2021.05.7 - Other

レジャー産業「SDGs時代のレジャー・集客事業特集」に寄稿しました。
テーマ:SDGsの消費者と企業の捉え方の変化について

マーケティング戦略アップデート第3回

消費者の価値観変化や国の施策も背景に
長期的な経営戦略の土台として成長に寄与

◆日本でも受容性高まるSDGs 
脱炭素社会化も大きな変化に

SDGsそのものは「ハートフル」な目標である。「環境よし・社会よし・経済よし」、自らの利益のみを追求することをよしとせず、社会の幸せを願う、まさに「三方よし」の精神と基本理念が共通している。

SDGsは人類共通の実現すべき経済・社会の指針として世界中で受け入れられている。背景には人類の活動が地球資源の限界を超え、このままでは環境・社会が持続しないという危機感がある。

また日本国内でも、その受容性が高まりつつある。今後の事業環境をシビアに見積り、SDGsを事業の中核と位置づける企業も多くみられるようになった。その一方で、長期的な目標に対して目先を重視するあまり、「自分ごと」「個社ごと」として捉えきれていないという声も多く聞かれる。

日本国内における課題は、SDGsが設定する細部にうまく当てはまらないことが多いのも事実だ。広義で捉え、自国にあった課題を見つけ出し、アジェンダ化していくことも社会実装していく上では重要である。

本稿ではまず、今後の施策などがどのような枠組みで決定されるのかについて解説する。

●SDGsの構造的特徴
SDGsが示す17のゴールは相互に関連しており、深い洞察をもった統合的な取組みが重要である。そうすることで複数の課題を同時に解決し得る事業モデルを確立することができる。
またゴールとして設定されている2030年からバックキャスティングし、その目標を達成するための枠組みも定期的に変化している。

●低炭素から脱炭素へ
20年10月、菅義偉首相は、50 年までに温室効果ガスの排出をゼロにすることを宣言した。これにより、低炭素から脱炭素社会実現に向け大きく舵が切られたことになる。
21年は30年を目標とする低炭素社会実行計画のフェーズ2にあたり、脱炭素社会基盤策定期間に入ったといえる。

●カーボンプライシングについて
20年末、菅首相は経済産業省と環境省にカーボンプライシング(CP)の導入検討を指示した。
炭素税、ETS(排出量取引制度)、炭素国境調整措置、クレジット取引制度や補助金などが検討されている。炭素税は炭素に価格をつけ、CO2を排出した対象が税負担する仕組みだ。
国際的な枠組みの規定が動いており、足元では低率の課税水準で導入し、将来的には段階的に引き上げていくことが示されている。変化の緩和を図り、投資・技術面での普及に向けた予見可能性を確保しながら、脱炭素へのインセンティブ訴求を目指すとみてとれる。

今後は、4月下旬にアメリカで開かれる気候変動サミットや8月の世界経済フォーラム(ダボス会議)を経て、CPの検討内容も整理され、エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画が再設定される見通しだ。
道義的責任だけでなく、ビジネス視点でも取引きそのものに関わる本件は、事業戦略上、大きな変化を迫られる企業も多いだろう。

●グレートリセットする必要性
SDGsを社会貢献として捉えるのではなく、事業に組み込まなくては存続するのもむずかしいという考えが主流になるであろう。ビジネス環境をシビアに見積り、長期経営戦略の土台として産業構造基盤の再構築や経済社会の変革をもたらす成長に寄与するものとして捉えることが求められる。

◆前橋市の街づくりにみるサステナブルな地域再生

レジャー・サービス産業とSDGsの関連性は多く散見される。たとえば、国連世界観光機関(UNWTO)によると、観光におけるSDGsへの姿勢は、経済的な側面に加え、貧困、自然・環境、文化・遺産、相互理解や平和の創出といった分野で大きく貢献できるものであり、17すべてのSDGs目標に関連するとしている。

