2017.03.9 - All , フォーラム

新春フォーラム第2部
今どきの心地よさとはー空間と時間と人間の関係を読み解く

生活者にとって自分/個のあり方は確実に変わっています。今あらためてネットやテクノロジーが変えた社会や消費、人と人との関係、その変化の意味を、情報やものづくりという観点からゲストとともに読み解きます。生活者にとってどういった空間や時間や関係性が心地よいと感じられるのか、そんな生活者に対して企業はどういう姿勢で臨むべきなのか、ゲストとのディスカッションを通してこれからのマーケットの方向性を探ります。

【ゲスト・プロフィール】
ドミニク・チェン/ Dominick Chen
(株式会社ディヴィデュアル共同創業者/NPOコモンスフィア理事)
1981年生まれ。博士(学際情報学)。NTT InterCommunication Center[ICC]研究員/キュレーターを経て、NPOコモンスフィア(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン)理事/株式会社ディヴィデュアル共同創業者。IPA未踏IT人材育成プログラム・スーパークリエイター認定。NHK NEWSWEB第四期ネットナビゲーター(2015年4月~2016年3月)。2016年度グッドデザイン賞・審査員「技術と情報」フォーカスイシューディレクター。著書に『電脳のレリギオ』(NTT出版)、『インターネットを生命化する プロクロニズムの思想と実践』(青土社)、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社)等。訳書に『シンギュラリティ:人工知能から超知能まで』、『みんなのビッグデータ:リアリティマイニングから見える世界』(共にNTT出版)

■岩岡 孝太郎 / Kotaro Iwaoka
(FabCafe設立企画者/FabCafeプロデューサー/ヒダクマ執行役員)
1984年東京生まれ。千葉大学卒業後、建築設計事務所に入社し個人住宅や集合住宅の設計を担当。その後、慶應義塾大学大学院に進学しデジタルものづくりの研究制作に従事。2011年、クリエイティブな制作環境とカフェをひとつにする”FabCafe(ファブカフェ)”構想を持って株式会社ロフトワークに入社。2012年3月に東京渋谷にオープンしたデジタルものづくりカフェ”FabCafe”のプロデューサーとして、FABとクリエイティブで未来をつくるプロジェクトを企画する。現在、岐阜県飛騨市にて官民共同企業である株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の立ち上げに参画し、2016年5月にFabCafe Hidaをオープン、林業を起点とした新たなプロジェクトに挑戦する。2011年-2013年東京藝術大学AMC非常勤講師。参加展覧会に、可能世界空間論(2010年 ICC)、マテリアライジング展(2013年 東京藝術大学美術館陳列館)など。寄稿書籍に、マテリアライジング・デコーディング 情報と物質とそのあいだ(2014年 millegraph)、まちづくりの仕事ガイドブック:まちの未来をつくる63の働き方(2016年 学芸出版社)など。

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心地よい空間、時間、人との関係性とは:主観性の共有の時代へ

ifs新春フォーラム第2部
吉水 由美子(以下、吉水):今の時代における”心地よさ”のポイントについて、どうお考えですか。
伊藤忠ファッションシステム吉水由美子
岩岡 孝太郎氏(以下岩岡):”心地よさ”とは、かなりパーソナルな感覚です。一般的に静かな環境の方が心地よいとされがちですが、僕自身は、しーんとした場所が苦手なので、むしろ電車の中や渋谷の雑踏を歩いて

いる時の方が意外と心地よくて安心したりします。時間も重要な要素で、例えば、FabCafeで何か集中してものづくりをしている時、ふとした瞬間に周囲を見渡すと近くに面白いものを作っている人を発見することがあります。そして、「この人のところに話に聞いてみよう。きっと距離を縮められる」と思い、見ず知らずの人に話しかけたりします。そういうFabCafe的なる空間で、時間と他者との距離を自由自在にコントロールできることが、自分自身にとっての心地よさにつながっているように思います。
岩岡 孝太郎氏

