マーケティング戦略アップデート 第8回 世界の変化、未来への行動

共通の未来 Leave no one behind

「世界中を安全に旅ができ、国際交流がいまよりもっと進む社会を、家族や子孫に残していきたい」と願う気持ちは、先進国だけでなく新興国に住む人々も同じようだ。難民としてたどり着くのではなく、もっと自由な意思で移動できる時代がきっとくるはず、と。

4年前の冬、世界の主要都市をプライベートで一人旅する機会があった。キャリアの節目ということもあり、友人やビジネスパートナーとの再会を計画した旅だ。当時はアメリカのトランプ大統領就任、ヨーロッパではブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)が重なり、世界が同時にどんな反応を示しているのかこの目で確かめる目的だった。いま振り返ると「実現したい未来」を探るためだったのかもしれない。

ニューヨークでは、インパクト投資に特化した運用会社でバイスプレジデントに就く知人に会いに行った。社会課題に投資を紐づけた彼の活躍は日本のテレビでも特集が組まれていた。2月だというのに16℃まで暖かくなった前日とは打って変わり、約束の日は大雪となり、マンハッタンにある彼のオフィスもクローズ状態だった。

フロリダのコーストライン、スーパーストーム・サンディ、6番街以北がすべて水に浸かった出来事など、気候変動の話題にはじまり、再生可能エネルギーセクターに対する投資家の注目度、テスラエナジー、座礁資産となるであろう環境負荷の大きい資源など6時間にわたり熱く意見を交わした。

投資が集まる企業に共通する姿勢は道義的責任を超え、すでに競争戦略の一環としてパリ協定のゴールを捉えており、市民社会が消費で後押しし、さらなる投資が集まる循環となっているとのことだった。

ロサンゼルスではイラク国籍の友人と地元で人気のギリシャ料理店で食事をした。彼はファッション業界では名の知れた存在で、ロンハーマンと並ぶフレッドシーガルファミリーの一員だ。父親がイラク代表のサッカー選手であったため、財を築きアメリカに渡り幼少期から現在に至るまでハリウッドに住んでいる。会った日はお互いの家族やビジネスの近況を交わすも、彼にしては珍しく自国の紛争のことや国籍から今後移動が制約される懸念についても気にかけていた。


成し遂げたい未来 Toward a dream

あれから4年、世界は着実に変化している。

私たちはゆっくりとした進捗には気づき難いものだが、数字を見ると気づかされることがよくある。たとえば、毎日の水や食料調達が安定しないほどの貧困で苦しむ世界の人口はこの20年間で半減している。過去100年で括れば、自然災害で毎年亡くなる人の数は半分になり、5歳までに亡くなる子どもの割合も10分の1になった。環境面では1900年以前はゼロに等しかった自然保護区が占める割合は、2020年では地球陸地総面積の15%に及ぶ。いまではこうした実績データはインターネットで簡単に検索できる。

一方で現在、世界の人口は78億人。2100年にはさらに40億人ふえる予測となっている。この人口を支えるには、多くの資源が必要で、その影響で気候変動が起こり生物多様性の危機も発生している。

「悪いこと」を緩和するための「よいこと」は両立して進む場合がある。複雑に絡み合う因果関係を紐解き、人類と地球がどう共存できるか、私たちは叡智を結集して結びつきを強めようとしている。「社会と経済の両方を見直していこう」といった感じである。

日本国内でもできるだけ環境負荷の少ないものを選択するなど消費のプライオリティシフトもみられる。また環境投資という形でエールを送る方法も動き出している。SDGs目標に沿った課題解決を重視したESGの進化形ともいえるインパクト投資は、アメリカほどではないが国内でも耳にすることがふえた。地球の裏側で奮闘する友人がなんだかとても頼もしく思える。

環境負荷が拡大し変動が起きているのは間違いない。
その理由が自然のサイクルであるとしたら私たちにできることは限られている。しかし原因が私たち人間にあるとしたら何がいまできるであろうか?
みなが幸せか、「成し遂げたい未来」に向け考え行動するのはいまだ。


著者情報

ifs未来研究所 所長代行 アントレプレナーとして事業経験後、現職に就く。 2022年よりifsのシンクタンク組織であるifs未来研究所を継承し、環境・社会・経済を「一体かつ不可分」とした未来型協働解決アプローチを実践する。 74年生まれの団塊ジュニア世代。

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