社会貢献に徹底した企業姿勢①:Patagonia

■気候危機への強い懸念を示す若年層

気候変動、地球温暖化の影響に伴い、干ばつ、山火事、嵐や竜巻といった異常気象が頻繁に観測されるようになり、その深刻さは想像以上のものだと専門家は警笛を鳴らす。
トランプ政権発足以来、米国は地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定離脱を表明し、地球温暖化対策に消極的な姿勢を一貫して示している。一方で、若年層は、急速に進む地球温暖化に非常な危機感を募らせ、気候変動、地球温暖化に具体的な政策・行動を求める抗議活動が世界規模で盛んに行われている。2019年9月20日に行われたグローバル気候マーチは、世界156か国に於いて若年層が牽引する5,000以上のデモが行われ、歴史上最大の気候ストライキとなった。また、9月23日、NYの国連本部で行われた「気候行動サミット」では、若者代表として、地球温暖化対策を訴えるスウェーデン出身の16歳の環境活動家Greta Thunbergさんが、気候変動対策の強化を求めるスピーチを行い全世界に衝撃を与えたことは記憶に新しい。

■大量消費から
持続可能なサステナブルな消費活動へのシフト

・belief-driven buyerの台頭
先進国の大量生産や大量消費に端を発し、環境保全・地球温暖化への懸念が日増しに大きくなる中、環境に負荷を与えない・環境に配慮したエシカルでサステナブルな消費活動が世界的に盛んになっている。世界最大の調査会社Nielsen(https://www.nielsen.com/us/en/)の報告によると、米国のサステナブル市場は、2021年までに1500億ドル規模に到達する予測。
また、NYを拠点にするPR兼マーケットコンサルタント企Edelman(https://www.edelman.com/)
が2018年に行った調査によると、企業やブランドの社会問題に対する意識によって購買の有無を決める消費者“belief-driven buyers”が世界中で急増しているという。その割合は、全消費者の64%にあたり、二人に一人がbelief-driven buyerにあたる。belief-driven buyer の年齢層の内訳は、69%が18歳から34歳、67%が35歳から54歳、56%が55歳以上にあたる。18歳から34歳の10人中7人は自分の信念に基づいた購買を行っているという。
この背景には、今日の消費を牽引するミレニアル世代を中心とした若年層の積極的なサステナブル商品の購買が第一に挙げられる。彼らは、自分の消費が世の中にポジティブなインパクトを与えることが購買決定に於ける判断基準の一つになっており、企業側にもより良い社会を作る為の持続可能なものづくりや企業理念を求め、エシカルでサステナブルな企業を支持する傾向が非常に強い。また、若年層に続き、多世代の消費者の間でも、品質の高い商品の生産はもとより、ブランドの企業理念や社会貢献に共感、感銘を受け、支持する傾向が強いという。
今回は、サステナブルな企業を牽引するパタゴニアの社会貢献に徹底した企業姿勢をレポートさせていただきます。

■Patagonia:
持続可能な社会を実現するグローバルリーダー

1973年、世界的に著名な登山家、環境活動家で実業家のYvon Chouinard氏によって設立されたカリフォルニア州ベンチュラを拠点にするアウトドアウェアブランド。Patagoniaは、非上場企業であるが、売り上げはこの10年の間に4倍になり最近では10億ドルを超えたという。
Patagoniaは、昨年、ミッションステートメントを「最高の商品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向け実行する」から「わたしたちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む」に一新した。創業以来、生態系を保護するために、自社製品の環境負荷を下げる取り組みから、社外に働きかける各種の環境保護キャンペーンまで、多岐に渡る環境保全活動に注力してきた。
2012年、カリフォルニア州で初めてB corporation(米国ペンシルバニア州を拠点にする非営利組織B Labが始めた民間の認証制度で、環境、社会に配慮した事業活動が一定基準を満たした企業にのみ認可される認証)(https://bcorporation.net/)認証企業となった。今では、持続可能な社会を実現する世界的リーダー企業へと成長を遂げ、サステナブル企業の先駆け的な存在だ。
Patagoniaの先進的な環境活動は世界中から高い評価を得て、2019年9月24日、Patagoniaが実践するサステナビリティをコアに掲げたビジネスモデルと、気候変動の危機の緊急性を反映した新しいミッションステートメントに基づいた行動が高く評価され、国連で最高の環境賞である「UN Champion of the Earth」(https://www.unenvironment.org/news-and-stories/press-release/us-outdoor-clothing-brand-patagonia-wins-un-champions-earth-award)賞を受賞。

Patagoniaの環境保護への取り組み

・リサイクルされたペットボトルから作られた再生フリース
1990年代初期からリサイクル素材を使用した製品開発に着手。最近では、全ての防水性シェルコレクションに100%リサイクル素材を使用することを可能にした。また、1993年、Patagonia はアウトドアウェア製造企業としては初めて、消費者から回収・リサイクルされたペットボトルから生産された再生フリースを採用した製品で、フリースの原点的な存在として知られる「シンチラ」の製造を開始。