以下では、観光にも関わりの深い都市再開発について、群馬県前橋市の地域再生への取組みをSDGsの視点を採り入れている好例としてみていく。

前橋市は他の地方都市に先駆けて「スマートシティ」を目指している。居住者は前橋駅を利用する機会が稀で、学生は自転車、大人は自動車で移動する。また隣接する高崎駅が上越新幹線の停車駅であることで、前橋市は県庁所在地でありながら、県外から人が集まりにくい構造となっている。

そのため駅前は昔から人だかりがなく、デパートや商店街が連なる市一番の繁華街や県庁は駅から徒歩20〜30分離れた場所にあり分断されている。さらに、郊外型ショッピングモールが開発されるにつれて駅や繁華街の集客力は低下し、シャッターを閉める店もふえている状況にあった。

このままでは前橋市自体に活気がなくなることを懸念し、地元の青年会議所のメンバーや民間有志が施策を検討してきた背景がある。街づくりのポイントは以下のとおりだ。

●スーパーシティ構想
近年、AIやビッグデータなど先端技術を活用し、都市内のさまざまな事業やサービスに共通に使用できるデータ基盤を整備することによって、社会のあり方を変えるような都市を設計する動きが国際的に急速に進展している。
こうした状況も踏まえ、内閣府が公募を出した制度が「スーパーシティ型国家戦略特区」だ。前橋市が適用しているのは大型の都市開発ではなく、すでにあるアセットを最大限に魅力づけ、県外からの集客によって活性化させ、地元市民がより便利に安心に暮らせる体制を構築することが基礎的な考え方にあるという。

●民によるリーダーシップ
このスーパーシティ構想に先立ち、前橋のブランディングの旗振り役は、メガネブランドJINSの田中仁氏(㈱ジンズ 代表取締役CEO)だった。自ら私財を割き、本当に前橋をよくしたいという思いで活動されている。市長や知事、そして国内トップクラスのイノベーターをも巻き込み活動の価値を向上させてきた。行政主導ではこのような開発はできなかったはずだ。

●サステナブルか否か
開発にあたっては経済成長を前提にするのではなく、「ちょうどよい規模感」や「既存の景観にあわせていくこと」を重要視しているという。既存アセットのリノベーションの可能性や、街並み全体をどのようにしていくことが集客につながるのか、住民の意思や税収で持続的に維持していけるのか、というサステナブルな思考が構想の中核を担っている。

●クリエイティブやプロのワザ
街づくりは多様な人が携わり、新たな価値を生み出すことが求められる。
もともと存在していた文化を継承し、田中氏が新しく蘇らせたのが300年の歴史を引き継いだ「白井屋ホテル」だ。世界的な建築家がデザインし、食文化とアートの発信源として蘇った。その土地の有形無形の資産を承継していくサステナビリティの考え方がここにもみえる。

●ミクストユース
都市には住居、店、仕事場、文化施設、工場などさまざまな用途が組み合わされている。単一の施設や街区に多様な用途の空間を混在させることを「ミクストユース」と呼ぶ。対の意味で使われるのが「用途純化」で、経済成長が前提の社会ではこちらのほうが一般的であった。快適な暮らしを実現するために用途の混在を避け、安全と生産効率を向上するのが目的だ。
サステナビリティ視点を据える前橋の街づくりにはミクストユースの考え方が根底にある。

●SDGsをサポートするDX
今後は利便性を高めるためのOS化を進め、開発によって人の流れがどのように変化したのかを第三者機関や地元の金融機関がアセスメントする予定だという。筆者の出身校でもある地元・前橋高校出身でアメリカ・アップル本社の副社長を務めた福田尚久氏(現 日本通信㈱ 代表取締役社長 )も街づくりに一肌脱ぐというのだから今後ますます目が離せなくなる。テクノロジーは街とSDGsの関連性を強化することができるはずだ。

都市の活力はその多様性によって維持されると考えるが、前橋市の例では、長い歴史を重ねて培ってきた姿を再生し、人の活動をふやすことで街の魅力を生み出し、ヒューマンサイズな地域再生を実現しようとしている。ステークホルダーが複雑かつ多岐に渡るなかで、その与件が本質的に整理され、地元の人々が心の底から喜び、訪れる人にプレミアムな心理を提供できる開発になることが期待される。
前橋のこのローカルな活動はメディアやビジネスシーンでも定期的に取り上げられており、サステナブルな視点が深い洞察を生み出し、人々を惹きつけている。

