ファッションを再定義する:ifs fashion insight開催レポート:第2回:いまどき女子にとってのファッションを再定義する【Part③】

伊藤忠ファッションシステム株式会社(以下、ifs)では、次代に向けてのファッションの意味・役割を再定義し、新たなビジネスの視点を提案するコアプロジェクトとして、今年3月にトークセッションシリーズ「ifs fashion insight」を始動した。 vol.2の開催レポート【Part②】では、 “いまどき女子”のリアルな消費意識やストリートファッションに迫ってみたが、Part③では、いよいよ “いまどき女子”との関係作りのヒントを探ってみる。

ifs fashion insight オフィシャルモデレーター稲着達也氏(以下、稲着):もうひとつの最近の傾向として、プチプラがあります。韓国コスメもプチプラ系で、いわゆるデパコス(デパートコスメ)に対する対立軸です。10年前くらいまではデパコス以外のものは単純に安かろう、悪かろうみたいなイメージがありましたが、今はそういう時代ではなくなりました。

ifsナレッジ開発室 中村ゆい(以下、中村):いまどきの若者世代は全体的に「お金を使わない」「モノを買わない」と言われがちですが、情報過多の時代に選択肢が増えていることもあり、「妥協しない」ということを徹底している人たちだと思っています。2000年代は安いものがブームだったので、とにかく低価格品をどんどん買うみたいなトレンドでしたが、今は価格・質・プロセスの納得感を重視する気分になっていると思います。昔の同じぐらいの年代と比べるとお金がないというのはもちろんありますが、その中で納得ができるお金の使い方を意識していると思います。



株式会社宝島社 「mini」編集長 見澤夢美氏(以下、見澤):そうですね。『mini』でも、プチプラ特集じゃなくても、常に「買える価格帯」のものを意識して掲載していますが、それでも読者アンケートでは「もっと安いものを載せて欲しい」という声があります。プチプラ特集ですごく安いアイテムを紹介しても、「もっと安いのを見たい」と言われてしまう。でも、先ほど中村さんが指摘していたように、事実としてお金があまりないというのがあるので、その中で「何にどうお金をかけるか」というのをすごく考えていますね。
その総額の中でコスメにかけるお金の割合は高くなっていて、実はお金を使わないわけでなく、使いたいところにはものすごく使っている印象があります。『mini』の読者を通して感じるのは、彼女たちは好きなものにはしっかりお金を使っています。そうしたある意味での「オタクの心をつかむべき」と思っているのですが、『mini』読者にとってのこだわりは、K-POPやLDHです。

エキサイト株式会社 「ローリエプレス」編集長 遠藤優華子氏(以下、遠藤):韓国で買い付けた洋服を日本で売るのが流行っていますが、買い付け先が同じアイテムでも、購入先によって、同じ洋服の価格が全然違うこともあります。だから、みんなめちゃめちゃ調べています(笑)。同じ白いレースのトップスが、このモデルが着ていたら5000円だけど、ショッピングサイトで同じアイテムを検索したら2000円だったとかもよく聞きます。そのため、すごく比較していますね。プチプラコスメは試し塗りが出来ないことが多いので、アプリはもちろん、TwitterやInstagramの美容関係の投稿を参考にしている人も多いと思います。

プチプラブームの中でのファッションへの価格意識

稲着:プチプラブームは裏を返せば、ブランドでモノを買わなくなっているということですよね。これはまさに『mini』の10年間の変化の中でどのように感じますか。

見澤:10年前は、毎シーズンのファッション立ち上がり時期はブランド特集が定番でしたが、ある時期から、ブランド特集が人気ランキングで票が取れなくなってきました。ブランドで見るというよりは、コーディネートが気に入れば買うし、安ければ嬉しいというような感じですね。
最近になって、スポーツブランド特集が復活しましたが、スポーツ分野だけはブランド特集が成立して、かつ読者の人気も取れます。ストリート人気で、「○○のスニーカーが欲しい」「○○のロゴTシャツが欲しい」というように、今でもブランド価値があります。それ以外では、ブランド力はあまり関係ないというのが実感です。

