持続可能なビジネスへ ファッション業界と「 断捨離」 

■フリマアプリの普及が新品購入単価を押し上げる


家庭で不要になった洋服を自分自身で売る人が急増している。経産省の推定によると、「メルカリ」、「ラクマ」などのフリマアプリの推定市場規模(流通総額)は、6,392 億円。その半数弱はファッション製品だと言われる。フリマアプリを通じてファッション製品を買う人が増加したことで、新品ファッション製品の市場規模が縮小しているかといえば、その影響はほとんど無く、新たにマーケットが形成されたという見方の方が正しい。そればかりか、フリマアプリで売った人は、「断捨離」ですっきりした分、新品を買う行動に転じている可能性さえある。株式会社メルカリが国内のフリマアプリ利用者と非利用者1,000 名を対象に実施した2019 年に発表した「2019年度『フリマアプリ利用者と非利用者の消費行動』に関する意識調査」によると、フリマアプリの利用による新品の購入単価は、28%が上がったと回答し、単価が上がった商品カテゴリーでは「洋服・靴・カバン」がトップの55.0%という結果だった。この結果だけを見れば、ファッション業界としては、消費者が行う「断捨離」をむしろ奨励すべきかもしれない。

■経営の健全化のためにも
SDGs視点でも今、過剰在庫が問題視されている


むしろ、ファッション商品における「断捨離」を考えなければならないのは、ファッション製品を買う側ではなく、売る側であるアパレルメーカーや小売業かもしれない。いわゆる、過剰在庫問題である。

過剰在庫は、企業の収益に影響を与えるだけでなく、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からもファッション業界の在り方が問われる問題だ。ファッション商品は鮮度が重要な「生もの」であり、トレンドやシーズンが去った商品は価格を下げたとしてもなかなか売れない。一方で、ブランド価値を維持するために、売れ残った商品を他の業態に転売することも好まれないため、セールなどを経て最終的に残った商品は産業廃棄物として焼却処分することが、これまでの業界の慣例だった。

近年、まだ食べられるはずの食品が廃棄されてしまういわゆるフードロスが社会課題となっているが、ファッション業界の過剰在庫問題はある意味でこれに近い。ファッションの場合は、食品のように消費期限を過ぎたとしても健康被害につながることはないにもかかわらず、一度も着用されることなく廃棄しているのだから、問題はより深刻かもしれない。ブランド価値を守るための焼却処分とはいえ、SDGsなどに注目が集まる中では、ブランド価値を毀損することになりかねない。たとえば、商品在庫のタグを付け替えた上でのリセールやリメイク、アップサイクルなど再商品化するためのシステム構築は急務だ。

■捨てるなら作らない生産、物流現場の「 断捨離」 進む


「『断捨離』するくらいなら、消費者は最初から買わなければいい」、もっともな意見だ。それならば、アパレル企業側は、「廃棄するくらいなら作らなければいい」。しかし、ファッション業界の構造はなかなかそれを許さない。

かつて、多くのアパレル企業は展示会を開催し、全国各地の百貨店や専門店のバイヤーから受注していたものだが、そのために多様な立地や店格、ターゲットの違いなどにきめ細かく対応する必要があった。結果として、品番は増え続け無駄な在庫を生む土壌となっていた。それを防ぐため考えられたのが、1990 年代から急速に拡大した日本型SPAだった。企画~生産~販売を一貫してコントロールするから在庫を減らすことができるという発想だ。しかし、欠品による機会ロスを防ぎセール直前まで店頭を維持するにはやはりある程度の在庫が必要で、売れ残ったらECやセールやアウトレットで処分すればよかった。しかし、アウトレット店がいまや1 つの業態になってしまったがために、店頭の品揃えを魅力的にするため、アウトレット用の商品をわざわざ生産する、つまり「処分するための商品を生産する」という不可解な現象が生じてしまったのだ。また、期末在庫を残さないために期中セールを行ったり、ECでクーポンなどを発行することも、その瞬間は商品が動くもののセール期やアウトレット店のセールスパワーを落とすことにつながりかねず、諸刃の剣ともいえる。

