新しい若者 高校生たちの今
“変わっている”は褒め言葉。人と同じでなくてOK

伊藤忠ファッションシステムでは、世代研究の対象として、ポストバブル世代の先頭である団塊ジュニア世代(1971 ~ 1976年生/現在41 ~ 46歳)の子どもが10代後半に差し掛かっていることから、次世代の価値観を持つと思われるポストバブル世代の中でも、LINE世代より下の高校生※1にフォーカスし、定性的なビジュアルアンケートとデプスヒアリング※2を実施した。その結果、これまでの同調志向が強いと言われる若年層とは大きく異なる価値観が見られた。今号では、今の高校生たちの調査結果を元に、今後のアプローチ方法を探りたい。 ※1 対象の高校生は2016年度時点※2 調査:2016年10 ~ 11月実施/高校生男女8名+母親(団塊ジュニア世代)8名

高校生の基本価値観
無理せず自分自身の“ 好き”にフォーカス


女子高生と言えば「JK」という言葉で語られることもしばしば。今回のヒアリング調査でも高校生たち自身からこの言葉がよく聞かれたが、その使い方はどこか冷めたものであった。「いわゆるJKは、化粧バッチリで、髪を巻いていて、スカートが短いキラキラした子たち。そんなことを毎日するのは大変そうだけど、コスプレ感覚で1回くらいはやってみたい」「JKは社会的には魅力があるかもしれないけど、自分がなりたいとは思わない」(共に高2女子)など、JKを一つのジャンルと捉えているが無理に合わせる=同調する必要性を感じていないことが分かる。一方、「自分の見た目は量産型JKだけど、シュールで不気味なキャラクターが好きだから周りからは変わっていると言われる。人と違う方がいいので嬉しい」(高3女子)、「うちの学校には変わっている人が多いけど、素のままでいられるので居心地がいい」「“変人”は褒め言葉として使う」(共に高2女子)など、“変”、“変わっている”ということに価値を見出している傾向も見られる。ただし、ここでいう“変”とは周囲から逸脱するほどの個性を指しているわけではない。LINEやTwitterなど常に誰かと繋がっている環境下にいるSNSネイティブの彼らにとっては、他者目線を意識することがデフォルトとなっており、周囲とのコミュニケーションを意識しないような行動は避ける傾向がある。その上で、「皆と同じで権力のある人についていくだけではつまらない。オリジナリティが欲しい」(高1男子)など、例えば、部活の野球だけではなく趣味のバンド活動にも熱中して人とは違う面を大切にするなど、周りに同調しすぎるよりも、自分自身の“好き”に意識を向けることを重視している。

人と違って当然という意識はダイバーシティ教育やSNSから


人と同じでなくても良いと捉える背景には、学校環境におけるダイバーシティ化の影響が考えられる。子どもの進路・進学などをテーマに扱う雑誌『プレジデントFamily』編集長の中村亮氏は「近年では、校内に性同一性障害の子がいたり、女子校で制服としてパンツスタイルが取り入れられたりするなど、マイノリティの存在を前提とし個性を尊重し合う風潮が見られている。郊外の公立小学校のクラスでも外国籍の子が複数人いるのが普通になるなど、子どもたちは、人は皆それぞれ違って当然だということを、建前ではなく肌感覚として身に付けている」と教育現場の変化を語る。日々の環境が多様になっていることが“ 違いを認める” 価値観を持つ一つの要因と言えよう。また、TwitterやInstagramなどのSNSが暮らしに浸透したことによる影響も見逃せない。ネット上で各人の趣味嗜好が可視化され、多様な価値観の存在を知ることで、まわりにチューニングしていく方がかえって難しいと気づいたと言える。自分の好きなこと、惹かれることに焦点を充て、それぞれがお互いを認め合う感覚は今後もより一層強まっていくと考えられる。

