2017.10.18 - All , フォーラム

2017ifsマーケティングクリエーションフォーラム 第2部

「ひとの成長に、かかわる」を理念に、ビジネスインキュベーションの会社を経営なさる森田正康氏をゲストにお招きしました。豊富な海外経験やビジネス経験から、今そしてこれからの世界や社会を語っていただくとともに、企業の進む方向、ビジネスの視点をディスカッションします。

第2部マーケットアスペクト
「個」を軸とした次代のビジネスインキュベーション

ifsマーケティングクリエーションフォーラム 第2部

ゲスト:株式会社ヒトメディア 代表取締役/CEO 森田正康氏
コーディネーター:伊藤忠ファッションシステム株式会社 マーケィング開発グループ
マーケティングクリエイティブディレクター 吉水由美子

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伊藤忠ファッションシステム株式会社 マーケィング開発グループ マーケティングクリエイティブディレクター 吉水由美子(以下、吉水):二部の趣旨をご説明しますと、一部は共創の社会を概念的にお話しましたが、二部ではよりリアルにビジネス視点を含めてどうなのかを森田さんとお話できればと思います。まず、自己紹介からお願いします。

株式会社ヒトメディア 代表取締役/CEO 森田正康氏(以下、森田):「ヒトメディア」の森田です。現在は、ビジネスインキュベーションという様々な企業と一緒に事業を創出する活動をメインにしています。ヒトメディアではもともと人に関する研究から始まって、教育分野で上場も経験させてもらいましたが、現在は、教育以外に人を使って人を成長させながら企業ブランドを作っていくような仕事をしていて、その分野での投資などもしています。常時40~50件の案件が動いていますが、弊社は基本的に「人の成長を促す企業」と自分達を位置づけており、「ひとの成長に、かかわる」ことを企業理念としています。
つい最近の案件では、『DRESS』という女性向け媒体を昨年買収しました。30代~40代中心の大人の女性向けのWebメディアで買収当時は月間30万PV程度の媒体だったのですが、1年間ほどで月間250万PV・100万UU、そのうち約3万人の読者が複数の小規模なコミュニティに分かれてアウトプットしていくというコミュニティ連動型メディアに成長しています。

吉水:そもそも「ヒトメディア」という名前の由来を教えて下さい。

森田:創業した2006年当時は、まだYouTuberが台頭していない時代でしたが、いずれ“人”がメディア化されてくるだろう、個の時代が来るだろうと思っていました。そして、企業がその時にどのような役割を果たすのかという考えが当時からあり、近い将来、個がつながりながら事業を生み出していく時代に備えることをイメージして会社を設立しました。

吉水:前半のセミナーでも、「一人の中に複数の個人」がいるというお話をしましたが、森田さんがお考えになる“個”とはどういうものでしょうか。

森田:吉水さんが話された考え方はすごく近いと思っていて、私自身は「個人が心をクラウド化する」と思っています。個人が様々な場所に、自分自身のコピーを置いていきながら、クラウドしたものが消えたり成長したり、ある意味で分散しながら様々な活動をするという考え方ですね。そして、もう1つはわかりやすい言い方をすると、すごいスピードで個がいろいろなコミュニティ間を行ったり来たりしているということがあります。一回、どこかに所属したら終わりではなく、やってみてすぐ抜けてしまうのが今の若い人の特徴です。本来はなにか目標があってコミュニティに参加し、目的を達成するまではいるものですが、今の若い人は目標よりも過程が大事。途中経過を楽しんで結果が出る前にやめて次のコミュニティに行くというのもOKです。それが今の若者における“個”の典型的な流れだと思います。

吉水:私自身は、SNSなどがそれを後押ししたのかなと思っているのですが、若者はなぜ沢山のコミュニティに所属するようになったとお考えですか。

森田:もちろんSNSの影響もあるとは思いますが、何よりも成功への執着がなくなってきていることが大きいと思います。例えば、かつての働き方は終身雇用制度のもとで、何か1つの仕事を極めることが素晴らしいことでした。学校教育でも、昔は子どもたちが見知らぬ生き物を発見した時に、「これなんですか?」と先生に質問すると、「これはなんとか蛙でアフリカに生息していて…」「先生、すごい」というように、昔の先生たちは優秀で物知りな存在でした。ところが、今ではgoogleで検索するだけで、先生の知識よりも詳細な情報が得られるようになってしまいました。“極める”ということに対する価値が薄くなってきている中で、人というものは掛け算で評価される時代になっています。人は自分の価値を分散化させて、掛け算で価値を上げていかないと評価されないというのが根本的にあるのかなと思います。

