ポジティブムードのアラサー愛されキラキラOLに注目

2006年頃から使われるようになった「アラサー女子」という言葉だが、同じ30歳前後の女性といっても10年以上たった現在では、その意識や価値観はずいぶん変化している。仕事・結婚・子育て全般を充実させる「全部持ち」を目指して、「仕事を頑張る」ことと「キレイ・カワイイ」存在であることを無理なく両立させ、ポジティブに日々を送る人たちが増えているのだ。今回は、そんな彼女たちをターゲットとする雑誌『andGIRL』の高木麻衣子編集長へのインタビューも交えて、「今どきアラサー女子」についてレポートする。


◆理想は仕事・結婚・子育ての「全部持ち」

2016年の厚生労働省統計情報部「人口動態統計」によると、女性の平均初婚年齢は29.4 歳。男女雇用機会均等法が施行された1986年(25.6歳)以降、女性の社会進出とともに年々高くなっており、昔は「晩婚」と言われた30歳前後が、現在は「適齢期」と呼ばれることになっている。まさにアラサー女子はいわゆる結婚適齢期を迎えているのだが、まずは各調査から、今どきアラサー世代女子の仕事・結婚・子育てに対する考え方を見てみる。
人材派遣業ビースタイルグループの「これからの転職。研究所」が首都圏に勤務するキャリア女性(27 才~ 33 才)を対象に行った『結婚・出産後のキャリア意識』についてのアンケート結果を参照すると、結婚・出産後も約9 割の86.7%が働き続けたいという意志を持っている(図1)。



伊藤忠ファッションシステム株式会社(ifs)では生活者の気分に関する調査(調査対象は21 歳~ 71 歳男女)を定期的に実施しているが、「結婚の動機やパートナー選びに関する考え方」の質問で「結婚することは人生で当然のステップだ」を選んだ人が、女性全体平均16.5%に対し、「今どきアラサー」に相当するハナコジュニア世代(26歳~ 30歳)では27.2%と、団塊世代(66 歳~ 71歳)に次いで2番目に多くなっている(図2)。



また「子育てに関する考え方」では、「男女の役割にとらわれず夫婦でできることを分担して子育てをする」がハナコジュニア世代女性で43.7%と全世代で最も多く、全世代平均(27.1%)を大きく越えている(図3)。仕事に対しても家事・育児に対しても男女平等意識を前提に、積極的な姿勢であることがうかがえる。

◆「幸せ感」を重視するアラサーキラキラOL


少し前までは、キャリア志向でバリバリ働き活躍するいわゆる「バリキャリ」に対する憧れ感が強かったが、働き方改革の進展による余暇時間の増加などの影響で自分自身を見つめ直す機会が増えたためか、昇進・出世だけでなく、自分らしい働き方やライフスタイルの実現に目を向ける人が増えてきた。

そこで存在感が高まっているのが「愛されキラキラOL」だ。「アラサーになっても、仕事ができても、結婚しても、「ガール」な大人たちへ!」をうたう雑誌『andGIRL(アンド・ガール)』の高木麻衣子編集長に読者の属性について伺ったところ、「28 ~ 34 歳くらいまでのアラサーで、子持ちの主婦もいるけれども、ボリューム層は未婚で仕事を頑張っていて、『恋活(恋愛のための活動)』にも積極的なリア充女性」とのことだ。

ちなみに、ここ1年ほどは「『恋活』『婚活』が特にアツい」(高木編集長)という。30歳前後に適齢期が上がってきているためか、以前と比較すると「恋愛マッチングアプリ」なども活用が広がり、周囲に「モテたい!」ということを堂々と言える状況になっている。「『モテ』が、あらためてキーワードになり、ファッションもメイクも料理も男性目線を意識した誌面作りに注力している」(高木編集長)という。やはり30歳前後で、人生の1つのステップとしての結婚へのモチベーションが高まっている様子がうかがえる。「20歳は大人だけど、30歳はいい大人。ファッションなら周囲から浮かないとか、料理もこれくらいできなきゃとか、メンズ(彼氏)が和食好きだったらサッと作れるようになりたいとか、『アラサーだから』ということがひとつひとつの行動に紐付いている」(高木編集長)。ハタチを迎えればもちろん大人だが、まだまだ発展途上の未熟さが許されているのに対し、30 歳は社会的な立場や精神面での成熟が求められるため、実質的な大人に見合った行動・身なりでいるべきだという意識が高まってくるということだろう。自分らしいライフスタイルを模索しているといいつつも、「アラサー=いい大人」という世間的な呪縛からも逃れられずにいる。

