マーケティング戦略アップデート第4回 東京一極マーケティングの転換点

コロナ禍で都心のビジネスが厳しい状態に
郊外やロードサイドの商業施設や専門店が、底堅い売上げや順調な回復をみせたのに対して、都心の商業施設や飲食店は厳しい状況が続いている。
テレワークの浸透や時差出勤の影響、それに各企業がプライベートの会食に関してもある程度の制限をかけるなどしているため、アフターファイブの消費者の行動に大きな変化が生じている。
また、感染への恐怖から、都心部にシニアが戻らないことも、都心部の苦境に拍車をかけている。
文明の発達の象徴ともいえる都市化から、“逆都市化” の時代へとシフトするということが、コロナ禍以前にもいわれていた。急激な人口減少とともに、インターネットの発達などにより、仕事・生活・エンターテインメントなどのさまざまなことがどこでもできる時代になるため、都心やその周辺にいる意味が薄れていく。
これによって、日本の多くの都市圏では、中心部でも郊外部でも人口が減少するという予測である。
オフィスへの出勤がマストではない状況になったことから、この現象が一気に加速しはじめた。都心部への通勤が便利な近郊よりも、自然が豊かな遠郊の人気が上昇するなどの状況もある。
さらには、ホテルやリゾート地などの休暇先でテレワークするワーケーションというスタイルも注目されている。
また、感度の高い消費者たちも、都心での居住を避け、郊外や地方への移住や複数拠点での居住を考えはじめている。東京では、新型コロナの感染拡大を受けて緊急事態宣言が出ていた2020年5月以降、わずかではあるものの人口が転出超過の状態にある。

都心を避け、郊外や地方、ネットに商機を見出す
商業施設のテナントにおいても、売上げの落ち込みが激しい都心物件を避け、ネット販売の強化を行なう一方で、郊外や地方への出店に力を入れていくことを検討しはじめている。そもそも、都心に出店する魅力は、「感度の高い消費者の存在」「トラフィックの多さ」「アフター5というライフスタイル」「都心そのものが観光地であること」「都心にあることでの発信力が注目される」という点だった。
それがコロナによって、感度の高い消費者は去り、トラフィックは減少し、発信力はネットに奪われるという状況になれば、賃料の高さばかりがクローズアップされることになる。都心に複数店舗を展開しているブランドは、顧客がしっかりとついている店に絞り込み、トラフィックのみ(=一見客中心)を期待していた店舗はクローズするという判断を迫られている。
都心における発信性という点についても、見直される傾向にある。
最近では、リアル店舗をもたず、ネットを中心にして共感を生み、Eコマースで販売を行なっていくD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドが増加をみせている。

流行は生まれなくなる?
これまで、流行は感度の高い消費者のいる東京で生まれ、徐々に地方へと伝わっていくというのが常識とされてきた。コロナ禍によって、感度の高い消費者が都心にいるとは限らず、また、テナントも都心を重視する傾向が薄れるという状況では、東京=流行最先端の街ではなくなる可能性もある。むしろ東京が、郊外や地方、ネットで生まれたトレンドを享受するフォロワーの街という存在になるのかもしれない。
それには、地方を拠点とするクリエーターやプロデューサーたちの頑張りももっと必要になる。さらにネットでの発信力もリアルに負けないくらい必要になる。
そもそも、流行が消費を生むという構図にさえ、疑問が投げかけられるようになっている。流行やブームによって、消費の欲求が生まれ、それに応じて生産が拡大する。
しかし、流行はいつか終わるもの。それが終わると過剰な在庫が生まれることになる。この過剰な在庫が大量廃棄につながる。
SDGsの観点では、流行は悪。流行に惑わされずに必要な服やモノだけを買うことが美しい生き方と唱える人までいる。水のように流行や情報も高きから低きに流れるという常識は通用しなくなるといえる。流行だから買うのではなく、個々のこだわりや好きなものの追求が、自然とかたまりとなって、流行を生むという、本来の姿に戻りつつあるのかもしれない。

著者情報

第1ディビジョン マーケティング開発第1グループ 小売業やメーカー向け戦略策定、商業デベロッパー向けの戦略・コンセプト策定・ディレクションなどが主な業務。時代を独自に読み解く視点で執筆・講演も行なう。同社ホームページにて「太田の目」を連載中。オリジナル調査「Key Consumer Indicators by ifs」のディレクターも務める。1963 年生まれの「ハナコ世代」。あいみょんの大ファン。

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