2017.12.1 - All , ライフスタイル

日々変化する“今”を捉える生活者。「マイペース」「かろやか」であることがキーワード

ナレッジ室

近藤 明日香

伊藤忠ファッションシステム(ifs)では、生活者の「気分」の変化を経年で追うことによって、時代のムード、生活者の価値観の背景を読み取っている。生活者の興味・関心事が日常の充実に向かっている中、「行動」、「時間」、「お金の使い方」、「モノ・コト・サービスの選び方」の変化と実態を捉えると共に、今後の生活者の志向性、アプローチ方法についてまとめた。

■“のんびり・ゆったり”マイペース気分の高まり

生活者は日常の中でどのような気分を求めているのか?年初にWeb 調査※1 を行ったところ、上位に挙がるキーワードは「楽しい」「安定した」「穏やかな」「前向きな」「のんびり・ゆったり」の順となった。経年でリサーチを行っている中でも、ここ数年で「のんびり・ゆったり」気分への反応が年々高くなっている。決して1 位に求める気分ではないが、ある程度の上位に毎年挙がってくる気分であることから2017 年は特にこのキーワードに注目し調査・分析を実施した。SNSが飽和状態となり、飛び交う情報バブルの中に生きていると言っても過言ではないこの時代だが、その反動もあってモノ・コトの情報や人とのつながりから一歩身を引き、己のペースを大切にしていきたいと考えている生活者が増えているともいわれる。実際に、「のんびり・ゆったり」気分を探っていくと、「楽しい」という気分に置き換えられる反応も多く見られ、周囲に惑わされずにマイペースさを保持していくことが、ポジティブな気分を得ていくためのベースにもなっているようだ。

「のんびり・ゆったり」といったマイペース気分の高まりの先には何があるのか。Web調査を始め、ビジュアルアンケート、お宅訪問調査を実施した結果から、生活者のリアルなコメントを紹介するとともに、その実態について考察していきたい。

■コスパ志向から本質志向へ。吟味・厳選の視点は、“今”の自分の実感

生活者の暮らし方、消費への意識・実態を捉えるべく、Web 調査※1 で東日本大震災以降の5年間の変化について聞いたところ、「お金をかけるべきところを見極めるようになった」、「節約するようになった」がトップ2となり、さらに、「自分のこだわりを重視してモノ・コトを選ぶようになった」、「日常・普段の生活シーンで使うものにお金をかけるようになった」への反応も高かった。モノ・コト選びは、「ハレ」と「ケ」で言えば、自分自身の実感が伴う「ケ」の場面を重視する方向へ変化してきたことが分かる。「人付き合いの程よい距離感を意識するようになった」、「付き合うべき人間関係を整理・厳選するようになった」が上位に挙がるのも、お金の使い方だけでなく、人とのつながり方について、改めて身の回りを見直すタイミングにあったことを示している。

では、この“吟味・厳選”は、実際にどのような判断基準のもとに行われているのか?具体的な指針を探るため、ビジュアルアンケート※2 で「やめたこと/新たに始めたこと」を聞いたところ、日々の中の“無意識のルーティン”を見直したというコメントが目立った。「食パンは自分で作るのが一番良いと思っていたが、おいしいパン屋さんに出会ったのでもう無理して忙しい思いをするのはやめた」(60代女性)、「時間確保のためにお総菜の作り置きをしていたが、作りたてが一番おいしいと気づいた。」(50代女性)など、世の中の話題性や利便性から行っていたことについて、本当に自分が望んでいるものか否かを立ち止まって考えたケース。また、お金の使い方では、「動画見放題サービスを利用していたが、見たいものを検索している時間の方が長くなり解約した」(30代男性)、「カーシェアを利用していたが、空きがあるかを確認し予約するのが面倒になったのでやめた」(60代男性)など、コスパの良さで一見便利に見える機能も案外無駄なことが多いとの気付きも見られる。「話題の店や有名店など遠方に足を運ぶことが多かったが、ハズレもあり無駄を認識した。自分が好きなものは何かを考え、近所や地元の名店に行くことが増えた」(30代男性)など、“ 自分が好きなもの”にフォーカスした方がより有意義だと実感し、改めて自分に向き合い必要なものを見極める人が増えている。

