最大公約数的状態をはみ出さないLINE世代

次世代の価値観を体現する新たなジェネレーションの登場 伊藤忠ファッションシステム(株)では、最新のリサーチに基づきオリジナル世代区分を更新、ハナコジュニア世代(1987 ~ 1991年生まれ・現在24 ~ 28歳)の下世代となる最年少世代として、1992 ~ 1996 年生まれ・現在19 ~ 23歳をLINE*世代と命名した。ソーシャル化の申し子とも言える彼らは、数こそ少ないが、次世代の価値観を体現する世代として要注目だ。今回はハナコジュニア世代との違いに着目しながらLINE世代の特徴を整理し、メディアの事例を参考にLINE世代に向けたアプローチの方向性を考えてみたい。 *「LINE」とは、当該世代の絶対的なコミュニケーションインフラとなっている「LINE」と、その場の最大公約数的な状態を察知し、その“一線”をはみ出さず、“ ~過ぎない”自分という、一定の“方向”維持に努める世代の価値観・行動様式としての「ライン(line=一線、方向性)」に由来する。 ※LINE世代についての詳細は、『FA流行誌』Vol.95「LINE世代 最大公約に今を過ごす」を参照。

ハナコジュニア世代とLINE世代の共通点と相違点:ソーシャル化のタイミングが自他意識や価値観の違いを生む

ハナコジュニア世代、LINE世代は、ともにバブル崩壊後の経済低迷期である“ 失われた20 年”と、インターネットや携帯電話の普及など、1990 年代以降の“情報化” の下に育ったデジタルネイティブだ。両世代ともに、今後の経済成長に過度な期待を抱かない、ポストバブル世代ならではの現実志向の持ち主であり、現状を肯定し、不安やストレスのない状況の確保を優先する安定志向を併せ持つ点が共通する。しかし、両者の自他意識やコミュニケーションの作法、消費やファッションに対する価値観は大きく異なる。その違いの背景にあるのは、コミュニケーション環境の変化だ。わずか5 年程度の差であるが、つながりが不可避的に広がり、その言動や行動が可視化される“ソーシャル化”が格段に進んでおり、10代でどのようなツールやサービスに接してきたかが大きく影響している。

ハナコジュニア世代:身近な人間関係を自己規定のよりどころにすることで安定を確保

ハナコジュニア世代は、中学・高校時代から情報収集手段としてPC のネット検索、コミュニケーションツールとしてケータイを使いこなしてきたが、Facebook やTwitter を始めたのは大学時代で、スマホでのLINEはほぼ社会人になってから。SNSのスタートはmix(i ミクシィ)、すなわち自分と趣味や嗜好が合う人とだけで交流できるコミュニティーベースのサービスからであり、親をはじめ家族や親しい友人、職場の上司や先輩など、信頼や親密度の高いコミュニティーを居場所とし、自分らしさのよりどころとなっている。また、その場で最適評価を得ること、「ちゃんとした人と見られる」ことを目指し、努力はいとわないが、その評価や結果はきちんと認めてもらいたい、一目置かれたいという願望も持つ。人間関係も価値観の合う人との深い付き合いがメインで、それ以外の関係を築こうとする意識は希薄であると感じられる。そんなハナコジュニア世代にとって、消費は「ちゃんとしている自分」を実現するための手段なのだ。親であるモノ志向・ランクアップ志向の強いハナコ世代(1959 ~ 1964 生まれ)の消費志向も影響し、生活環境の変化に応じて「ちゃんとしている自分」をアップデート・アップグレードする意識を持っており、ライフステージの変化がモノ・コト選びのガイドラインとして機能している。ファッションはその手段の最たるもので、その場にふさわしいキャラにきちんとはまることを重視する。トレンドやテイストも“盛れるだけ盛る” ことを好み、LINE 世代よりもトゥーマッチなファッションが特徴だ(表1)。