さらに伺うと、「読者は幸せそうで、キラキラしている人が好き」とのこと。読者の好きなモデルランキングでは、好きな理由として顔やスタイルなどの見た目も重視されるが、「丁寧な暮らしぶりが素敵」ということも高く評価される。タレントは一般的に、結婚すると人気が下降するといわれるが、『andGIRL』読者では、逆に結婚すると上がるという。「幸せそうな人を見ることで、自分も幸せになりたいというモチベーションがあがる」のだそうだ。「幸せ感」を感じることが彼女たちの「リア充」への原動力となり、思い描く「全部持ち」実現の際のモデルとなるのだろう。

その「幸せ感」を演出し実感するために彼女たちが大事にしているのが、「丁寧な暮らし」と「季節のイベント」。「季節に合わせたお気に入りの和食器にお気に入りの和菓子を盛りつけるなど、日常の細かなことにこだわった丁寧な暮らしを大切にする。朝活もしているし、弁当女子(お弁当を作る女性)ならば、Instagramでわっぱ飯が話題になったら前夜から仕込んで会社に持っていったりする」と、高木編集長。春のお花見では華やかなお弁当を持参し、夏には浴衣を着て花火大会に出かける…。四季折々のイベント紹介は彼女たちの日々を充実させるために欠かせないコンテンツとなっているようだ。

◆Instagramは自分の生活をより充実させてくれるツール


昨年、流行語大賞にも選ばれた「インスタ映え」だが、最近は、「リア充」演出のために実態以上に自分の生活を良く見せたり、他人の投稿に「いいね!」やコメントでリアクションすることに義務感を感じてしまう「インスタ疲れ」現象も起きていると言われる。

しかし、高木編集長によると「『andGIRL』の読者たちは、写真を投稿することも含めて楽しんでいて、インスタに疲弊していない」という。彼女たちはそれぞれの自分目線で素敵と思うものを手に入れ、やってみたいことを実践する余裕も持っている。それらをネタとして充実したライフスタイルをInstagramに投稿し続けることで蓄積されていく自分の投稿や、Instagram上で新たに得たコネクションやコミュニティを通じて、生活満足度をさらに高めていっている。自分の充実したライフスタイルを実感するツールとしてInstagramを器用に使いこなしているのだ。

『andGIRL』では今後、「アラサー愛されキラキラOL」に向けて、雑誌やWEBからの発信だけでなく、「恋活」「婚活」関連イベントなど、リアルな出会いの「場」も読者に提供していきたいと考えている。「甘めのコンサバファッションの子たちは、バーベキューに誘われても、何を着たらいいかわからない人も多い。誌面では男目線で好感度の高いカジュアルコーデも一緒に提案する」と、高木編集長。消費において「体験」の重要性が高まる中で、単なる「場」の提供にとどまらず、場に赴くまでの準備段階から消費者の気持ちに寄り添ったアプローチで体験の満足度を高めることが重要となる。

彼女たちが思い描く「全部持ち」へのステップとなることや、一方で「アラサーだから…」という意識から生まれる暗黙の規範に沿うということが、消費の大きなトリガーとなる。消費の回復がなかなか望めない状況下、「アラサー愛されキラキラOL」は、貴重なマーケットの牽引役を果たしてくれる存在だ。「モノ・コト・サービス」面でまだまだマーケティングを工夫する余地がありそうだ。


著者情報

伊藤忠ファッションシステム㈱ 第1 ディビジョン マーケティング開発第1 グループ マーケティング部門にて、トレンド分析、ifsオリジナル世代区分を活用したターゲット分析、ブランド新規開発、リブランディングなどに携わる。クライアントはビューティ、ファッション、生活用品メーカーをはじめ多岐にわたる。1988年生まれのハナコジュニア世代。一児の母。趣味はカラオケで、社内のカラオケ部初代部長。

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