◆SDGsへの共感はより幅広い層の消費者に拡大へ

次に、S D Gs が消費者のベネフィットとどのようにトレードオフするのか、要点を整理しながら考察していきたい。

●消費者価値観の変化
着飾ることや、無理をしてまで高価なものを身につけることへの消費性向は低下している。日用品領域では利便性、手軽さ、見た目のよさ、低価格が財を消費する際の大きな決定因子となってきたが、最近ではデザイン性が優れていても環境負荷を無視したファッションやエネルギー効率を無視した過剰なサービスは敬遠される傾向にある。

21年3月、神奈川県鎌倉市の七里ヶ浜にオープンした「Biople by CosmeKitchen 七里ヶ浜店」は量り売りのソープが地元の人に好評を博しているという。ロケーションのよさに加えて、エシカルライフを感じることのできる店内演出や、運営する㈱マッシュビューティーラボの長年ぶれずに継続している企業戦略が、ターゲットとなる女性の心を掴んでいるようだ。

筆者がリサーチで現地を訪れた日は、周辺に展開しているロサンゼルス発のセレクトショップである「ロンハーマン」、〝世界一の朝食〞を提供する「BILLS」、ハワイアン料理を提供する「PACIFIC DRIVE ‒IN」、老舗レストランである「珊瑚礁」や「アマルフィイ デラセーラ」と呼応して、この周辺だけが渋滞をつくっていた。

サステナブルな視点とその財本来の強みが組み合わされることで魅力を増し消費者を惹きつけている。今後、SDGsへ取り組んでいる姿勢が消費決定の要素としてますます重要になるであろう。

●「Leave no one behind」 ──誰一人取り残さない
SDGsを消費や行動に好意的に採り入れる層は、これまでは限定された層だったと捉えることができた。ところが、最近では消費者の受容性も高まり、インセンティブ訴求の対象が社会や地球であることがインクルーシブで心地よいと感じる人も多くなり、特にライフスタイル高感度層でその高まりを実感している。今後はより幅広い層の消費者においてもSDGsへの関心が高まってくると見立てている。

この傾向は先進国に共通する潮流となっている。パンデミックや地殻変動、紛争リスクなど不確実な出来事が多くなり、こうした状況にも対応させていこうとするレジリエンスな姿勢が求められるなかで、虚飾ではなく本質的な値が重視されてきている。

●循環型消費へ
地球環境への負荷が限界点まで達していることを知り、大量につくって消費するスタイルを見直し、資源を循環的に使い続けるサーキュラー・エコノミー実現への気運も高まっている。この潮流を受け、消費者も衣食住のライフスタイルを持続可能なものに転換していこうと思いはじめたとみられる。

◆SDGsへの取組みがもたらす企業成長と収益性

いまや企業と消費者が、バーチャル/フィジカルに関係なく常につながるようなデジタル時代である。そうした状況下、SDGs領域で特に重要視されるマーケティング視点を2点取り上げたい。

①エクスペリエンススコア
消費者の行動変容につなげるには、使う責任を啓蒙することに加えて、促進させる仕組みを構築することも重要だ。
顧客は財やサービスから得られるベネフィットやコミュニケーションによってブランドや企業にロイヤルティを形成する。経済的なロイヤルティは購入金額や購買頻度で計測することができるが、愛着の度合いや信頼関係で築き上げられる心理面でのロイヤルティをスコア化することは非常にむずしいとされている。

当社ではSDGsに貢献した消費や行動を経験値として計測することが可能であると見立てており、累積経験値によって新たなベネフィットや承認欲求が満たされれば行動変容にもつながると確信している。

②C2Cインタラクションの活性化
前橋市の例をみても、人の心を動かしたのはやはり人である。企業が消費意欲を喚起することより、信頼のおける人の推奨意見はより行動を促す効果が高い。SDGsの取組みを全面に押し出して訴求することを控えている企業も多いと考えると、消費者間の推奨行動が一層重要になる。

