企業の成長は社会課題から仕組みやソフトの時代へ 繊研新聞寄稿(後編)

2023年2月17日(金)、ifs未来研究所 所長代行の山下が繊研新聞に寄稿いたしました。
連載前編はこちらからご覧いただけます。

業界への提言、サステナブルなファッションに向けて 下『企業の成長は社会課題を解決する仕組みやソフトの時代へ』



世界は繋がりつつある。2022年ロシアによるウクライナ侵攻が始まると、その二日後にウクライナの副首相からTwitterでスペースX・CEO(最高経営責任者)イーロン・マスク氏へスターリンクの提供を要請。翌日ウクライナ全土で利用可能となった。日本でもいよいよ10月に実装され実質地上の通信インフラが未整備の地域でもインターネットに接続できる。日本列島が繋がった瞬間だ。

漸減する国内市場



国のデータによれば、2030年には人口が1億2000万人を切り、労働力は現在より更に高齢化となる。単純に消費人口も伸びないと考えると、可処分所得が大幅に増えない限り国内市場は漸減する。
国内アパレル産業は1987年以降貿易収支が赤字となり、90年代には海外生産比率が急速に高まり現在は98%が海外の労働力によって支えられている。我々の購入するそのほとんどが顔が見えない異国の労働者が縫製して、海を渡ってきたものだ。
それに伴い、国内繊維産業は従業員規模、生産規模、事業所数すべてで大幅に縮小した。

この30年で市場規模が半減したにも関わらず、供給枚数は2倍に増えて一点単価は半減した。
国内アパレル産業はプロパー消化率が低く、値引きによって最終消化を整えているビジネスモデルが常態化している。事業に携わる方は認識されていると思うが、店舗(EC含む)家賃見合いなどの販管費、原材料の調達コスト高や人件費高による原価コントロールの見通しが見えない中、収益性を向上するにはMD精度を向上させプロパー消化率を中心とした総換金率を向上させるしか無い。
また他の産業と違い、過去の供給過多によって既にクローゼットは未着用の服が専有しており、物理的側面だけでなく、生活者心理面においても新たな消費を生みにくい状況だ。

今年のCES(電子機器の展示会)では`Metaverse of things’が新たなキーワードとなった。蓋然性は現時点では計測不能だが、通信環境が整備される2030年以降は仮想現実世界で消化する時間やお金が拡大しリアルファッションの必要供給量はますます小さくなることが考えられる。
このように考えると、国内ファッション産業を持続可能にする唯一の方法は、成長志向から収益思考にどう切り替えるかである。
ファッション産業の環境負荷低減は適量化によって多くを解決できる。GHG(温室効果ガス)排出量の算定は基本的に活動量に原単位をかけたものだ。アパレルを起点にした場合、スコープ3の排出割合が平均的に85-90%以上を占めることを考えると、政府目標に産業界で達成するためにはサプライチェーンの活動量を減少させるか環境配慮型の原単位を開発するかの2択である。また、リサイクル技術が経済合理性を伴う実用化レベルまでになり、製品回収などのリサイクスキーム(物の流れる経路)が整備された上で、原単位が開発されたとしても、やはり活動量(物量・それに伴う物流トラフィック数等)が減らない限り大幅なGHG排出量の低減には及ばないのが現状だ。

ではどうすべきか。私は2つの方向性があると思う。

1つ目はマクロ視点を持つこと。グローバル市場でマーケットシェアを拡大することだ。

2つ目はLTV(Life time value)を向上させ単価を上げることだ。
この2点を他の産業で実現しているのが、グロース企業郡のGAFAM( Google、apple、Facebook、Amazon、Microsoft)であり冒頭のTESLAである。ファッション業界では「ルルレモン」や「オン」、日本ではカイハラ(広島県福山市)などが挙げられる。共通しているのは、企業の成り立ち自体が骨太な社会課題ありきである。製品や技術で社会課題を解決すること、インフラ整備などに参画することで長期的な視座で社会課題に取り組むことに力を注いでいる。

例外はあるが自由な発想を重んじ、自律分散型な組織を実現している。これらの企業の製品やサービスに心を動かす理由は何であろう。私は社会課題に対し、小手先の戦略ではなく、腹を据えた一貫した目的が製品やサービスを通じて伝わってくることにあると思う。

経済産業省のデータによれば、日本と米国双方の企業価値を無形資産価値の割合で比較すると米国(S&P上場企業)が74%、日本(日経225)31%となる。
国内ファッション産業もハード(商品)からソフト(仕組み・サービス・技術等)の比率を増やし持続可能性を高めることを応援していきたい。

(出典:繊研新聞 2023年2月17日付 https://senken.co.jp/ )

著者情報

ifs未来研究所 所長代行 アントレプレナーとして事業経験後、現職に就く。 2022年よりifsのシンクタンク組織であるifs未来研究所を継承し、環境・社会・経済を「一体かつ不可分」とした未来型協働解決アプローチを実践する。 74年生まれの団塊ジュニア世代。

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