テクノロジーが可能にしたパーソナライズ革命

近年、「個」のニーズにフォーカスしたサービスを提供するパーソナライゼーションが各業界で活発になっている。とりわけ今後の消費を担うミレニアル世代では、服やスニーカーからコーヒーまで自分仕様にデザインし注文することが当たり前となっている。米国では、このパーソナライゼーションの波が、ファッションだけでなくヘルス・ウェルネスや美容領域にも浸透しつつある。今号では、パーソナライズ化が急速に進む米国のヘルス・ウェルネスおよび美容業界の最新事例を紹介する。


■パーソナライズサプリメント「Care/of」
消費者一人ひとりのニーズに合ったサプリメント


機能性食品の業界団体Council forResponsible Nutrition(カウンシル フォーレスポンシブル ニュートリション=CRN)の調査によると、米国では成人人口の71%にあたる1億7000万人以上の人がビタミンやサプリメント(以下、サプリ)を常用し、その市場規模は年間300 億円以上に達するという。この背景には、特に18 ~ 34 歳のミレニアル世代におけるサプリ消費量の増加がある。市場拡大により多様な商品が次々と登場しているが、それに伴い消費者からは、「果たして自分の健康状態に必要な栄養成分を、最適量摂取できているのか」、「どのブランドを選んでよいかわからない」などの声が聞かれるようになった。その疑問を解決すべく市場に登場したのが、ニューヨークを拠点にするヘルスケアとテクノロジーのスタートアップ企業「Care/o(f ケアオブ)」だ。

「Care/of」は、EC専門のメンズアパレルウェアブランド「Bonobos(ボノボス)」出身のクレイグ・エルバート氏と、シニア対象のヘルスケアスタートアップ「Hometeam(ホームチーム)」出身のアカーシュ・シャー氏が、「ヘルス分野こそパーソナライゼーションが必要」という信念のもとに立ち上げた。最新テクノロジーと、ハーバード大やタフツ大などの医師や栄養士などを専任アドバイザーに迎え、ユーザーの細かなニーズに対応する完全テーラーメイドのサプリ・ブランドを提供する。高品質な原材料を使用し、素材調達や製造過程の開示、手頃な価格帯の実現、さらに特徴的なパッケージでミレニアル層に支持されている。

ユーザーは、「Care/of」のWebサイトまたはアプリにアクセスし、食生活、ライフスタイルや健康状態に関する数分のクイズに答える。その回答を基に、30 以上のビタミン、植物成分、プロバイオティクス(善玉菌)の中からニーズに合った組み合わせが抽出され、パーソナライズされたビタミンパックが毎月自宅に配送されるという定期購入システムとなっている。

Care/of は、昨年8月にシリーズA投資で1390 万ドルの資金を複数の投資会社から調達し、サプリメント以外の商品も開発中という。



「Care/of」のパーソナライズドデイリーサプリメント。健康状態に合わせてパーソナライズした自分だけのビタミンをパッキング

■パーソナライズヘアケアブランド「Function of Beauty」
2018年美容業界におけるビッグトレンドになるか


美容業界でも、商品の品質や機能だけではなく、購入時や使用時に経験する心地よさなどを重視する「顧客経験価値」の流れが強まるなかで、個人のニーズにフォーカスしたカスタマイズ商品の需要が高まっている。

同質化が進んでいた市販ヘアケア商品に革命を起こしたのが「Function of Beauty(ファンクション・オブ・ビューティー)」だ。2016 年にマサチューセッツ工科大卒のコンピューターサイエンティスト と美容化学者によってニューヨークで設立された同社は、「消費者一人ひとりの髪質にあったヘアケア商品を提供する」というシンプルなモットーのもと、カスタマイズされたヘアケア製品をオンラインで消費者に直接販売する。