中村:服の価格意識を見ると「ブランドを意識して買わない人」は81.8%。でもブランドに興味があると言っている人はいるんですよね。スポーツ系のスタイルはロゴがあった時に雰囲気が出るので、古着でも「Kaepa(ケイパ)」など昔のものが売れていたりします。あとは、昔流行っていたとか。そういうのがあるとストーリーとしても面白いのかもしれません。

今どき女子へのアプローチ方法

稲着:それでは、「いまどき女子にどうアプローチをすべきか」を、掘り下げたいと思います。

中村: 第一に「顔が見える」「信頼できる」という関係性が大事だと思います。とくにモノを伝える時は大切で、ファッションの情報源も身近な人のおススメや一般人でフォローしている人、あるいは名前が分かる有名人のSNSなどです。この世代は「信頼できる情報を発信している人」をフォローします。「この情報は信頼できる」「これは広告」とすぐに察知します。

稲着:雑誌のブランドや編集部を信頼して買うというのがあると思いますが、例えば、『ローリエプレス』も記事を書いている人が見えるようになっていて、ユーザーの中には特定の人の記事が好きで読む人もいるということですよね?その人の情報を信頼してもらうために、工夫していることや見せ方はありますか。

遠藤:その人の声を届けたいので、本人が考えたコーディネートやオススメをヒアリングして記事に落とし込んでいますが、そうした記事への反応はすごくいいです。この世代は、嘘っぽいものにシビアになっているので、熱量やちゃんとした意味合いが伝わらないとユーザーには響かない。

稲着:そして、基本の“キ”を伝える。このことは、『mini』も『ローリエプレス』も大事にしていることですね。

中村:身近な人のアドバイスを参考するというのも、身近な人に「いいね」と言われることで得られる安心感を求めているということかもしれません。ファッション・メディア・ストリート研究をされている共立女子大学の渡辺明日香先生に話を伺った時も同じようなことをおっしゃっていて、「情報が多くある中で身近な人に『いいんだよ』と言われると自信を持てる」というのです。

見澤:巻末で展開した「コテ巻き髪の基本のキ」はわりと地味な企画でしたが、巻頭のファッション企画の次ぐ人気でした。今は教科書的なつくりで「何と何を合わせれば正解です」と、失敗したくない人たちに向けてつくらなければならない、すごく丁寧な編集をしています。深く考えなくてもパっと見てわかって、このまま着れば正解というのを意識してつくらなきゃいけなくなっています。

稲着:もうひとつ重要なポイントとして「見え感が命!」がありますね。

遠藤:見え方として、言葉というよりはビジュアルで選んでもらうことは意識にしています。たとえば、キーワード検索の画面を、あえて言葉じゃなくて写真で羅列する。この世代はレコメンド慣れしていて、情報を受け取ることには敏感でも、自分で探すスキルに長けてない子も多いので、ビジュアルを使って直感的に検索できるようにしています。かわいいネイルといっても、言葉で表現できない何かかわいいものを探している時があるので、写真を見せるのはひとつポイントとしてはやっていたりします。

中村:『mini』も『ローリエプレス』も、モノを掲載しているというよりは雰囲気や空気感を伝えている感じがあるなと思っています。

遠藤:そうですね。メディアでもリアル感が大切になっていて、欧米人モデルが着ているよりも日本人や韓国人が着ていると自分に近いと思ってくれて購買につながったりします。内容が良くても写真が『ローリエプレス』のトーン&マナーと違うものを載せたりするとすぐ離脱して、アプリをアンインストールされてしまうこともあります。そのため、掲載写真は、『ローリエプレス』にマッチしているものを採用するなど、気を遣っています。

稲着:最後のポイントとして、「アレンジの余地・余白を残す」があります。「アイテムを使って、どうやって自分なりの雰囲気をつくっていくか」だと思いますがいかがでしょうか。