LINE世代:常に最大公約数的に受容される状態を維持することで、その場のストレスを回避

対するLINE 世代は、LINE をはじめとする主要SNS やデジタルツールが高校・大学時代には整っている環境で、それらをデフォルトとして享受した。一挙手一投足が常に複数の他者の目にさらされ、LOG化されてしまうコミュニケーション環境が人間関係構築の初期設定となっており、不安やストレスのない状態を優先的に求める安定志向との相互作用の結果、他人の目に対する意識が上世代に比べて圧倒的に高まっている。自分の好みやこだわり、人との違い・優劣をアピールすることは避け、どんな関係においてもスムーズにコミュニケートできるよう自己イメージを“ ~過ぎない”最大公約数的に受容される状態に維持。他者との摩擦を避けることが、行動様式としてプログラム化されている。また、SNSで不可避的につながってしまう広範な人間関係を円滑に維持することに努める結果、全ての関係において浅いコミュニケーションにとどまる傾向が強い。旅行やイベントなどの“コト”消費は、そうした浅いつながりを盛り上げる活性剤となっており、消費の対象としても“モノ”への関心は弱まり、モノはコトの一部と捉える傾向が強まっている。特にファッションでその傾向が強く、おそろいの服やコスプレなどは、一体感をより一層演出するための手段となっている。また、周囲になじむことに主眼を置き、トレンドの取り入れ方もテイストの打ち出し方も「さりげなく・ほどほど」が意識される(表1)。こうした消費志向は、その親世代に当たる、ばなな世代(1965 ~ 1970 生まれ)のコト・等身大志向からの影響も大きい。


かわいらしさを押し出すファッションを好むハナコジュニア世代では、『sweet』や『ar』など、フェミニンさと色気を掛け合わせた雑誌が人気。「モテ」や「ちゃんとしたい」意識に応える『MORE』や『with』などのOL誌、『CanCam』などの赤文字系も上位にランクイン。一方、同性ウケ意識が強く、女の子らしさのアピールよりも“はずし”の効いたポップなファッションを好むLINE世代では、リニューアル創刊して間もない『mer』が4位にランクイン、『mini』『SEDA』などの青文字系雑誌も人気を集めており、ハナコジュニア世代とは異なるファッション志向がうかがえる。

LINE世代へのアプローチのポイント:一方的な発信から巻き込み型の共創への発想転換が必要

LINE世代にとって、情報は周囲にあふれているもの。ネットを中心に、生活動線上にある情報で済ませる感覚が強く、あふれる情報の中から、効率よく信頼性の高い情報を得ることに意識が向けられている。ファッションも、TwitterやInstagram(インスタグラム)などのSNS、Webマガジンやスナップサイト、「WEAR(ウエア)」のようなコーディネートサイトからの情報収集がメインとなっている。

『ADDmagazine』は、そんなLINE世代に向けて年間2回発行のフリーペーパーとWebサイトを通し、ファッションを中心にアートやカルチャーの情報発信を行う学生団体だ。代表・野地圭太氏は、「活動の本質は“楽しむ”こと。発信していくことは手段にすぎない」と語る。その上で「Webでは満遍なく取り上げている感じがあるが、フリーペーパーと連動して社会事情に絡めるなど、独自の視点で深く掘り下げた内容を打ち出したい。配布先や規模も絞り込んでおり、刺さる相手に向けてきちんと届けたい」と言う。

一方、ファッション誌の休刊が相次ぐ中、独自のアプローチで着実にLINE世代の支持を獲得しているのが2013年2月にリニューアル創刊した雑誌『mer(メル)』(学研パブリッシング刊)だ。読モ(読者モデル)を起点とする街のおしゃれな女の子の「コミュニティ誌」をコンセプトに、年1回の「mer fes.(メル フェス)」をはじめとする交流イベントや、会員読者がイベントや商品企画に参加するコミュニティー「merフレンズ」など、読者・読モ・編集部がリアルにコミュニケートし、誌面やコミュニティ作りにつながる活動を展開している。長年LINE世代に向けての情報提供に関わってきた編集長・正田省二氏は「この世代はリアルなコミュニケーションが希薄な分、アナログの温かみを渇望している。また、ピュアで夢を感じられる居場所を求めており、そういう場には積極的に参加したいという意欲を持っている」と分析。「直接会って仲間だと思ってもらうこと、巻き込むことが肝心」と語る。

常に“ ~過ぎない” 最大公約数的状態の維持に努め、ことさらに違いをアピールする「押し付けがましい」モノ・コトを敬遠するLINE世代。一見つかみどころがない世代だが、一方的かつ網羅的にモノ・コトを届けるのではなく、視点や世界観を絞り込み、それに共感・感動するユーザーを当事者として巻き込みながら共創していくことが鍵になっていきそうだ。


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