生活者の消費行動を読み解く。モノを「 手放す」ムードによって見えた次代の新しい買い方とは

■「手に入れる」より「 手放す」ことへの意識が高まる

ここ10年ほどの生活者動向を振り返ってみると、成熟化社会によってブームとなった「断捨離」にはじまり、モノをなるべく持たないという“ミニマリスト”が話題になるなど、モノを「買う」よりも「処分する」「持たない」ことへの意識が高まってきたように感じられる。特に近年、生活者の購買行動に変化をもたらしたのはフリマアプリではないだろうか。これまでリサイクルショップに持って行っても二束三文でしかなかったものでも、自らの裁量によって売ることができる。スマホ一つで簡単に出品、決済ができるという手軽さもあって人気を博し、個人間でのモノの売買が一般化。所有物を「売る」ことのハードルが下がっている。実際に生活者が将来に向けた「モノ」の取り入れ方としてどのような考えを持っているか定量調査※1 を実施したところ、トップ3は「できるだけ長く使えるモノを選ぶ」「不用品は、積極的に捨てる」「多少高くても、愛着が持てるモノを選ぶ」となった。その他「なるべくモノを買わないようにする」「常に断捨離をする」「不用品は積極的に売る」が上位に挙がる。自分にとって必要なものを厳選し豊かに暮らすといった潮流は確実に定着化し、活用できないモノを持つことは時流に乗れていない行動として捉えられている。

■「もったいなくて捨てられない」という心理から見えてきたこと

しかしながら、こういったムードとは裏腹に、実際には「手放したくてもなかなか手放しきれない…」という人も多いことが今回の定性調査※2から見えてきた。そこでは、「手放したいものは何か?」を聞き、もし手放すことを躊躇しているとしたらその理由は何かも聞いた。すると、年齢が上の世代ほど「高かったと思うと捨てられない」「また使うかもしれない」と、もったいない意識が高いことが分かった。とある60 代女性は、捨てたいモノの対象として“ 婚礼家具” を挙げた。「自分が亡くなったら、子どもたちにとって残されたら困るものNo.1 だと分かっているが、用意してくれた両親の気持ちを考えると…」と、モノへの思いが強ければ強いほど処分が思うように進まないケースも見られる。40代女性は、売りたいモノとして20 足ほどのヒールを挙げた。合計すると数十万円にもなることから、「元値を考えると…」と損得勘定してしまい、なかなか踏み出せない。一方、世代が下になるほど、モノへの執着心は薄まり、手放すことに対してのハードルも低くなる。20代男性は「◯◯のロンTは売れないから捨てるけど、教科書は使う人がいると思うので売る」と、何を捨て、何を売るか、その判断が明確で値付けも現実的だ。年齢が上の世代は購入時の値段になるべく近い価格で売りたいという傾向があることから、モノの価値付けの感覚も世代によって違いが見られている。

また、空間に対する意識も同様に世代差が見られた。例えば50 代女性は「家にいくつも使っていないドライヤーがあるけれど、収納スペースがあるからそのままにしている」というのに対し、30 代女性は「プレゼントで新しいドライヤーをもらったので、今まで使っていたドライヤーは捨てるつもり。使わないものを家に溜めておくのはストレスになる」と、不用品がデッドスペースを生み出していることをシビアに捉えている。若い頃からブームとして断捨離に触れてきたことや、東日本大震災の影響からモノの適量を意識してきた若い世代ほど、こういった傾向は顕著だ。

ただ、意識を実践に転じるのはなかなかできないようで、全体的には「捨てたいもの、売りたいものはあるけれど、その作業が面倒で進んでいない」といった声も多い。買うことは簡単でも手放すことは難しいといった経験から、モノを買う際には「これは本当に必要なものなのか?」とより吟味するようになっていると考えられる。

