2021.06.1 - ifs fashion insight

マーケティング戦略アップデート
第9回 “身近-心近(こころぢか)”なモノ・コト・ヒト・マチ

ナレッジ開発室 室長

小原直花

自創人 by 伊藤忠ファッションシステム

前向きに変化を創造する「自創人」

コロナ禍の暮らしは1年を超え、いまもなお落ち着かない日々が続いているが、当社でこの3月に実施した「生活者の気分」調査によると前向きな気分をふやしたいという意向が高まっている。右往左往させられている間にも否応なく過ぎてしまう人生のなかの大切な時間。この状況に柔軟に適応しながら、楽しい日々に転換したいという生活者の動きに注目したい。

当社では、自分の意志をもって暮らし方を積極的につくり出す考え方・姿勢・行動力をもつ人を「自創人(じそうじん)」と命名し、その消費動向について分析レポートを発行した。外部要因により変化を余儀なくされるにとどまるのではなく、前向きに自ら変化を創造しようという意志の持ち主だ。 変化を創造するためにはブレない自身の起点が必要になってくる。やみくもに行動すればするほど自身を見失い、かえって不安感を増幅させることになりかねないからだ。自創人の約9割は「自分のこだわりや好きな領域・分野がはっきりしている」と回答している。行動モチベーションは自身の「好き」「こだわり」に起因した感情に働きかけるモノ・コト・ヒト・マチと言えよう。

一方で、多様性が重要視される時代、ライフプランやライフスタイル、個々人の志向も多様化し、共通したロールモデルは描けない。「多様の中の自分って?」などとあらためて自己に向き合い、足るを認知しながら自らを豊かにしてくれるものを追求していくタイミングにある。そして、この先ますます「自分」にフォーカスする傾向が強まることは間違いないだろう。

自身の行動に対して納得感が得られる証への欲

 「好き」「こだわり」は、行動の取捨選択基準であると同時に、人とのつながりをもたらしてくれる暮らしの重点領域でもある。自身の肯定感につながり生活満足度を高め日々の充実感を生みだしてくれるものになる。 「山登りがライフワークです」「推しのアイドルが生き甲斐です」「仕事が趣味です」などその対象は多種多様だが、そこを起点に創意工夫を重ねながら暮らしのなかに充実の枝葉を広げていくイメージだ。また、重点領域に専念するため、基本的には「無理はしない」「無駄なことはしない」といった明確な判断基準があるのも自創人の特徴であり、ネットやテクノロジーを駆使し合理化・効率化を図る領域をはっきりともっている。

無理せずいまの状況に最適化するという観点での行動は、社会・環境課題への向き合い方にも踏襲される。「好きな地元のレストランを閉店させたくないのでなるべくテイクアウトするようにしている」「モノをふやしたくないのでコロナ禍以前はグッズを買わなかったが、いまはライブができないアイドルを応援するために購入している」など、コロナ禍で従来のプロセスが踏めなくなっているいまだからこそ、「好き」「こだわり」に違う角度から関わることで充実感を維持し、場合によっては新たにつくりだすことも厭わない。

「この商品は環境に配慮した素材でできていますと言われても、へーっとは思うけど、だからといって買おうとは思わない。でも、発展途上国に学校を創るプロジェクトにはここ数年寄付し続けている。学校創立に向かってちゃんと進行状況が見えて自分が関わっていることが実感できるから」など、自身の行動に対して納得感が得られる証を求めていることがわかる。たとえ正しいことであっても漠然とした謳い文句には心が動かされない=行動に移せないのが実情だろう。

「好き」「こだわり」を追求する生活者にとって、自身が関わりたいと心から思える“身近-心近(こころぢか)”な存在、モノ・コト・ヒト・マチであることがいま望まれている。

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伊藤忠ファッションシステム 小原尚花小原直花Naoka Ohara
ナレッジ開発室 室長
“ifsオリジナル世代区分・気分・見た目で消費の今と未来を読み解く”をベースに、会員制マーケティング組織「FA CLUB」の企画・運営を担当するほか、クライアント別案件にも携わる。最新発行物「自創―自ら変化を創造する」では、これからの時代の方向性にフォーカスし、アプローチヒントをレポートしている。1992年入社のばなな世代。趣味は人間観察