吉水:成功をしたい気持ちはなくなっていても、評価されたい気持ちは普遍的にあるのですね。

森田:
応援されたい、応援したいという気持ちはあります。「いいね!」という端的なボタンを押すだけで、自分が応援されているというモチベーションにつながっています。今後は、企業が商品を作っていく時に企業側がコミュニティを育てていく時代がくると思っていますが、そのコミュニティに対して「この商品はこういう効能があっていいでしょ?」と投げつけた瞬間にコミュニティは消えていきます。コミュニティと対話をしながら、コミュニティで起こったことを企業は承認をしていくだけでコミュニティは成長していきます。

吉水:応援されたり、承認されたり、そういうことが原動力になっているんですね。

森田:コミュニティは誰かがそこでお金儲けをしようと思った瞬間になくなってしまいます。企業として自分達や商品を評価してくれる小さなコミュニティを見つけて、それを拾い集めて1つ1つ混ぜずに育てていくこと大切です。複数のコミュニティを混ぜようとすると、どっちもダメになってしまいます。

吉水:コミュニティへの所属欲求は、そのまま会社にも置き換えられそうですね。

森田:会社の中のコミュニティというイメージでは、コミュニティ単位で目標や言語プロトコールが違うので、一つのメッセージで例えば4つのコミュニティを管理するのは不可能です。会社の中にもコミュニティが幾つか点在していて、「頑張って働きたいコミュニティ」「お金儲けをしたいコミュニティ」「ただそこに入ってラッキーコミュニティ」といっぱいあります。つまり1つの言葉で組織を動かすことがナンセンスであり、1つの言葉で動かせないからこそ、例えば副業などをしていいよとした方が良くて、そうすることで組織に残ってもらえるということが起こりつつあります。

吉水:
ヒトメディアのHPを見ると4つのカテゴリー内に、いろいろな事業があるようですね。

森田:お見せできるのは40件くらいです。現在準備中のものも含めると100くらいあります。50人ぐらいの社員一人ひとりが、それぞれ4つくらいの企業立ち上げ案件を担当しています。ある社員は、日本の文化であるコスプレを職業として世界に広めたいと、コスプレサイトを立ち上げるために仮想通貨でICO調達をやっていて、その一方で参考書を売るECサイトの立ち上げも進行させています。そうしないと、自分自身が価値ある人間だと実感してくれない。以前、ある事業の利益が出そうになった時、立ち上げた本人に「独立してお前が社長をやれ」と言ったら辞めてしまいました。要するにお金に興味がないし、1つのことで成功するよりも、様々なことを試して自分を伸ばしていきたいという意志の方が強い気がします。

吉水:先ほど「若者3.0」は快適な場所を探しているという話をしましたが、森田さんのお話を聞くと企業の側からそれを提供しているように感じます。

森田:確かにそうかもしれないですね。先ほど受動的グローバルというお話もありましたけど、今の若い子は新しいものを探索したくて旅行するのではなく、ネットで見たものを確認したくて旅行していますね。彼らはネットを通じて既にいろいろなとこを見ていて、できるだけ多くの居場所に行きたいだけです。

吉水:『DRESS』のようにコミュニティ自体をビジネスする場合の工夫や苦労はありますか。

森田:『DRESS』 は面白いコミュニティで、平均年齢約39歳、世帯収入は約800万円、毎月使えるお小遣いもそれなりにあるというコミュニティです。今後コミュニティにとって大切なのは、所属する人数ではなくて質だと思っています。質の良いコミュニティと対話しながら育てていくと、例えば高級コスメの体験イベントを行った際に、20人参加して2人が当日購入、半数以上が購買意向を示すというような、信じられないコンバージョンが起きます。ビール部とかワイン部とか、マラソン部とか、いかに〜部というように細切れで管理していくかが今後のメディアでは重要になります。今後は、その部活動をいろいろな企業と連携しながら育てていこうかなと思っています。
マーケティングクリエーションフォーラム 第2部
吉水:部活動は、なんらかの経済的な価値を生むということですね。

森田:ファンを育てる感覚ですね。各部活動に50人いるとして、そのために広告は出せませんが、そのうちの半分が買ってくれれば下手に広告費を使うよりも効果が高いわけです。部活動のメンバーを50人から100人、1000人に段階的に拡大していきませんかというのが、これからのマーケティングスタイルだと思います。いきなり大きなグループを取りに行ってそれを腐らせてしまうのではなく、小さくても質が良いコミュニティを見つけ、対話をして成長させていくことで企業ブランドを守ることができると思います。

