二極化するハナコジュニア消費、アプローチのカギは高感度層と共感にあり

消費意欲の低い若者、という20代に対する形容もすっかり定着した感があるが、その内実は決して一様ではない。今回は、昨年FAクラブで実施したハナコジュニア世代調査の結果をもとに、現在20歳前後の若者の消費意識や態度、そして彼らへのアプローチのポイントをまとめる。

20代の消費はさらに堅実化、
強い安定志向が背景に


バブル期に青春を謳歌したプレバブル世代に比べ、消費に対する温度が低いといわれているポストバブル世代 (※1)。特に、歳が若くなればなるほど手堅い姿勢が強まる傾向にある。昨年、弊社が運営する会員制マーケティング組織「ファッションアスペクトクラブ(通称:FAクラブ)」で実施したハナコジュニア世代調査(※2)では、20歳前後の若者の、より堅実化した消費の実態が明らかになった。

ハナコジュニアの消費は、パッとみて欲しいと思ったから買うという、インスピレーション消費が特徴であった上の世代(※3) とは大きく異なっている。自分の「身の丈」に適うものを品定めし、さらに本当に必要かどうかを測った上で購入にいたる、という2重のスクリーニングのプロセスを踏むのが特徴だ。さらに、その判断には自らの主体的な意思決定だけではない、親や親しい友人の意見や口コミなど、第三者の意見による納得感が必要とされている。また、上の世代でフックとなっていたブランドやトレンドという要素に対しても、その価値は認めるものの、もはや当たり前のものとしてモノ選びの基準としての意識は希薄になる傾向だ。

こうした消費の特徴の背景には、情報の選択肢が多様化し、経済的にも不安定な社会で生きぬくための術として、強い安定志向が刷り込まれていることが指摘できる。彼らの行動には、不安定な状況を生じさせないための現状最適化機能が備わっており、不確実な目標を追求するのではなく、現状でできることを見極めることが基本となっている。したがって、彼らの消費の仕方は、失敗や損といった不安要素を排除し、満足度の高い買い物をするために培われてきた知恵だといえる。

ハナコジュニアの消費特徴
●基本は受身。パッケージ化された情報のほうが楽チン
●自分と地続きのもの、「身の丈」にあったものに共感
●ゼロから何かを作り上げるよりは、既存の物を編集する力に長けている

マスと高感度層の二極化が進む、
家庭環境が分かれ目に


しかし、その堅実さは決して世代で一様ではないことに注意が必要だ。ハナコジュニアの消費に対する意識や態度は、モノコト選びに対して自分なりのこだわりがある消費意欲の高い層と、手間をかけず身近で手に入る物ですませる意欲の低い層に二極化する傾向にある。ファッションは、そうした意識・感度の二極化傾向が顕著な領域の1つとなっている。

図1、図2はハナコジュニアのファッションについて男女ごとにタイプ別に整理したマップであるが、マスのグループ(男子:ジャニ男トレンドカジュアル、女子:フェミニンカジュアルとナチュカワレイヤード)と、それ以外のグループの構成人数の割合はおおよそ8:2。マスへの一極集中と、際立ったテイストのグループが周辺化する傾向が表れている。男女共に感度が底上げされ、世代全体として見た目はおしゃれになっているものの、マスのマインドを精査すると、モノ選びの場所も行きやすい便利なところ、スタイルも一緒に行動する人を基準にする、といったように保守化が進んでいる。そうした「ぬるい」主流派に対して、意識が高い少数のエッジ層は苛立ちを感じており、自らシーンを切り開くような行動を起こそうと画策している人もいる。

この二極化現象は、価値観形成の影響要因としての親の存在感が、上世代よりも増していることによって引き起こされていると考えられる。ハナコジュニアの場合、従来のような社会的な役割としての親子関係ではなく、近い距離感で親と子が互いに自立した個人としてリスペクトする関係が築かれており、人生の手本とするケースも多い。

いかなる消費の感性が養われてきたかは、ひとえに親が子にどんなモノコトを与えて育ててきたかによるところが大きい。ゆとり世代(現在15歳~24歳)の消費の特長について調査を実施している日経産業地域研究所の白井徹氏は、「親世代はバブル景気全盛期に20代を過ごしているが、その時代は経済格差というよりも文化格差が大きかった。アイドルブームに乗っかる王道派とサブカルチャーに深く入り込むマニアック派の二派に大きく分かれていた時代でもある。その親が作っている家庭環境には差も生まれているのではないか」と指摘する (※4)特にハナコジュニアの場合、上世代よりも親からの影響を色濃く受けて価値観が形成されてきた分、“育ち”による消費態度の差が明確になっているといえるだろう。

