サステナビリティ戦略アップデート
第10回 バリューエクスペリエンスを設計し生活者の行動変容につなげる ifs未来研究所 山下徹也

企業のサステナビリティ活動が、今後大きなうねりになるためには生活者の「行動変容」が不可欠である。
前号ではグローバル企業の事例から、「人の心を動かす」という観点で学べることはないかみてきた。米国のテスラ社とグーグル社を例に上げ、経営ビジョンの重要性や顧客体験の築き方など、企業の無形価値、特にブランディングが行動変容に効いていることを指摘した。また、ウーバー社の事例を、ナッジなどの行動経済学の知見全体を活用しデジタル機能による行動変容を実現したベストプラクティスとして紹介した。
本稿では日本企業がサステナビリティを事業に実装するために「生活者をどう巻き込むか」について一歩踏み込み、行動科学など学術的視点、心理的価値醸成によるブランディング視点の2つの視点から課題を特定するとともに、その解決の方向性を示していく。


■日本企業の国際ルールへの賛同は世界上位
 サステナブル製品やサービスは発展途上


日本のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やSBTi(Science Based Targetsイニシアティブ)への加入企業数、統合報告書の公表企業数は世界上位である。投資家や他のステークホルダーの視点をいち早く捉え対応していることがうかがえる。環境面でのイニシアティブなどへの加入や国際ルールへの賛同など企業経営の観点では一歩先を進んでいる一方で、サステナブルな製品やサービスが収益の主軸になり、事業の成長と社会課題を同時に実現している日本企業はまだ少ない。また人権を中心とした社会面への賛同は諸外国と比較して関心が低い特徴がある


■生活者の関心は高まるも行動に移行せず

環境省のオープンデータによれば、生活者の8割が脱炭素という言葉を認識し、7割以上が消費行動を変える意思をもつ。その一方で具体的消費行動にはまだ結びついていない状況で諸外国と比較しても低位である。その理由として環境負荷の表示のわかりやすさ、価格の問題、本当に環境に良いのか、身近には売っていない、などの課題があると報告されているが、諸外国も価格感度は別として大差ない課題である。これらも重要な課題であるが、本質的な要素は何か、以下にもう少し掘り下げていく。


■行動変容の心理的障壁は何か?

行動経済学や心理学など行動科学の見地から、心理的障壁を距離にたとえると、時間的距離、空間的距離、社会的距離、仮想的距離の4つに分類できるという学説がある。遠い未来のことなのか、地球の裏側のことなのか、自分には関係ないコミュニティのことなのか、起こりうる可能性が低いことなのか、自分と離れたコトには心が動かず行動にもつながらないという考え方である。
また環境心理学分野における行動変容に関する心理的障壁の一つとして、社会規範が影響するという。周囲の行動に流される傾向がある一方で、大多数が未実施のコトには追従しない傾向が強いとされる。
これらのことから、他の身近な関心事と比較すると行動する動機が湧かない理由として、気候変動リスクは認知しているが、日本国内では直接目の当たりにすることや感じる機会が少なく、行動に移している人が周囲に少ないため、自分たちにとってはまだ遠い未来のコトとして捉えているようだ。
このようにサステナブルな社会の実現には個人の行動変容が不可欠であるものの、生まれつき埋め込まれている心の初期設定や生きるなかで培った常識や価値観が心理的障壁になり、小手先の施策では一時的に行動を喚起できても受け手の本質的な心の動機との距離は埋めづらく持続的な変化は期待できないといえる。
ではどうすべきか。生活者が真に受けて心が動かされる価値や体験をビジネスに組み込むことだ。企業と生活者の関係性の築き方などいままさにそのあり方を磨くときだと考えられる。
いまからは事前にプログラミングされた心のクセを突破する要素を紹介する。