同社は、オンライン上で顧客それぞれの髪質、髪や頭皮の悩みなどについてクイズ形式で探り、12 億通りもの組み合わせの中から、その人の理想の組み合わせを提案してくれる。最後に好みの色(5色)と香料(4種類)を選び、パッケージには購入者の名前がプリントされる。シャンプーとコンディショナーのセット価格(32 ~ 42ドル)が手頃なのも魅力のひとつだ。もし不満があれば無料で再度カスタマイズすることができ、一度個人仕様で作成した成分はその後も続けて再オーダーが可能で、定期購入サービスも行っている。界面活性剤やパラベンは使用しないなど無添加にもこだわる。スタートアップインキュベーターから約30 万ドルの資金調達を経て設立後、1年足らずで既に収益を出し始めているという。2017 年11月には、ポップアップストアをニューヨーク市内にオープンし、商品製造のプロセスを顧客に紹介するだけでなく、直接ユーザーのフィードバックを得ることで素早く商品に反映させるなど、ニーズにそった商品をオンタイムで提供することにも注力している。


米国ヘアケア業界に変革を起こした「Functionof Beauty」。一人ひとりの髪質に合ったオリジナルのシャンプー&コンディショナーはWEB で注文可能

■パーソナライズアクネケア「Curology」
アルゴリズムを超えたリアルな皮膚科医によるカスタマイズ処方医薬品


Curology(キュロロジー)は、2014 年にサンディエゴを拠点に、皮膚科の医師など専門家によって開発されたニキビケアとエイジングに特化したスタートアップ企業だ。皮膚科医や特定看護師など医療提供者チームによる遠隔治療診断とカスタマイズされた処方薬スキンケアのオンライン購買サービスを提供している。ベンチャーキャピタルから1500万ドルの資金を得て設立された。

オンライン上で、簡単な病歴、過去の処方医薬品に関する質問や目指す肌質に答え、スマートフォンで自身の顔写真を送信。その後、パーソナル診断を行う皮膚科医が割り当てられ、自身の肌コンディションに合ったカスタム成分の処方とトリートメントプランが自宅に送られてくるシステムだ。月額19.95ドルで、担当の皮膚科医とチャットで随時コミュニケーションをとりながら、症状の変化に応じて使用成分を変更することもできる。「Curology」独自のカスタム成分には、ニキビ治療だけでなく、毛穴の詰まりを解消する作用があり、ニキビに悩むユーザーからは使用数カ月後から劇的に肌がクリアになり、テクスチャーだけでなく、トーンも明るくなったとの声が多数あったという。ライセンスを持った皮膚科医と随時チャットでコミュニケーションしながら、症状にあった処方プランを設計できる点で評価が高い。



「Curology」は、皮膚科専門医による遠隔診断によりカスタマイズされた処方薬を、通常よりもお手頃な価格で提供する。
 
20 世紀の大量生産時代には、別注品扱いで手間やコストもかかっていたカスタムメイドだが、近年のテクノロジーの進化は、消費者個々の嗜好やニーズに合わせた商品を手軽に提供するパーソナライゼーションを可能にした。欲しい情報を瞬時に得られる環境で育ったデジタルネイティブのミレニアル世代は、前世代に比べて「Now(ナウ)」という感覚を非常に大切にする。テクノロジーの進化は、彼らの「See Now, Buy Now(見たものを、すぐに購入)」の欲望をかなえるものだ。

美容アナリストによると、2018 年米国美容業界の大きなトレンドのひとつは、消費者の意向を最優先する「Bespoke(ビズポーク/注文品のこと)」対応とのこと。今後は、DNA解析に基づいたアンチエイジングスキンケア、カラーメイク、マスカラなどのメイクアップ製品にもパーソナライズ可能なブランドが登場すると予測している。
かつては富裕層やこだわりを持つ一部の人々の特権であった「カスタマイズ」だが、米国のヘルス・ウェルネスおよび美容市場では、まさにカスタマイズが当たり前となる「パーソナライゼーション」の時代を迎えたといえるだろう。


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