近年は、受注生産であれば無駄な在庫は生まれないという理由で、大手アパレル企業も新興のファッションベンチャーでも、オーダーメイドをうたうブランドの立ち上げが盛んだ。歴史的にもオーダーから始まったメンズスーツのような商品や、シャツやジーンズなどプロトタイプなどがある商品は、オーダーメイドシステムが導入しやすい。しかし、レディースのカジュアルウェアのようにシステム化しにくい領域も多い。そして、皮肉なことではあるが、このオーダーメイドがしづらい領域の方が市場規模ははるかに大きい。

今後期待されるのは、その場でデザインを選んで作れるオンデマンド生産の仕組みだろう。例えば、株式会社島精機製作所の「ホールガーメント」やセーレン株式会社の「ビスコテックス」のようなオンデマンド生産が市場に普及すれば、現在と比較すれば在庫はある程度縮小されるだろう。店頭でサンプルを見て発注しEC在庫から直接家に届けるというショールーミング店舗であれば、店頭に置くのは最低限の試着用の在庫のみ。これらが全てオンライン上で完結すれば、出店経費や店頭の人員も「断捨離」できそうだ。

生産や物流の現場でもIoT(モノのインターネット)の活用によるスマートファクトリー化が進めば人員の削減につながる。自動縫製ロボットの技術は急速に進化しており、完全自動化の時代にシフトしていくだろう。これが実現すれば、生産地での過酷な労働問題の解消につながることが期待されるが、一方で発展途上国の産業基盤や収入を奪う可能性も懸念されている。

■ファッションの魅力の原点重視が「買う理由」につながる

「作る現場」、「管理する現場」、「売る現場」で、それぞれ「断捨離」が進むことで、ますます効率化は進むだろう。在庫のロスも減り、販管費も減ることで収益は向上するかのように見える。ただし、ここで忘れてならないのは、なぜ不良在庫が増加するのかという根本原因である。「商品の鮮度が大切だから」という理由で、新しいものをどんどん投入したとして、買う側は商品に魅力を感じているのだろうか。現在の消費不振は、消費者がさほど魅力的と思わず、今すぐ買う必要性を感じていないことの現れではないか。需要と供給アンバランスな状態が生まれれば、当然、不良在庫につながる。定番商品がコンスタントに売れていくのであれば、シーズンを超えても売るチャンスはある。オーダーメイドやオンデマンド生産、サンプルのみを置く店舗は、不良在庫は発生しないかもしれないが、魅力のあるプロトタイプがなければ、発注してくれる人もいないため、収益も産めない。



消費者が「断捨離」で洋服を手放す理由は、子供の成長や大人であれば体型変化などの実利的なものから、好きなテイストが変わったなどさまざまだろう。いずれにしても、捨てた洋服以上の価値を認めなければ買わなくなるのは理の当然である。捨てる際には、必要ではない理由を冷静に判断されているのだから。流行だから、かわいいからというだけでは消費者には購入してもらえないのが現在だ。その一方で、消費者と業界双方の「断捨離」によって生まれた「古着」という流通は増え、新品の強力なライバルとして活況を呈している。消費者の選択肢はますます多くなる時代。今まで以上に重視しなければならないのは、「ファッション商品とはいったい何か」「その魅力とは何か」という原点を深掘りすることではないのだろうか。その答えを見つけることが、持続可能な業界になるという意味だと思う。


著者情報

第1ディビジョン マーケティング開発第1グループ 小売業やメーカー向け戦略策定、商業デベロッパー向けの戦略・コンセプト策定・ディレクションなどが主な業務。時代を独自に読み解く視点で執筆・講演も行なう。同社ホームページにて「太田の目」を連載中。オリジナル調査「Key Consumer Indicators by ifs」のディレクターも務める。1963 年生まれの「ハナコ世代」。あいみょんの大ファン。

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