サステナビリティ戦略アップデート             第5回 国際動向から読み解く脱炭素化                    ifs未来研究所 山下徹也

ヨーロッパ、アメリカ、中国、それぞれの思惑と動き

本連載のここまで4回では、前半でサステナビリティ経営に向けた基礎情報について、後半では産業構造や社会システムの変革のアプローチとしての新提案「インクルーシブインパクト」とその事例として国内外のファッション業界について展開してきた。ファッション産業は時代の価値観をいち早く表層化する産業であり、生活者接点も多いことから、産業セクターが異なる読者のみなさまの参考になればと考えて解説させていただいた。
第5回となる今回は、環境・社会課題における梃子としての要素が大きい「脱炭素」について、国際動向や日本企業のビジネス機会を織り交ぜ、ファクトをベースにしながら概観していく。


●脱炭素は成長機会
気候変動リスクを低減するため、世界はCO2排出ゼロ、脱炭素化に動き出し、「カーボンニュートラル」という言葉も耳にする機会がふえてきた。気候変動要因は自然のサイクルではなく、市場メカニズムを優先する経済活動にあるとする前提と、そして現在のロジックでは気候変動自体をCO2でしか説明できないことから、世界全体で脱炭素に舵を切ったことがその背景にはある。
企業が人や環境に悪影響を与えてしまう「外部不経済」を抑えるために、脱炭素化を考慮した経営を進めていくことがますます求められている。脱炭素経営に取り組むことによって、経営リスクが低減されるだけでなく、よりポジティブに企業成長のチャンスと捉える考え方も醸成されはじめている。
以下では、環境政策を長期的視点で戦略化しているEUを中心に、国際的なルール形成やターニングポイントを概観していく。まずグローバル動向を把握することによって、みなさまが脱炭素経営に取り組む際のヒントを示せれば幸甚である。

● 環境戦略でイニシアティブを狙うヨーロッパの思惑
2015年のパリ協定で歴史上はじめて、すべての国が温室効果ガス排出削減に取り組むことが約束された。そのイニシアティブを握っているのはEUである。
大まかな捉え方ではあるが、中国が「人工知能」、アメリカが「情報プラットフォーム」でグローバルに覇権を握るなか、EUは長期にわたり「環境政策」を成長戦略の軸として捉えてきた。ヨーロッパにおいて、環境政策が単独分野としてはじめて現われたのは1972年である。当時、世界では、国際連合を中心に、冷戦後の新たな枠組みを確立する機運が高まっていた。そうした背景のもと、経済面での勃興著しいアメリカや日本、中国などに対抗する意識もあり、ヨーロッパは環境面で世界に冠たる存在になろうとしたことがこの時期からうかがえる。

2022年現在、第8次(21〜30年)の段階にある「EU環境行動計画」は、1973年に第1次が開始され、その時点ですでに、環境破壊を未然に防ぎ封じ込めること、生態系の均衡を保つこと、天然資源は理性的な使用に努めることなど、今日の「持続可能な発展」につながる考えの要素が盛り込まれていた。また第4次のタイミングでは欧州共同体(EC)の統合を目的にした「単一欧州議定書(Single European Act 1986)」に、初めて環境に関する規定が採り入れられ、EC環境政策の法的根拠が与えられた。
この環境計画の影響力がより強まったのが2002年からはじまる第6次計画で、加盟国に対しそれ以前の拘束力のない「決議」から、拘束力をもつ「決定」として採択されるようになった。その背景として、アメリカにおける「エンロン事件」や「ワールドコム事件」など不正会計問題が発端となり企業の開示情報に対する信頼度が低下するなか、コーポレートガバナンス強化の必要性が高まったことがあげられる。第6次計画を機に、加盟国が計画の目標達成を厳しく求められることになった結果、ヨーロッパにおける環境法制整備が具体的に進みはじめたと推察される。

環境政策から少し焦点を広げたEU全体の戦略では、第1次EU中期成長戦略(00年「リスボン戦略」)で経済全体を循環型に変容する「サーキュラーエコノミー」が提唱された。その後第2期EU中期成長戦略(10年「欧州2020」)、パリ協定(15年)、第3期(20年「欧州新産業戦略」)構築を経て、パリ協定で批准された30年、50年の目標達成に向けた動きや法制化が一気に加速することになった。
近年では独自の環境政策を推進してきたヨーロッパ以外の各国も、パリ協定を契機にEUの動きと歩調を合わせるような動向もみられる。