吉水:ポストバブル世代では、カフェのような周囲のにぎわいを感じながら一人でも過ごせる空間に心地よさを感じるという支持が高いので、今のお話になるほどと思います。

ドミニク・チェン氏(以下、チェン):昨年末にApp StoreのBest of 2016アプリ10選に弊社の「シンクル」が選ばれました。新しいコンセプトのコミュニケーションアプリはたくさん出ていますが、「シンクル」のユーザーレビューを見ると「安心できる」という声がとても多い。“安全地帯”のように受け止められているようです。社会と断絶せずに、“安全地帯を”いかにつくるかということがこれから広義の情報社会の中でとても大切だと思います。他者からの非難や中傷だけではなく、他者への遠慮や儀礼的関心といった抑制から限りなく自由な状態で、自分自身の「偏愛を自由に話してもいいよ」という了解がある中でディープな偏愛をさらけ出すことで、お互いに触発しあえる、いきいきとしたコミュニケーションを楽しむことができます。

今の社会は、真実が何かがわかりにくくなっています。政治を見てもAとBと二つの陣営に分かれていがみあってる状況があって、それを見たときに個々人の中にある主観性を、コミュニケーションしながら共有可能なものにする必要があるだろうと。その人が何を良いと思っているかを、情報技術を使ってもっと深く解りあえるようにすることが、全体のWell-being(幸福感) を高めることになるのではと思います。
ドミニク・チェン氏

吉水:今回のセミナーでは自分、個というものが自発的に何らかの好きを表明する、行動を起こすということがひとつの主題です。外からの圧力やまわりからの情報に合わせるのではなく、自発的な動機や自分の意思を表明することで、周囲の人々と新たな関係が出来たり、あるいは何らかのフィードバックがあることで個々人が違った角度の関係性で結びついていくようなイメージですね。

岩岡:いわゆるオタクと偏愛は全然違うと思います。オタクは誰とも交じり合わずに、同じ趣味・嗜好を持った人間同士だけで集う排他的なイメージがありますが、偏愛はそれをさらけ出すことで、誰かが「あー、それちょっとわかるなぁ」と共感しあう感じですね。それをさらけ出せるかどうかには、“安全地帯”の設計が重要なのではないでしょうか。

チェン:オンラインコミュニティでは、UI/UX設計をする上でも、少しマッチョなイメージの色使いにしただけでそのサイトは男性優位になり、女性はそこを“安全地帯”と認知しなくなります。その逆もしかりで、フェミニンすぎるイメージだと男性は寄り付かない。そのため、女性にも男性にも「好き」のとっかかりがあるような設計を心がけています。それは、設計や建築の世界でも同じではありませんか。

吉水:リアルな場では、体感とか実感とか、身体的な心地よさもありますね。

岩岡:例えば、空間作りでいえば木は重要なマテリアルで、FabCafeも半径2m以内に木があるように設計しています。無骨なデジタルファブリケーションの機械があったとしても、かなり機能的でありながら心地よく使用することができます。そこはUI設計と近いところがあるかもしれません。

これからの企業のあり方とは:偏愛を活かして共創へ

吉水:これまで、生活者のコミュニティ意識や快適さの感じ方の変化について話してきましたが、そうした生活者に対するこれからの企業のあり方をお話いただけますか。

岩岡:FabCafeには多種多様やクリエイターや偏愛を持った人たちが集まります。そうしたコミュニティでお互いが刺激しあうことで学びの場にもなり、自分が思ってもみなかったセレンディピティ(思わぬものを偶然に発見する才能・能力)が潜んでいます。そこから生まれたアイデアが、次の商品企画や製品のコンセプトになっていくようなことが現実に起こっていることを考えると、まずはそういう場をつくってみることが重要なのではと思います。企業も、そういう場に活動の拠点を移してみることが、重要なきっかけになるかもしれません。

