント差で「家族」の方が高く、日常の暮らしの中での大切な人間関係は優位にしつつ、そうはいっても一人の時間も大切にしたいという思いがこのデータには表れています。

その背景には、人とのつながりに対する意識の変化があります。2010年代前半の東日本大震災発生時には、人とのつながりが生活者の中ではより大きなウエイトを占め、当時の“つながり”は目的でした。2010年代後半になると、つながることは当たり前となり、SNSなどを通じて他者と常時つながっているような状態という環境の中で自分志向に向かっていっています。つまり、つながりは目的ではなくて手段となったわけです。人とつながっている場所も含めて、あらためて自分らしさを見直すことで人との距離感を適正に保つといったことができる価値観にシフトしています。

生活者がどんな気分を感じてどのような気分を欲しているのか。「2016年に感じた気分」のトップ5は、1位が「のんびり・ゆったり」でした。弊社でリサーチを始めてから1位に「のんびり・ゆったり」が挙がったのは初めてのことで、トップ5の中でも「いらいら」「あわただしい」などネガティブ気分が今回は4位と例年よりも順位を下げています。つまり、2016年は周囲の環境変化の中で、生活者が自分の時間に向き合うきっかけとなった年だったのではないでしょうか。

「2017年に増やしたい気分」のトップ5を見ると、1位は「楽しい」、2位は「安定した」、3位は「穏やかな・安らかな」です。増やしたい気分については、どの時代もあげられるワードがほぼ変わらないのですが、注目されるのは20位に登場する「流されない・主体的な」です。昨年は24位で、2016年に感じた気分では32位でしたが、それが20位までランクアップしたのです。2017年はより自分自身に目が向いて行くという捉え方が出来ると考えております。

さらに、2021年にはどんな気分を感じていたいかで注目されるワードは16位の「波に乗っている」。2017年には27位だったものが急激に順位を上げています。さらに気分を表す色として「オレンジ」と「黄色」が浮上しています。2017年の注目カラーは「濃いピンク」で、「とにかく自分自身の心が満たされればいい」という傾向が見られましたが、2021年の「オレンジ」や「黄色」は人との関わりを得ることで幸せでありたいということを示しています。つまり、2021年は誰かとともに感じる幸せを主体的に手に入れたく、その暮らしを得るために2017年は主体的に自分らしさを手に入れていくことがより望まれていると解釈できます。

■世代間で異なる感じたい気分

2021年に向けた生活者の気分◇中村ゆい:

これらの気分は、プレバブル世代とポストバブル世代では大きく異なっています。

「2016年に感じた気分」では、プレバブル世代は「のんびり・ゆったり」「自由な」といったポジティブ気分が上位を占めており、全体の結果で「のんびり・ゆったり」が1位になっていますが、その数値を引っ張っているのがDC洗礼世代や団塊世代です。一方、ポストバブル世代では、「不安な・心配な」「いらいらした」といったネガティブ気分が上位を占めるという結果が出ています。 「2017年増やしたい気分」でも、プレバブル世代は「穏やかな・安らかな」「人とつながっている」といった気分に反応が高く、人と関わりながら穏やかに過ごして生活を満喫していくような方向性がみられますが、ポストバブル世代は「前向きな」「自信に満ちた」といった自分自身に対峙していく気分が強い傾向があります。

「2021年に向けた生活者の気分」では、プレバブル世代は「安定した」「穏やかな・安らかな」といった気分に反応が高く2017年とあまり変らないものの、ポストバブル世代は「いきいきした」「前向きな」といった気分の反応が高くなっていて、東京オリンピック直後の気分も取り込みながら引き続きアクティブな気分でいたいようです。

「2021年の社会・暮らしのイメージ」として、「社会の景気・ムード」についての全体傾向は「現在と変わらない」という反応が最も高く、ポストバブル世代では20代を中心に「今よりも良くなっている」という反応が高くなっています。これは、2025年について同様の質問をした場合と同じ傾向です。
一方、プレバブル世代は団塊世代が「今よりも悪くなっている」に反応している人が多く見られます。ばなな世代から上のプレバブル世代では、やはりバブル期と比較する視点が多く見られ、バブル期の日本社会があまりにも輝いていたので、あの頃以上に良くなることはないだろうという視点で語られているようです。

■プレバブル世代は将来の暮らし向きに不安も

「自分自身の暮らし向き」についてみると、全体傾向としては社会の景気・ムードと同様に、経済状況や生活満足度については「現在と変わらない」という反応が高いです。時間の豊かさを優先しつつも、現状よりもレベルを上げて満足度を維持していきたいという志向があります。ポストバブル世代については全体傾向と同様に、「現在と変わらない」と捉えています。プレバブル世代でも「現在と変わらない」の反応が高いものの、団塊世代だけが「今よりも悪くなっている」の反応が高いことが注目されます。「2021年に感じていたい気分」として「安定」「穏やか」に強く反応している世代なので、果たして現在の“のんびり感”を維持しながら自分の暮らし向きを向上させられるのだろうかということに不安感を持っているようです。

■縮小する社会で求められるモノ・コト・サービス

2021年以降は東京都の人口が減少しはじめるなど、日本社会全体に縮小傾向が見られるとの予測があります。「2021年の暮らしの方向性」としては、そうした縮小する社会に適応していくために、より主体的に日常を充実させていきたいという傾向が全体的に見られます。そのために「自分自身が行動する・体験する」といった実感値を上げていき、モノやヒトとの距離感を柔軟に調整することで一人の時間を充実させるようなモノ・コト・サービスが求められるでしょう。

世代別では、プレバブル世代はリタイア生活に適応するべく住宅をコンパクトにしたり、自分自身の生活力を維持・増進していくことに関心が向けられています。生活スケールのサイズダウンを促進したり、行動力を高めるようなモノ・コト・サービスがさらに重要となります。

ポストバブル世代は、自分自身でより良い生活環境をどのようにつくっていくかに意識が向けられています。モノ・コト・ヒトとの距離感を見直していくなかで、職場や家庭から切り離された自分自身にとって心地よいと感じるサードプレイス的な機能・感覚を備えたモノ・場所・サービスが求められるのではないでしょうか。

ifs新春フォーラム第1部