マーケティング戦略アップデート 第7回 “移動型コンテンツ”で楽しむ暮らし方

コロナ禍で懸念されるソーシャルジェットラグ

コロナ禍での暮らしも1年以上となった。当社が実施した2021年1月の生活者調査では、「コロナ禍が完全に終息したとしても前の暮らし方には戻らない」と考えている人が7割以上を占めた。日常の暮らし方だけでなく、在宅ワークやオンライン授業の導入など働き方や学び方も大きく変わり、多くの人がいままでと違った緊張感を強いられながら日々生活している。

こういったストレスや生活習慣の変化によって「寝付けない」「眠りが浅い」など、睡眠が十分に取れない状態が続いて精神的、身体的な疲労が蓄積してしまう、いわゆる「ソーシャルジェットラグ※=社会的時差ボケ」が懸念されている。
※ソーシャルジェットラグとは、体内時計と社会的行動時刻(実生活時刻)とのズレが引き起こす睡眠課題のことを指す。


日常を刻むということ
こういった課題を解消するために、メンタルウェルネス、マインドフルネスといったことが注目され、自分の感情の動きを把握し、自分の日常のリズムや時間感覚を確立したいというニーズがみられる。たとえば、AI(人工知能)で感情をトラッキングしてくれる機器や、ノイズ、空気の質、足音、振動などの情報をインプットし心の落ち着きの取り戻し方をアドバイスしてくれるデバイス、時間の経過を把握できる機能のあるキャンドルなど、最新テクノロジーを駆使したさまざまなアプローチが研究されている。

一方で、昔ながらのアナログなアプローチもあるだろう。商業施設を手掛ける大手ディベロッパーが昨年スタートした移動販売のニュースを見て、20年位前まで実家周辺に来ていた移動販売の八百屋を思い出した。毎週水曜日午後に、近所の駐車場に八百屋のトラックが来て商品を広げていた。周辺にスーパーや商店街もあり、それが来ないと買い物に困るという地域ではなかったが、水曜午後になると近所の主婦達がこぞって利用していた。箱で買って分けあったり、献立の話や同級生の話になったり、いま思えば、八百屋を通じてのコミュニティになっていた。鮮度・安さに加えて元ヤンキーの八百屋のお兄さんの好感度も高かった。そして、なによりも“水曜午後は八百屋の日”とみなの日常の中に刻まれていた。


街のあり方と日替わり・時間替わりの移動販売

この1年、家で過ごす時間が長かったため、自分が暮らす街で必要なモノ・コト・サービスを完結できたら、という思いが強くなっている。イギリスのエコノミスト誌が公表している住みよい都市ランキングで毎年上位にランキングしているオーストラリア・メルボルンでは、さらに住みよい街にするために、車社会にならざるをえない郊外で、徒歩20分圏内(20-Minute neighbourhoots)に医療、飲食、教育、買い物など生活に必要なサービスや施設にアクセスできることを目指している。そういった街づくりにおいては、固定的な施設をつくるだけでなく、日替わり・時間替わりの移動販売を組み入れることで、より柔軟に、暮らす人々の気持ちに寄り添えるのではないだろうか。近い将来は、自動運転技術を活用し、人々のニーズにオンデマンドで対応するような移動店舗も実現されていくだろう。

商業施設の場合、通常のテナント揃えに加えて、イベントや期間限定ポップアップなど変化のあるコンテンツがあると、何度も通う期待感につながりやすい。運用上のハードルはなかなか高いとは思うが、移動販売においても、生活に必要なものだけではなく、ちょっとしたサプライズや刺激のあるコンテンツをうまくミックスして日替わり・時間替わりで提供できると、日常の充実と刺激を両方満喫してもらえるようになるのではないだろうか。施設でも移動販売でも提供するコンテンツの中身が重要なのは言うまでもないが、移動販売の場合はそこに暮らす人々の日常にどう入り込むか、コミュニティのハブになれるかが肝になるだろう。

ともすると「リアルかオンラインか」という議論になりがちだが、視点を変えて、暮らしの中にこちらから出向いていくことで、人々の日常を刻むモノ・コト・サービスの新しいあり方の可能性が広がるだろう。


著者情報

グループ長代行 百貨店、セレクトショップでレディスファッションに携わった後、現職に至る。商業施設開発やリニューアルに向けたコンセプト策定、小売に向けたチャネル戦略支援などに携わる。ファッションだけではなく、ビューティ、食、モビリティなど、幅広い分野を守備範囲とする。趣味はガーデニングとコロナ禍で始めた自分のためのお弁当作り。

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