高校生の消費特徴
ファッション変化は自分自身のアップデート


彼らは、ギャル系ファッション全盛期に生まれ、小学生時代は『ニコラ』などティーン向け雑誌が流行し、安価でトレンドを押さえたファストファッションが身近になるなど、子どもの頃から気軽にファッションを楽しめる環境で育った。「小中学生の頃は派手なファッションをしていたけど、中3では流行っていた清楚系に変えた。国際系の高校に入ってからは、周りが海外ブランドのモノトーン系を好む子が多かったから、自分もそれに合わせて落ち着いた」(高3女子)と、流行や環境に応じて自身のファッションテイストが変わることを肯定している。特筆すべきは、周りに同調しようと無理をしているわけではなく、常に自分自身をアップデートし新たな一面を発見していく感覚を持っているということだ。また、ファッションの情報はSNSから入手することが多く、雑誌などプロの手によってテイストが分類された一方的な提案より、あらゆるテイストがミックスされた一般人のファッションをお手本にする傾向が強いことからも、これまでの世代とは異なったバランス感覚でファッションを楽しむ世代と言える。

このように身近な人をお手本にする傾向は親に対しても見られ、「休日は母と一緒に買い物に行く。母に教えてもらったアメリカンイーグルがお気に入り」(高1男子)と、アメリカンカジュアル全盛期に育った親のテイストや、「休日は出かける前に父に服装をチェックしてもらう。父はたくさん服を持っているので借りたりもする」(高1男子)とコーディネートに影響を受ける傾向も見られた。年代は違うが、親のセンスを肯定し、アドバイスもすんなりと受け入れる素直さを持っている。

親から受け継いだ“ 本物志向”


彼らの親世代の大半を占める団塊ジュニア世代(1971 ~ 1976年生)は、消費の自己裁量権を獲得した20歳前後にセレクトショップブームを経験し、一定のクオリティが保証された豊富な品揃えの中からモノを選び抜くという審美眼を磨いてきた。一過性のトレンド品よりも、長期的に使える確かな品質でシンプルなデザインを好む傾向がある。また、子どもへの教育においても子ども用ではなく大人用の図鑑を揃えるなど、本物に触れさせる機会を大切にしてきた。こういった志向を高校生たちもしっかりと受け継いでおり、買い物の際は(お小遣いという制限があるため価格が安いことが一番のポイントではあるが)高機能・高品質のモノを選びたいという意識を持っている。「誕生日プレゼントにツゲの櫛(2 万円)を買ってもらった。定期的に椿オイルに浸して大切に使っている」(高2 女子)、「安いイヤホン(1,600 円)を買ったら音質が悪くて失敗した。高くても良いモノを買えばよかった…。お金を無駄にした」(高1男子)など、自分にとっての必需品は“ 価格<質”。長期的に使うことを念頭に置いた選び方を志向していることから、安さだけに反応するわけではない有望な消費者になる可能性が高い。


高校生へのアプローチ
“長く付き合えるモノ” “ 今この時を楽しめる話題”に惹かれる


このように、子ども騙しではない高品質・高機能なモノを求める本物志向が、今後彼らの消費動向を捉えていく上で外せないポイントとなるはずだ。単にクオリティだけを重視するのではなく、“長期的に使う=自分の相棒となるような存在”に成り得るかどうかが鍵となってくる。あらゆるものがタイムライン的に目の前を流れる情報過多な時代に生きているからこそ、自分の拠り所となるような、変わらずにいてくれるモノに魅力を感じるという一面を確実に持っている。

一方で、今この時を楽しめるような話題も求められている。一人ひとりの趣味嗜好は細分化されているが、だからこそ学校などコミュニティ内のコミュニケーションにおいては“誰とでも共有できる話題”を持っておくことが必要となる。2016年で言えば、映画『君の名は。』や、動画『PPAP』などがその例で、こういったコンテンツは、彼らが大学生、社会人とステージが変わっていっても、コミュニケーションツールとして変わらずに重視されることが予想される。

近い将来、消費の中心となる今の高校生世代へのアプローチには、長く愛用したくなるような本質が追求されたものと、人との時間を楽しむためのコンテンツの両方を提供することが、必要となっていくのではないだろうか。

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