メタファッション市場

最初に断っておくが、筆者はメタバース(※1)市場に詳しいわけではない。
ラグジュアリーブランドやファッション企業が、次々とデジタルファッションやNFTコレクション(※2)と呼ばれるバーチャルな商品を展開し始めている。さらには、ナイキのように、これらのバーチャルなファッションを制作するスタジオを買収する動きも始まっている。
バーチャルな空間では、リアル空間のように食事をしたりする必要はない。アバターが街にでかけたり、他のアバターの家に行ったりするため、洋服は必要になる。しかも、様々なものが自由であるバーチャルな空間では、洋服は他のアバターと識別する役割、もしくは個性を発揮する重要なツールとなる。リアル空間がファッションがコモディティ化しているのに、バーチャル空間ではファッションがより重要な役割を果たすのは、なんとも皮肉に見える。
ラグジュアリーブランドは、単純なデジタルファッションの売上高以外にも、SNSやゲームで育った若い世代へのブランドアプローチや、ファッションへの興味を低下させないための手段として、メタバースに期待をしているようだ。
これらのデジタルファッションの騒ぎを見て思い出した。2005年頃、子どもたちに爆発的に人気が出たアーケードゲームがある。「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」だ。コインを投入して、髪型・洋服・靴などのカードをスキャンさせ、コーディネイトを行い「オシャレパワー」を作り、ダンスゲームに挑戦してポイントを競うというゲームだ。当時、小学生の女の子たちが熱狂し、母親までを巻き込んで、楽しんでいた。小学生が対象のゲームであるため、高価なアバターの衣装を直接購入するわけではないが、ゲームを楽しむためにファッションアイテムのトレーディングカードを購入するという市場が出来上がった。ゲームを展開していたセガは、このゲームをモチーフに実際のアパレルへも参入。バーチャルなファッションが一種の社会現象を作った。但し、類似のゲームが乱立したこともあり、2008年には全てのサービスが終了した。この間わずか4年。
ファッション業界が期待するメタバース(仮想空間市場)が、空想市場に終わらなければいいと思うのだが・・・。

(※1)メタバース:メタ(=高次元の)、ユニバース(=宇宙)を組み合わせた造語。仮想空間の中でさまざまな活動ができるようになる技術。

(※2)NFTコレクション:購入者が誰で、誰の手に渡ったか、現在は誰が所有しているかなどをブロックチェーン技術で記録され、確認できるデジタル資産によるアートやデザイン。


著者情報

第1ディビジョン マーケティング開発第1グループ 小売業やメーカー向け戦略策定、商業デベロッパー向けの戦略・コンセプト策定・ディレクションなどが主な業務。時代を独自に読み解く視点で執筆・講演も行なう。同社ホームページにて「太田の目」を連載中。オリジナル調査「Key Consumer Indicators by ifs」のディレクターも務める。1963 年生まれの「ハナコ世代」。あいみょんの大ファン。

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