SDGsに取り組むことは、一見コスト高ばかりがイメージされがちだが、利点も多い。想定される利点をアパレル業界を例に説明していこう。
国内アパレル市場はこの20年間で市場規模30%減、供給量2倍、一点単価40%減、一枚当たりの着用時間は約半分になっているという。廃棄や転売在庫もふえて、ブランド力も低下した。業務ロス・在庫ロスを同時に生み出し、不採算事業や不採算ブランドが廃止に追い込まれ、人材の流出も激しくなった。明らかに供給過剰で商品やブランドコミュニケーションの質も低下した。

アパレル業界はいま、原料開発から消費者の手に渡った製品の廃棄まで、バリューチェーン全体で環境負荷のポイントを探り出し真剣にSDGsにとりかかろうとしている。以下はアパレル業界で検証された因果関係だが、多くの業界にも当てはまると考えられる。

企業成長の面ではブランド力の向上だ。消費者がSDGsへの取組みを好意的に捉え、購買だけでなくそのベネフィットを自ら発信し新たなターゲットに推奨してくれる。
収益面では、今後は適量(必要量)を消費することを想定し在庫が残らない範囲での生産・供給を行ない、これまで在庫ロスが生み出していた、仕入れコスト、運搬コスト、倉庫保管費、管理する人的コスト、評価損等、あらゆるコストを削減できる。業務ロスが削減されることで本来やるべき付加価値を生む業務に集中できるようにもなり、社員のモチベーション向上や業務精度の向上なども期待できる。

このほか、副次的メリットも多い。一つ目は消費者や取引先との関係構築や人材採用にも好循環を及ぼす点だ。若者世代は、景気の好循環を経験した世代と比較してSDGsを受け入れることに抵抗が低いと言われている。自社の事業がSDGsにどのように取り組んでいるか冷静に感じ取っている。SDGsは若い世代の求心力にもなっているのである。

二つ目はインパクトも大きい機関投資家からの資金調達があげられる。非財務情報であるESG領域への取組みを考慮する投資活動が今後ますます活況を呈すからだ。

では、具体的な戦略構築、ロードマップ策定にはどのようにとりかかればよいのか。以下はその一案である。

①自社のフットプリント計測
自社の事業活動や財から生じる環境負荷を可視化することが重要だ。たとえば、バリューチェーンの各プロセスの過程におけるCO2排出量の測定である。これまで困難だった定量的な検証も、今後はブロックチェーン技術などメトリクスを利用して進捗状況の測定が低コストで可能となる。

②目標設定
削減目標を実現するためのKPIツリーを設計し、各プロセスごとの事業指標を設定する。SDGsの169のターゲットや244の指標を用いて社会への貢献度を明確に発信できれば、顧客接点拡大にもつながるのではないだろうか。自社事業の強みを再認識するよい機会になると思われる。

③組織の最適化
CSR視点では経営企画や推進室など、事業部でない部門が主管となることが多いと推察できる。今後はCSV(Creating Shared Value)視点を重要視し、トップや経営部門がコミットし、事業部まで一気通貫できるような組織が望まれる。

最後に、SDGsに取り組むことは長期的な経済成長と所得向上をもたらすと認識している。パリ協定が発効され5年が経過するが、21年は政府の動向を見ても脱炭素社会に向けた大きな節目となることは間違いなさそうだ。
いまは時期尚早と考えている企業も、事業環境や世論が変化したときに、本稿の内容に一つでも共感していただき、経営方針や事業のお役に立てたのであれば大変嬉しく思う。

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伊藤忠ファションシステム山下徹也山下徹也 Tetsuya Yamashita
マーケティング開発第一グループ グループ長
1974年生まれ。事業会社ではアントレプレナー視点で成長セクターの新規事業開発を担当。現在はグローバル動向の知見集積業務と事業経験を活かしたコンサルティング領域を専門とする。21年度はファッションと環境を主軸に、SDGsの実装を促進する官民連携の社会基盤構築に取り組む