吟味によって生活者はますますモノを買わなくなったのか?というと、そうともいえない。所有にとどまらない環境が整ったことによって、買い方自体が変わってきたように思われる。最近の20代では、「後々売れやすいようになるべくブランド力のあるモノを買う」こともファッションの買い方の1つになっている。ブランドは自己表現のツールとしてだけではなく、“検索で引っかかりやすい”というネット社会ならではの特徴を持っているからだ。また、ある30代女性は、「今話題のゲーム機を買おうか迷っていたが、もし飽きてもある程度の価格で売れると目処がついたので買うことにした」という。ゆくゆくは売ることが出来るということが購入の際の後押しになっており、売り先と価格が想定できることで、財布のひもが緩むようだ。

このように、生活者は「買う」際に、それをある程度使ったら売るのか?捨てるのか?それともずっと使い続けるのか?と、最終的な手放し方まで考えるようになっている。それはつまり、買ったものをいかに自身のライフスタイルで活かし切ることができるか否かを考慮するという、「前向きな買い方」を望む生活者が増えているということだろう。

■買ったものをいかに活かし切るか

今回の調査で「買いたいもの」に挙がったモノ・コトから、次代の前向きな買い方の事例として、4 つの消費パターンが見えてきた。シェア・レンタルなどをはじめ、所有せずに活用できる、試して納得してから買えるといった生活者が理想とするライフスタイルを実現しやすい環境が整ってきている。

① 話題・エンタメ型
「最新の話題を消化する 」 …AIスピーカーなど話題性の高いもの、エンターテインメント性のあるものなど

② レンタル・シェア型
「たまにしか使わないもの」「トレンド性の高いもの」…家での保管が難しいもの、気分によって変えたいものなど

③お試し型
「本当に自分に合ったものが欲しいから、買う前に実感する」…値段が高いもの、自分の身体に直接触れるものなど

④アップデート型
「捨てることなく、アップデートして使い続ける」…愛着を持って、長く使いたいと思うものなど

■「入手→活用→手放す」というサイクルが求められる

実際に、上記にあてはまる提案をしている事例を2 つ紹介したい。1つ目は「③お試し型」に該当する、コスメアプリ「HowTow」。「どの化粧品が自分に合うか分からない」「試供品で試せたとしてもその日のコンディションによるところが大きいので効果を実感しにくい」など、コスメ迷子な人たちは多いと思われるが、アプリのユーザー審査に通れば、新品コスメを1カ月間無料で体験することができるというもの。使用した後にSNS上でレビューすれば化粧品はそのままもらうことができる。購入する前に、本当にその商品が自分に合うかどうかをじっくり試すことができる点が魅力で、2018年3月ローンチ以降の累計登録者数は15万人(2018年11月時点)にのぼっている。

2つ目は、“スペック”を売ることを一つのコンセプトにしたアパレルブランド「ALLYOURS」で、「④アップデート型」に該当する。「インターネット時代のワークウェア」「今ある服をアップデートする」をコンセプトに、手持ちの服に撥水や防臭加工をすることによって、着用機会を増やし、長く大切に着られるものに変えるサービスを機能の1つとして提供している。新たにモノを買うのではなく、すでにあるモノにメンテナンスを施すことで、愛着を持って長く着用するということが実現できる。サスティナブルなファッションスタイルでもあり、まさに今生活者が求めているサービスだろう。

今後、生活者のライフスタイルの多様化とともに、モノ・コト・サービスの吟味の視点はさらに細分化していくことが予想されるが、「モノを手に入れる→活用する→手放すorメンテナンスする」といった最終的なリリースまで考えた一連の消費行動は着実に増えていくだろう。とはいえ、「手放すことが面倒臭い」など、循環が滞ってしまっているケースも多いため、この部分を解決できるアプローチが有効になっていくのではないだろうか。

※1:Webアンケート調査「生活者の気分’19」2018年9月実施
※2:ビジュアルアンケート調査「生活者の気分’18-19」2018年5月実施

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