マーケティング戦略アップデート 第13回 Z 世代は社会問題を意識した観光を求めている

虫の目と鳥の目を意識した1年

この1年ほどの間に、私たちの多くは、これまであまり経験したことのない距離感覚を身につけたのではないか。毎日を平穏無事に過ごすために手洗いや三密を避けるなど一つ一つの行動に集中しつつも、同時に、この社会状況がずっと続いたとき私たちにいったい何が起こるのだろうか、そういう全体を見渡そうとする視点……あたかも虫の目と鳥の目を両方もったように、視界を伸び縮みさせながら暮らす癖をつけたように思う。
「これまであまり経験したことのない距離感覚」と記したが、いわゆるZ世代(1995 ~ 2009年生まれ、年齢幅には諸説あり)と呼ばれる若者たちは、育った社会状況もあってか、自分たちの生き方と社会のありようの両方を、たとえば人類が地球環境に及ぼす影響とそのフィードバックとして日々の生活がどう変わってしまうか、などについて、いわば虫の目と鳥の目の両方から見る視線をコロナ禍以前からもっていた。現在は環境活動家となったスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが、この世代のメンタリティを極端な形ではあるが代表している。
2019年9月、グレタさんが飛行機ではなく船、つまり二酸化炭素の排出を極力抑えて大西洋を横断し、ニューヨークの国連本部で開かれる気候変動に関する会議に出席したことは記憶に新しい。もちろん、環境活動家となったくらいだから、すべてのZ世代が彼女ほどの意識と行動力をもち合わせているわけではない。ただ、大きなムーブメントをつくっていることを考えると、グレタさんの発想を特殊だと言って軽視できないのが世界の状況である。

日本のレジャー産業と世界のZ世代

日本の観光業界が国内市場だけで完結しているのであれば、「そういう考えもあるのか」程度で受け流しても問題ないのかもしれない。しかし、Z世代がいまや世界の消費者の40%を占め、14兆円の消費力をもっているという事実、そして日本が再び広く海外からの旅行者を受け入れるようになったときに旅行先としてぜひ日本を選んでほしい、と願うのであれば、Z世代の傾向、彼らが消費の際に何を重視しているかを知っておいて損はない※1。
そこで、世界の消費動向を分析するイギリスのトレンド予測企業であるWGSNより、Z世代のツーリズムに対する意識についていくつかのデータをご紹介したい。

● 13歳から25歳の53%は自分が応援する社会問題に取り組むブランドの商品を買い、40%は自分の価値観にそぐわないブランドをボイコットする※2
● 18歳から25歳の世代は経済成長よりも環境保護を重要と考え、世界に影響を与える問題としてテロリズムや貧困よりも気候変動を一番にあげている※3
● Z世代の学生が旅行を考える際の重要な判断ポイントとして、「社会問題への意識が高い国」をあげている※4
● 企業は環境改善に努める義務があると考えるZ世代は80%にのぼり、また旅行会社を選ぶ際には旅行者全体の36%が環境にポジティブなインパクトを与えている会社を選んでいる※5

ここから、Z世代が消費という行為をある種のアクティビズムとして活用していることがわかる。つまり、消費によって意思表示をすることで、社会をより望ましい方向に動かしていく、あるいはそうしたいと多かれ少なかれ願っていることがうかがえる。各国の旅行業界も、ビーチのクリーンアップをアクティビティに加える、プラスチック袋を使わなくても済むようにキャンバス素材のトートバックを贈呈するなど、すでにこうした声に応えはじめている。
コロナ禍が去ってしばらくの間は、旅行ブームによって集客にそれほど苦労しないかもしれない。しかし、長期的な視点で、日本が有するさまざまな観光資源をより持続可能なもの、魅力的なものにすることを目指すのであれば、Z世代のような将来の観光市場の中核となるゲストの感覚を理解し、それに応える哲学や方法をいますぐにでも探しはじめる知恵と覚悟が必要であろう。

出典※1 Insider, 2020
※2 DoSomething,2018
※3 Masdar Gen Z Global Sustainability, 2016
※4 The Holiday Place, 2018
※5 Nielsen, 2018
※2 ~ 5 はイギリスの未来予測企業 WGSN「コンシューマ・インサイト:Z 世代の旅行」レファレンスより

著者情報

伊藤忠ファッションシステム㈱ 第1 ディビジョン マーケティング開発第2グループ  シニアプロジェクトマネジャー インテリア、ファッションのバイイング、マーケティング業務を経て、現在、消費と衣食住の未来予測を発信する英国企業WGSN 日本マーケットを担当。立教大学大学院21 世紀社会デザイン研究科修了。研究領域は消費論、欲望論、アイデンティティ論。ボクササイズと猫が趣味のばなな世代-X 世代。

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