● 国境ではなく価値観を重要視するGAFAM
トランプ前大統領によるパリ協定離脱をバイデン現大統領が復帰させるなど、アメリカでは国のトップが誰になるかで方針転換が繰り返されてきた。また各州が法制化を担うため、環境政策分野ではデューデリジェンスにとどまる傾向がみられてきた。
その一方で、アメリカに本社をおくGAFAM(Google、Amazon、Facebook※、Apple、Microsoft)などのグロース企業やそのオーナーは、クライメートテック(気候テック)などの環境企業に莫大な投資を重ねている。国境や国益といった概念ではなく、グローバル共通の課題やステークホルダーと共感する価値観を、脱炭素経営や投資の判断材料としているのである。

● 新脱炭素型シルクロード
中国は温室効果ガス排出量でも脱炭素関連投資でも世界首位である。内需では再生可能エネルギー事業とモビリティをレバレッジポイントとして勝機を見出しており、一方外需では太陽光パネル、EV用バッテリーの輸出において現在世界シェア首位である。
さらに今後は、中国とEUが手を組み、脱炭素分野、AI、IoTを融合させることで、アメリカに対抗する世界最大の経済圏をつくり上げるとも言われている。



日本のチャンスはアジアでの仕組み構築にあり

●脱炭素経営に取り組まないリスク
では、世界の関心はどこに向かっているのか。
グローバルのESG投資の残高は20年時点で3900兆円に達している。名ばかりのESG投資も存在し、一時的な規制強化から成長は過去数年と比較すると鈍化している傾向ではあるが、再生可能エネルギー分野では50年までに最大で130兆ドルもの投資が見込まれている。
長期トレンドの波はこのようなアップダウンを重ねながらも非線形で成長していく特徴があり、投資家は長期的な成長と環境貢献の両立を目指す企業を探している。一方で地球環境を本業で配慮しない企業は、投資対象から除外されるダイベストメントリスクにさらされる可能性がますます高まると考えられる。
新型コロナウイルス感染症やウクライナ紛争、サイバー攻撃による情報操作などボラティリティの高い社会情勢下において、脱炭素社会に自社が適応できないことで起こる業績低下リスクも計測し、経営シナリオに組み込まなくてはならない。

●日本は脱炭素の仕組みを売り
アジア市場で成長する
ここまで国際動向を概観してきたが、日本はどこに進むべきなのか。
日本の温室効果ガス排出量は世界の3・2%を占めており、中国、アメリカ、インド、ロシアに次ぐ第5位である。視点を変えれば約97%が国外で排出されている。
経済の実務化の観点から述べれば、日本はヨーロッパ、アメリカ、中国と覇権争いをするのではなく、脱炭素ビジネスの仕組みを確立し、主に成長するアジア市場において、いかに脱炭素化で貢献できるか、その点にこそ成長、課題解決の双方に勝機があると考えられる。
温室効果ガスを削減する技術、それが生まれるビジネス環境、高品質を支える管理体制、きめ細かなサービス設計、文化的背景、E Q(Emotional Intelligence=心の知能指数)、アジア諸国との信頼関係など、日本のブランド力は脱炭素でイニシアティブを握れる可能性があると筆者は見立てている。現代における最も厄介な脱炭素課題に対し、未来に残る新しい解決策を世界に送り出せるか、日本が自ら意義を見出せるかにかかっている。

※ Facebookは2021年10月にMetaへ社名変更

※上記「サステナビリティ戦略アップデート 第5回」の内容は『月刊レジャー産業資料5月号』 にて掲載
掲載元 / 綜合ユニコム株式会社 : https://www.sogo-unicom.co.jp/leisure/


著者情報

ifs未来研究所 所長代行 アントレプレナーとして事業経験後、現職に就く。 2022年よりifsのシンクタンク組織であるifs未来研究所を継承し、環境・社会・経済を「一体かつ不可分」とした未来型協働解決アプローチを実践する。 74 年生まれの団塊ジュニア世代。

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