・一般のコットンからオーガニックコットンへの切り替え
環境に対する不必要な悪影響を抑える具体的な施策の一つとして、1996年、環境への負担が高く、人畜にも有害な農薬を使った一般のコットンから、全てのコットン製品に無農薬のオーガニックコットンへの切り替えを行った。

・Worn Wearプログラム
「会社として最も責任あることの一つは、何年も着ることができ、適切なお手入れと修理によって長持ちする高品質な製品を作ることで、それにより消費を抑えることができること」という信念を掲げ、2005年、地球の負担を取り除くために同社の製品をより長く使い続けてもらう取り組み”Worn Wear”プログラムをローンチ。自社のバイオディーゼル(生物由来の物質を原料にした)トラックで世界各国の大学をまわって、服の修繕を無料で行い、学生達に修繕方法を教えている。「Better than New」を謳い、Patagonia製品の修繕、着なくなった服のリサイクル・下取りを行い(クレジットがもらえる)、修繕してWorn Wearのサイト内で販売。

 “Don’t Buy This Jacket”:
ブラックフライデーに打ち出したセンセーショナルな広告

Patagoniaは、2011年11月25日のブラックフライデーに、The New York Times誌に“Don’t Buy This Jacket”というセンセーショナルなフリース不買広告を打ち出し、消費者の大量消費に警鐘を鳴らした。クリスマス商戦の初日に敢えてこのようなリスキーな広告を打ったわけであるが、結果としてこの製品の販売は伸び、2012年度の売上は30%も伸びたという。この事からもわかるように、Patagoniaの存在意義、責任ある企業としてその企業理念は多くの消費者の共感を呼び、目先の利益に囚われず、質の高い消費行動を一貫して促すことで、パタゴニアの企業理念を支持する人を逆に増やすことに繋がった。


courtesy of Patagonia
https://www.patagonia.com/blog/2011/11/dont-buy-this-jacket-black-friday-and-the-new-york-times/

PatagoniaのDNAの一部である環境保護活動:

・100% for the planet:
2016年、サンクスギビングデー明けの金曜日で、クリスマス商戦の初日に当たる「ブラックフライデー」の売り上げ100%、おおよそ1000万ドルを草の根の環境保全団体に寄付。

・1% for the planet:
1985年から「売上の1%を」自然環境保護・回復の為に、米国内外の地域で活躍する草の根環境保護団体への寄付を行ってきた。これまでの総額は8,900万ドルにものぼる。
2002年には、Patagoniaの創立者Yvon Chouinard氏とBlue Ribbon Files社(https://www.blueribbonflies.com/)の創立者Craig Mathews氏が、企業の環境保全活動への支援を促進させることを目的とした非営利団体1% for the planet (https://www.onepercentfortheplanet.org/)を設立。(現在は1000社以上から成るネットワーク組織。)
・2013年からはベンチャーキャピタル事業に参入し、次世代の環境保全に取り組むスタートアップ企業を援助する投資基金tin shed ventures(http://www.tinshedventures.com/)を発足。Great Planesの生態系の復元を模範し、バッファロー放牧に貢献するWild Idea Buffalo(https://wildideabuffalo.com/), プラスチック汚染の10%を占める廃棄された漁網を再利用してスケートボードやサングラスを作るBureo(https://bureo.co/)など、環境保全に取り組むスタートアップを支援。

食品事業への参入


courtesy of Patagonia
https://www.businessinsider.com/patagonia-provisions-review-camping-food-2018-9
Patagonia は、食品業界に緊急の改革の必要性を感じ、2011年から食品事業への参入を始めた。オーガニックで環境負荷の少ない持続可能な農業や調達方法を支援する食ビジネス「Patagonia Provisions」では、持続可能な方法でファームされたスペイン産の紫貝、ストレスのない放し飼いで良質の草を食べて育ったバイソンの肉から作られたグラスフェッドのバイソンジャーキー、カナダのサスカチュワン州で栽培されているオーガニックの大麦から作れたスープミックス、ワシントン州ラミ島にて特定の個体だけを選別できる古代の漁法で持続可能な個体のみから捕獲するワイルドサーモンの燻製、「一杯のビールで地球を救う」をコンセプトに、土を再生する革新的な多年生穀物「Kernz」を使用して醸造されたクラフトビールLong Root Aleと、Long Root Wit他、オリジナルの食品を生産販売し再生可能な農業を広める一つの手段としている。
今後は、若年層に限らずbelief-driven buyerが益々台頭し、消費を牽引していくことになるのではないだろうか。
次回は、社会貢献に徹底した企業姿勢第二弾として、ミレニアル世代から絶代な支持を得ているアウトドアブランド「Cotopaxi」とライフスタイルブランド「Tentree」をレポートさせて頂きます。


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