チェン:実は「シンクル」では、“セレンディピティ・サーチ”というタイトルで、「シンクル」のデータベースを法人会員の方が検索できるものを考えています。例えば、「音楽はiTunesで買うのが好き」と言っている人たちが1万人いるとして、その人たちが実は「電子コミックを読むのが好き」と言っているとします。こういう因果関係から捉えるのが難しい相関の結果は通常のリサーチではなかなか出てこないのですが、「シンクル」の偏愛コミュニティではそのぐらいの粒度でユーザーひとりひとりの嗜好性を測ることができます。複数のトピックをかけ合わせることもでき、AとBとCを好きと言っている人たちが、次に何が好きと言っているかというようなデータが取れる。これを我々は“偏愛ネットワーク”と呼んでいます。これらをメーカーの方に提供することで、こういうものが好きな人に対してはこんな企業とコラボするなど、飛躍的なインスピレーションをマーケティングの場に提供したいと考えています。

ひとつだけ事例を紹介すると、毎年6月ごろにやっている国際フランス映画祭に関するWOWOW様との取り組みで、「シンクル」に「フランス映画が好きすぎる」というトピックを立てると、フランス映画好きの人は実は特定の女優がすごく好きな人が多いなど、そういうことが分かってきます。その結果をもとに、次年度はその女優の特集を組むなど制作にフィードバックすることができます。プロモーションマーケティングよりもプロダクトマーケティングの方が、今後よりリアルタイムに高速に回していく必要があるという話はみなさんもご存知かと思います。つまり、一緒にユーザーの眠っている「好き」を掘り起こして、それを育てる場をつくるということが重要です。表現をする主体は個人だけではなくて企業も同じだと思います。「この人たちは我々の味方なのだ」と思える種をユーザーに発見してもらえれば、その種を植えた畑を一緒に耕して育てていってくれます。ユーザーが求めている文化を一緒につくっていくことが重要なのだと思います。

岩岡: FabCafeでは、そこに集まる多種多様なクリエイターのコミュニティと、3Dプリンターなどを製造販売するメーカーが同じ場を共有することで、メーカーの人が使い方をアドバイスしたり、クリエイター側は「それが出来るなら、次はこんなデザインを考えたい」みたいなことをやり取りしながら一緒に走っています。その機械、製品自体はプロダクトとして市場にあるけれど、その使用方法の限界値を上げていき、偏愛的なる活用の仕方を発見することで別の市場に参入することが出来るかもしれません。そういうことをユーザーとともに発見するのが、FabCafeという場だったりします。

企業の側も、新たなコミュニティやそういった場に活動の拠点をおいたり、偏愛コミュニティをつくるというチャレンジをすることで、今後は、プロダクトを先行的に市場に投入して、その活用方法は後から考えるみたいなことが現実的に可能になっています。

チェン:私自身、昨年は7回ぐらいFabCafeのイベントに参加し、オープンイノベーションはこういうことなのかと肌感で腑に落ちたものです。しかし、FabCafeも立ち上げていきなりそうなったわけではなくて、そういう価値観を定期的にかつ継続して醸成していったからここまでになりました。我々のオンラインコミュニティでも一緒で、公式リリースから約1年経とうとしていますが、3年ぐらいは熟成させて育てることが大事です。シンクルを運用しながらいろいろな企業の方とお話をしていると「売り上げ目標や四半期決算などに間に合わせるために短期的なキャンペーンを打ってばかりいるが、それはもう限界がきている」という声も多くなっています。

吉水:お二人とお話をしていて、やはり時間の経過がひとつのキーワードだと思いました。従来の消費では何かを買う時に、それを決定し購入する瞬間に消費のカタルシスがあって、そこへ向かってモノコトを選んでいました。企業にとっては、消費者にいかに選んでもらうか、選ばれる選択肢を提供するかという相対的な価値観でした。要するに、供給者と消費者の関係だったわけです。ところが、今やモノを買って、それを使って体験して、その時間の流れの中でいかにヒトとモノコトの関係を構築するか、その人にとって絶対的に好き、絶対的に必要という絶対的な関係を構築して、ライフスタイルの提示者と生活者の関係を結ぶのが、今、またはこれからの企業と生活者の関係だと考えました。
どうもありがとうございました。

ifs新春フォーラム事後報告