吉水:質が良いという言葉をもう少し分解していただけますか。

森田:ある意味、良いコミュニティというのは偶発的にできます。質の高いコミュニティは、それぞれのコミュニティメンバーが対話していく。中心となる人は必要なくて、メンバー同士が対話していけば状況ごとに中心となる人が常に変わりながら育っていきます。

吉水:様々なビジネスインキュベーションに取り組まれる中で、注目している事業領域はありますが。

森田:“無重力”の事業が気になっています。世の中は需要と供給という経済の重力でコストが決まるものですが、例えばアートのように”無重力”に値段が決まってしまうものがたくさんあると思っています。絵画はただの紙と絵の具でできているわけですが、「サザビーズ」で売れた最高額が3億ドル(370億円)です。これはもう需要と供給ではないですね。欲しい人が決めた金額が価格になります。個人的には、価格が言い値で決まる領域で何か自分が事業化できることはないかと考えています。

吉水:”無重力”の意味は、(調査用語で言うと)平均も分散もまだないという領域ということでしょうか。

森田:「よくわからないけど価値がある」「欲しいからお金を払う」とかいう考えは、今の若者にも出ています。例えば、アイスクリームトリプルを頼んで、写真を撮って捨てるのに近い感覚ですね。

吉水:(インスタ映えをするような)写真を撮りたいという情熱はあるんですよね。

森田:これからの購買は本質的な目標にこだわりなく、物を買うようになると思います。私自身もクラウドファンディング(CF)で面白いガジェットを買っても、2年間箱も開けずにいるものが沢山あります。CFで購入した商品はプロトタイプなのですぐ壊れたりすると経験上でわかっているのに買い続けてしまうのは、そこを応援したい気持ちがあるからです。それが“無重力”ということです。CFで達成する案件が、適正価格だったからなんてことはなく、背景にあるストーリーや思いとかごちゃごちゃしたもの、流れがあって達成します。これも”無重力”に近い。重力化しない事業を探しにいくことが、今考えていることです。

吉水:新たな事業の投資先など、もう少しお聞かせいただけますか。

森田:もう1つは、“合理”と“不合理”を突き詰めている分野です。ヒット商品というのは、合理的な要素と不合理的な要素が混ざってきます。例えば、タバコは面白い商品で、体に悪い側面もあると合理的にはわかっているのに、それでも吸ってしまう不合理な要素があります。商品の面白さはそこにあると思っていて、例えば、お城を作るスマホゲームがあってそこにお金を投資しても何も良いことはないとわかっているのに、完成した城を見るとちょっと嬉しい。これはスマホゲームの合理・不合理です。全部合理的で完璧な商品よりも、合理・不合理を行ったり来たりする方がヒットします。

吉水:ブルーオーシャン戦略は、もはや古いというお話がありましたね。

森田:事業が進むのがものすごく速くなっている世の中で、1つの商品を爆発的にすごくヒットさせるとか、大きく稼ぐというのはもう不可能だと思っています。小さい経済圏を上手に管理して、そこで利益を上げるような事業設計が今は合っているかなと思います。

吉水:ブルーオーシャンというと、大きな海に魚が沢山いて他の船がいない場所を探すという感覚がありますが、今のお話だとそもそもの漁場を作るという感じですね。

森田:たくさんコップを置いておいて、入ってきた魚の質を見極めて、この質を伸ばすために何か考えようというような発想がいいのかなと思います。コミュニティは、企業で何かやろうと思った時に5-10人はすぐ集まります。そこで10人しかいないからニーズはないと切るのか、それぞれの質を見てニーズがあると決めるのか…。集まる数ではなく質でその領域が正しいかを見極める時代なので、その目利き力が大事になってきます。

吉水:最後の質問になりますが、その目利き力を磨くにはどうしたら良いでしょうか。

森田:
対話をし続けるか、いかに上手なファシリテーターに自分がなれるかということでしょうか。コミュニティを見るということは上から見るのでなく、自分もそのコミュニティに入らなくてはいけません。企業がコミュ二ティを育てられない理由は、企業の担当が自分達のコミュニティをつくろうと思うと商品を良さだけを伝えて、売りたくなってしまうから。「この商品は効果がない時もあるかもしれないよ」とは言えなくなってしまいますね。そういうことが許せるようなファシリテーションをしていかないといけない。自分が思っているような評価が返ってきたから良いコミュニティだと思っているようだと、イエスマン的なコミュニティとなり、ちょっと変なことが起きると、「裏切られた」とか言ってみたり、炎上したりします。賛否両論の意見が交わされているようなコミュニティをファシリーテイトできる能力がある人なら目利きもできるんじゃないかなと思います。

吉水:
本日は貴重なお話をありがとうございました。