図1.ファッションポジショニングマップ 女性
軸の説明:
●タテ軸:エレガンス⇔カジュアル。上に位置するほど、社会目意識が強くなり、周囲からの好感度・愛され度重視のスタイルになる。カジュアルはその逆、意識する視線の仲間・個人など範囲が狭くなる。
●ヨコ軸:フェミニン⇔マスキュリン。右に行くほど、“女の子っぽさ”の打ち出しが強くなる。マスキュリンはその逆、スタイルはユニセックスに。
※色つきのグループはマスのグループ

図2.ファッションポジショニングマップ 男性
軸の説明:
●タテ軸:エレガンス⇔カジュアル。上に位置するほど、社会目意識が強くなり、周囲からの好感度・愛され度重視のスタイルになる。カジュアルはその逆、意識する視線の仲間・個人など範囲が狭くなる。
●ヨコ軸:セクシー⇔ナチュラル。右に行くほど、“男らしさ”の打ち出しが強くなる。ナチュラルはその逆、スタイルはユニセックスになり“草食度”が高くなる。
※色つきのグループはマスのグループ

有望ターゲットは高感度層、
共感を呼び起こす仕掛けが必須


今後、若い世代の攻略方法として、消費をめぐる格差の実態を把握し、狙うべき層とあえて狙わない層を見極めることが重要だ。マスは、もの選びの基準を他者に依存し“なんとなく”消費をしているため、つかみどころがなく、狙いをつけることは難しい。第一のターゲットとすべきはやはり高感度層であろう。ファッションの場合、全体の2割ほどしかいない少数派ではあるが、行動力に優れ、ツイッター、SNS、ブログなど、インターネットのコミュニケーションツールを駆使した情報の受発信力に長けており、すでに上世代の有力者へのコネクションも持つケースもある。クリエイターなど、将来的に同世代を牽引する人に育つ可能性も高く、彼らを要としたマスへの波及効果も期待できる。

いかに感度の高い層にアプローチしていくかが課題になるが、基本的に自分とコネクションの無い領域に関心を持ったり情報を進んで取りに行ったりすることはないため、送り手の側から彼らのアンテナに引っかかるように接触を図ることが必須となる。その際のポイントとなるのが、“分に適う=自分ごと”として共感してもらうこと。そして、“自分ごと化”する手法のポイントは、世界観を代表する“アイコン”である。

世代の基本特性として安定・安心志向が強いだけに、消費に対しても確実さを求めており、感度が高い層においても情報収集やモノ選びの基本姿勢は受身である。進んで必要な情報を集めにいくというよりは、既にあらかじめ情報が集約されパッケージ化された情報のほうが、彼らにとって受け入れやすい。また、うんちくで物の良し悪しを判断するよりは、見た目の可愛らしさなど感覚に響くかどうかで判断する傾向が強まっているため、ブランドが伝えたいメッセージや世界感、商品の情報などを視覚的にアイコンに集約して語らせることで、「~のようになりたい」「~がプロデュースしているからほしい」といったように、彼らの共感を呼び起こすことが可能になる。

したがって、同世代を牽引する潜在能力のある人をアイコンに仕立てていくことも、今後のアプローチ方法として有効だといえる。10代~20代前半の若者の人気を集めているWEBメディア『DROP TOKYO』を運営する横田大介氏も、若い読者を集めるための窓口として、今後、DROP自体でファッションアイコンを育成していくことが必須だと指摘する(※5) 。また、昨今注目を集めている「おしゃP」(※6) もそうしたアイコン戦略の好例といえるだろう。

上世代に増して堅実な消費者であるハナコジュニア。その堅実さの内実を把握し、一見つかみどころのない若者の共感を創出していくことが、彼らの消費意欲を醸成し、市場を開拓する足がかりとなるのではないだろうか。

※1.プレバブル世代は、バブル崩壊前に社会人となり、バブル景気下で消費の自由裁量権を獲得した世代。対するポストバブル世代は、バブル崩壊後に社会人となり、不況の只中で消費の自由裁量権を獲得した世代を指す。
※2. ハナコジュニア世代(1987~1992年生まれ)の中でも、昨年新社会人となった現在23~24歳10名(男女各5名)を対象に2回の座談会調査、1回の親子デプスヒアリングを実施。
※3.弊社世代区分のプリ上世代:現在29歳~33歳・プリ下世代:現在28歳~24歳
※4.FA流行誌vol.71『ハナコJr.の実態―現状直視する安定志向世代』 P.52
※5.同掲載 P.56
※6.おしゃP(おしゃぴー)とは、「おしゃれプロデューサーズ」の略。アパレルブランドのデザイナー、プレス、ディレクター、プロデューサーを職とする女子で、カリスマ店員や読者モデルを経験している人も多い。

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