中村:繰り返しになりますが、この世代は「これは広告だよね、一方的に言っているよね」ということに、敏感な人たちです。アイテムを自分たちでアレンジして楽しむということを自然にします。でも、最近は「インスタ映え」がひとり歩きしすぎて、「インスタ映え」と言われると引いちゃうとか。

遠藤:「インスタ映えのために何かしているんじゃないか」みたいにいわれることが多いですが、もともとやりたかったことが、結果的にInstagramに載せたらかわいいというものにもつながっているという感じです。「おしゃれなカフェに行くのも、かわいい服やコスメを買うのも、インスタ映えしたいからなんでしょ」と言われると、そうじゃないのになと思う子も多いです。かわいいモノやコトを「知りたい、持ちたい、見たい、やりたい」というのが、結果的にInstagramに載せたい欲求につながっている。
『ローリエプレス』の記事も、「インスタ映えするでしょ、どうぞ」みたいな感じで提供することはしないように心がけていて、たとえば、何かしらのすごくかわいいテーマを与えてあげて、自分たちなりに咀嚼して「こういう風にメイクに使おう」「物撮りしよう」「コーデに取り入れよう」と、自分でアレンジできる余白を持っている企画の方が拡散されやすかったりします。

見澤:『mini』の付録でブランドコラボのネイルセット(11本)を付けたとき、SNSに自分で塗ってみた爪をあげてくれる人もいれば、11本並べてかわいく物撮りしてくれたり、それぞれの方法で楽しんでくれています。そのため付録の開発の際には、買ってくれた後、「どういう風に楽しんでくれるかな」とか、その先を考えるというのは割と意識しています。

中村:以前は、「このブランドのこれが欲しいでしょ」だったと思いますが、今は、「そこから先をどうしてもらうか」を考えた方が、逆に欲しがってもらえるのでしょうか。

見澤:「この服を着ている私」をということではなくて、「かわいい服を着て、仲のいい友達と一緒に出かけて楽しく生きている」という生き方のような部分を表現することにつながっていると思っています。だから、「『インスタ映え』を狙っている」といわれるとちょっと違って、「楽しそうでいいな」と思われたいだけというのが、今の若い子にはあると思います。

稲着:昔はお金やブランドの競争をしていたのが、今はライフスタイルを競争するということに変わってきているということですね。それを見せる場としてSNSというものがあって、他者に見せるためのシーンをつくらなきゃいけない。

中村:2000年代から「自己編集」と言われていますが、その頃は服が、自分はどういう人間ですというメッセージだったと思うのですが、今はSNSの世界が入ってきてモノだけではなく、それを含めたイメージをどうやって編集するかというところにきています。先ほど遠藤さんが「トーン&マナー」とおっしゃいましたけど、編集者視点の「トーン&マナー」が今の若い子にすごく入り込んでいて、自分らしいビジュアルをつくることを意識しています。それが世界観の編集というわけです。

遠藤:ユーザーアンケートで、「すごくかわいくても自分のInstagramには合わないから投稿しなかった」ことがあると70%が答えていて、Instagramも「ピンクでかわいい系」とか、自分なりの視点を持って写真をチョイスしています。だから、すごくかわいくても違うテイストだと融合しないから、あげたくてもあげられなかったという子が結構います。それも気分で変われば、投稿を全部消してやり直す子もすごく多い。結構頻繁に「IDを変えました」「全部消しちゃいました」「ピンクで統一していたんですけど、今白いフェードっぽいのに変えてます」と、こだわりを持っていますね。それも今の子っぽいなと思っています。

中村:『mini』と『ローリエプレス』に共通しているのは、行動のきっかけを与えているところだと思います。すごくTips(ティップス)にこだわって提供されていたり、付録の開発にもあえて余白を作ることで、読者にいじってもらって拡散につなげたり。それが、「いまどき女子」に支持されるポイントになっていると思いました。

稲着:Instagramに代表されるSNSが、まさに自分の持つ世界観を編集して伝える場所なのかもしれませんね。本日はありがとうございました。


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