■心が動く3つの方向性

①教育と究極のコミュニティ愛
学校教育でもSDGsが授業で扱われるようになった。その影響から、小学生から意識が芽生えており、子どもとの会話から親も関心を高めている話題をよく聞くようになった。親がサステナブルな行動をお手本として示すためにYouTubeをみて勉強したり、身のまわりのものを見直して行動に移したりする傾向がある。ごまかしの効かない相手には自ら学び行動に移すことが必要だ。重要な視点を義務教育がきっかけをつくり、家族が気づかせてくれるのである。
 
②ライフスタイル価値と生活者自身のイメージづくり 
生活消費財や日用品分野では環境配慮コストを商品の販売価格に反映することがむずかしいと言われている。そうした障壁をPRコストをかけずに創業以来ブランディングとファンづくりで解決しているのがアメリカのスーパーマーケット「WHOLE FOODS MARKET」である。オーガニック食材や環境配慮型の日用品を取り扱い、多くの根強いファンと関係を築いている。社員やサプライヤーへのミッションステートメントを店頭に刻印し数十年間ブレることなく経営の強靭性を高めている。数年前にアマゾンに買収された後も同様だ。彼らにしてみるとサステナビリティは差別化ではなく事業の土台であり、本当に良いものだけを顧客に届けること約束している。顧客は心に響くだけでなく、センスやライフスタイルを内面から感じることに反応しているのだと考えられる。
 
③トランスペアレンシー(透明性) 
生産工程が可視化され、環境負荷をどの項目でどれだけ低減するのか、生活者はもっと正確に知りたがっている。たとえば、オーガニックコットンのイメージはさわり心地が良く、肌に優しい生地との印象をもたれていないだろうか。本質的な価値は原材料生産段階で水の量が通常のコットンと比較して約10分の1になることだ。農薬を使用しないことや児童労働への規制や生産者の安全を規定していることにも価値がある。イメージを描きがちな肌触りそのものには因果関係がない。このような情報がもっと周知され、なぜその企業はオーガニックコットンを使用するのか、それによりどんな価値を共有できるのか、想いが伝われば、心理的障壁を一気に突破できるはずである。

3つの共通点は熟慮した結果の内発的な行動であり、サステナブルでありながら楽しさや愛があることだ。行動すること自体が損得や是非を抜きにしてもその人にとって価値があることを生み出せるかにかかっている。
それでは、こうした行動を紐解き、変容を促進するために企業が取り組むべき視点は何か? 一つの答えとしては、「製品の販売をゴールにしないこと」だ。生活者は購入後のほうが重要だからである。たとえばペットボトルを使い捨てることをやめたい層は、自分のセンスにあったボトルを購入し毎日自分で洗う習慣になる。いままでより洗い物や、家から持ち歩くものがふえることは本来手のかかることだが、その行為自体を楽しいものに導いたり、企業側が新たなサービスの接点を設けることで、顧客との関係性構築につながりマネタイズポイントも生まれるはずである。別表は、行動の動機をファネルごとに分析し、企業やブランドが提供する価値や施策が行動変容にどう影響したか、その因子を分析し構造化し、顧客との関係の築き方を再現性のある戦略に落とし込む研究だ。誌面の関係で詳細を割愛するが、興味を抱かれた読者はぜひお気軽に問合せいただきたい。
 
 
 
■最後に 
 
消費者の行動変容に最も大切なのは企業がまず変わることと認識している。企業が少し先回りをして未来をよくする気構えが、受け手に正確に伝わればきっと行動変容につながると考えている。「人々の生活を楽しくし、心を豊かにする」ビジネスをエモーショナルに考えてみても面白いはずだ。
 

著者情報

ifs未来研究所 所長代行 アントレプレナーとして事業経験後、現職に就く。 2022年よりifsのシンクタンク組織であるifs未来研究所を継承し、環境・社会・経済を「一体かつ不可分」とした未来型協働解決アプローチを実践する。 74年生まれの団塊ジュニア世代。

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