■とらわれず、変化に対応する“かろやか”な自分であること望む

自分自身の興味・関心が「日常」に向いているからこそ、その時々の “ 今”の気分に合ったものや好きなものに徹底的にフォーカスする姿勢が強くなっているとも言える。これまでの習慣にとらわれず“ 今”の自分に柔軟に対応するためには、自分自身をコントロールできる=ゆとりを持つことが、ストレスの少ないあるべき理想として捉えられている。

また、とある30 代のワーキングママへのお宅訪問調査で、多忙な毎日をどのようにこなしているのかスケジュールを聞くと「仕事と家事の完璧な両立を目指していた時はイライラしてしまっていた。今は家事の時間を減らすために夕飯は作らず、宅配のお弁当を利用しているけれど、その時間を子どもとのコミュニケーションに回せているので充実している」との回答だった。子どもが成長する過程で、時間とお金の使い方の優先順位をその都度変えているという。潔く、“あえてやらないこと”の選択肢を設けることで気持ちの上で余裕が得られ、“ 今”目の前の幸せをしっかりと実感している。

あらゆる情報を取り込もうとして日々のタスクに埋もれてがんじがらめになるのではなく、ちょっとした変化に柔軟に対応できる、“かろやか”な自分であること。それが今の生活者の幸せ感をとらえるキーワードの一つになると考えられよう。同時に、企業にも、その変化に対応できるモノ・コト・サービスを提供することが求められている。

■「変化の時代に選択肢の一つであり続けるために」3つのアプローチ

これらの調査で導き出されたように、かろやかさを志向する生活者にモノ・コト・サービスを届けるためには、3つのアプローチが考えられる。

①敷居低く、行動のきっかけをつくる
直感的な楽しさを感じられる仕掛けづくり

②他人事ではなく、「自分事」化を促す
送り手の考えを押し付けるのではなく、
受け手に委ねるスタンスを持つ

③その時の“今”であり続ける
核は持ちつつ、方法は固執しない。
共に変化し続けること

上記のアプローチを実践している事例を2つ紹介したい。1つ目は、鎌倉で不動産事業を展開している(株)エンジョイワークス。生活者が経験値として最も足りない「住」の分野を、いかに「自分事」として捉えてもらえるかをコンセプトに「家づくりの視点」を提供している。同社が運営しているライブラリーカフェでは、店内の床材やドアノブなどに値札が付けられており、普段はなかなか知ることのない建具や建材の値段を目にすることで、家づくりをより身近に感じられる“行動のきっかけ”をつくり出している。また同社企画の『スケルトンハウス』は、ライフスタイルの変化に応じて間取りを柔軟に造り直すことができる“ 可変的な家”として人気を得ている。時代が移り変わっていく中でも“今”に対処し続けるという、新しい家のカタチだ。

2つ目は(株)アールビーズが手掛ける雑誌『ランナーズ』の取り組み。2007年の第1回東京マラソン開催をきっかけにランニング人口は増え、2015 年度時点でマラソン完走人口は35万人強と、開催前の8万人強(2005年度時点)と比べると4倍以上にものぼる。そうした中、今後は「いかに長く継続していくか」が課題となっているが、モチベーション維持の施策として効果が期待できる『全日本マラソン(年齢別1 歳刻み)ランキング』では、同じ年齢の中で競うという視点が、特に60代などベテラン層の新たな目標、トレーニングの充実へとつながり、その時々の自分に見合ったチャレンジの連続が、「自分事」化を促し継続する価値を見いだすことになっているという。

このように、生活者の日常に寄り添い、いかに「楽しく」「自分事」の「実感」を届けられるかが肝となるだろう。生活者が置かれている環境はあまりにも多様化している。だからこそ、一方的な発信にとどまらず、企業と生活者、双方の間でモノ・コト・サービスのコミュニケーション化を図ることが、変化し続ける“ 今” にかろやかに対応し続けたいと思う生活者への有効なアプローチになるのではないだろうか。

※1: 2017 年2 月実施 N=2,304  ※2 : 2017 年5 月実施 N=36

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1.木張りボックス型のシンプルなデザインの『スケルトンハウス』。内装をリセットしてスケルトンに戻し、次世代へ受け継ぐことが可能 2. ライブラリーカフェ『HOUSEYUIGAHAMA』では店内の部材に値札を付けて紹介している 3.継続して楽しむことや、多様化するランナーのニーズに対応するために様々なランニングイベントが開催されている。都内発着イベントとして100km初心者に人気の「柴又100k」